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空腹の人の目の前で食べるご飯は美味い

久しぶりの投稿となりました。お待たせして申し訳ありません。

 ナタリーさんを仲間に加えて街を歩く。

 顔を見て話すのは照れ臭いので、ナタリーさんの銀色の髪先を眺めながら声を掛けた。


「実は、このギルテリッジに来るのは初めてでして……街のこととか全然知らなかったので、詳しそうな人と街を歩けると心強いです」

「えっ、そうなんですか?」


 思い返せば、ここに辿り着くまでにあった出来事をナタリーさんに伝える機会なんてなかった。

 そういうわけで、僕が川に流されてこの街に流れ着いたという話をしておく。

 女神ゾーイに出会ったという話は多分信用され無さそうだったので伏せておいた。僕だって、知り合ったばかりの人から「昨日神に出会ってさ~」みたいな話をされれば相手の話を鵜呑みにしないと思う。


「はぁ……モウンツからここまでですか。かなり長距離を流されたみたいですね。帰ることはかなり困難でしょう。日銭稼ぎのためにどうにかスキルを得ようと判断したのも納得です。じゃあ、ついでなのでこの街の案内もしておきましょう」

「ありがとうございます!」


 冒険者カードを作ることが最終目的だったのだが、少し後になってもいいだろう。

 というわけで様々な場所を見て回る事にした。

 冒険者になったらお世話になるであろう武器屋や防具屋、アイテム屋などを眺めながら歩いていると、ゴツイ装備に身を包んだ人たち(主に男)が出入りしているレンガ造りの建物に突き当たった。


「これが冒険者ギルドですよ。この街では三番目に高い建物ですね。一番は勿論我らが神殿で、うちより高い建物を作る事は法で禁じられているんですよ」


 解説してくれるのはありがたいけど、神殿を「うち」呼ばわりするのもどうかと思うのですが……。


「ちなみに、二番目に高い建物は、この国の王が住んでいる宮殿です」


 ナタリーさんが指差す先を見ると、確かにそれっぽい豪華な屋根が見える。

 なるほど。冒険者ギルドというものは、僕みたいな一般人が関わる施設としては最も大きい部類に入るということだろう。神殿は熱心な人じゃないとたまにしか行かないし、王宮なんて平民にとっては無縁のものだ。


「入る前にもう少しこの街について紹介してみましょうか。確か、アウルムさんはこの街に来たばかりで帰る手立てが無いんでしたよね? ならば、この宿屋街もチェックしておいた方がいいですよ。特に夕方以降は混みやすいので、早めの時間帯に良い宿を押さえておくべきですね」


 ナタリーさんが親切に今夜の宿のことを説明し始めると、僕の中で花水はなみずさんが騒ぎ始めた。


(女子が自ら今晩の宿について説明してくれるとか……この神官、完全に誘ってやがる! 脈あり! 勝ったな、ガハハ!)


 やけにテンションが高いけど、彼は何に勝利したのだろうか……。

 あっさりと宿屋街を通り抜けると、通りから良い香りが漂ってきた。どうやら屋台のようなものが幾つかあるらしい。

 他にも、食事処のようなものが散見される。

 それらを眺めていると、急にお腹が締め付けられるような感覚がした。


「朝から何も食べてなかったからお腹減ったなぁ。ナタリーさんも何か食べる?」

「えっ、そんな……私はいいですよ。そもそも、私たち神官は皆さまからのお布施で生計を立てているので、自由に使えるお金を持っていませんし……」


 へぇ、そうなのか。そんなナタリーさんの前で堂々とご飯を食べるのは憚られるなぁ……と思っていたら、花水さんが僕の身体を無理矢理動かし始めた。


(飯食うぞ、飯!)

(ええ!? でも僕だけが食べるわけには……)

(お前だけのぼっち飯じゃねぇよ、俺も食うんだよ!)

(それ、実質一人なのでは……?)


 しかし、どれだけ反論しても、生物として空腹には抗いがたく、僕は店の方にフラフラと移動してしまった。

 串に刺さっている肉を焼いて売っている店主に声を掛ける。


「あの、これ5本下さい」

「おう、1本銅貨2枚だ」

「あー、金貨しかないんですけど、いいですか?」


 店主は一瞬訝し気な視線を送って来たが、僕の渡した金貨を見て渋々お釣りの計算を始めた。僕も「金貨しか持ってない」と言い始める奴を前にしたら怪しむはずなのでしょうがない。


「ほらよ、先にお釣り……そして、商品だ。まいどあり!」


 お釣りをポケットの中に仕舞い、串焼き肉を両手に持ってナタリーさんの方に戻る。


「ごめんね、突然買い物に行っちゃって……」

「え、いや、まあそろそろお昼ですし」


 やんわりと言葉を返してくれるナタリーさんの視線は、僕の手元に釘付けになっていた。

 ナタリーさんの喉がゴクリと鳴っている。


「え、ええと……」


 1本あげようか、と尋ねようと思って口を開けると、僕の意思とは裏腹に肉が口の中に押し込まれた。

 完全に花水さんの仕業である。どれだけお腹空いてたんだこの人……。

 しかしながら、噛めば肉汁が出て来て、思わず味に引き込まれていく。シンプルな味付けだけど、それ故に5本食べても飽きない。

 昔は全然お金を持っていなかったから、買い食いすることなんてほとんど無かった。だから、こういう店の食事の美味しさを全然知らなかったけど、金さえあればこんなにおいしいものが簡単に買えるのか……。


「あっ、いいなぁ。美味しそう……」


 と呟いているナタリーさんの声が聞こえて来た。僕は1本ぐらいあげようと思っていたのだが、何故か花水さんが阻んで来る。


(どうしてあげないんですか? お金に余裕はあるでしょう?)

(いや、この肉固いしあんまり味しないし……。だから一番のスパイスで味を補強しようと思ってね)


(え? この肉おいしいですよ? それにしても一番のスパイスって何ですか?)

(決まっているだろう? 相手が持っていないものを持っている優越感。ナタリーの、良い物食べているなぁという視線を受けて、ようやく俺は良い物を食べている、と考えることが出来るってわけよ)


(えぇ……普通に美味しいと思いますけどね)

(はぁ……これだから異世界は……異世界グルメものが流行る理由も分からなくはないな)


(何ですか、それ?)

(いや、こっちの話だ。ちゃんと食え)


 肉と花水さんとの対話につい夢中になって、無言のまますっかり完食してしまった。

 隣を見ると、ナタリーさんが軽くお腹を押さえながら立っていた。


「あっ、ごめんね。ナタリーさんは昼ご飯どうする? 神殿で食べるなら一旦戻るけど」

「そうですね……申し訳ありませんが、一度戻りましょう」



 神殿に短時間で戻るために、薄暗い路地裏を歩いていると、背後から声がした。


「よぉ、お二人さん。ちょいと俺らと遊んでいかないか?」




次回もよろしくお願いします。

感想や評価をいただけると励みになります。

次回は多分、11月の中盤ぐらいですかね。この時期……ここから数ヶ月かなり忙しくなると思われるので、更新ペースが少し遅くなります。それでも2週に1回ぐらいは、と思っています。頑張ります。

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