美少女神官の萌え袖の下
色々忙しくて久々の更新になりました。
呆然とした表情をお爺さんたちに向けると、
「規約的には1人1回のところを、ここにいる全員が試すというサービスまでしているのだからこれ以上は諦めてくれ」
という弁明をされた。
そんな……僕は冒険者になれないのだろうか。僕が途方に暮れていても、花水劇優さんは平常運転だった。
(あの奥にいる女の子可愛いなぁ。おじさんと楽しいことしようや……)
ちょっと気を抜いていると、身体の主導権を握られたのか、勝手に足が動き始めた。
そのまま、奥で控えめに立っていた銀髪ロングヘアの美少女神官の前まで歩く。
少女を含め、神官たちが僕の訝しむような視線を向けてきている。
(花水さん、これどうするつもりですか? もうここまで来たらあなたの責任ですからね)
やけになって自然と厳しめの口調になったが、全然気にしていない様子だった。
(おう、俺に任せとけ)
そして、勝手に口が開き、言葉が紡がれる。
「君、君がやってくれた時は一番何か授かりそうな気がした! お願いだから、もう一回やってくれないか?」
(誰がやっても同じような感じでしたけど、もしかして花水さんはこういう事に詳しいのですか?)
(んなわけねーだろ。クソガキは黙って見てろ!)
何故そんな嘘をつくのか、と花水さんをたしなめようとした時、
(自分、冒険者になりたいんダルォ!? ちょっとぐらい腹括れよ!)
一喝された。こんなに必死そうに僕の夢を応援してくれるのか……見直した。
相手の美少女は困ったように目を伏せ、
「師匠たちも仰った通り、これは一人一回までと決まっているので……それに、あなたにはこの場所の全員が対応するという前代未聞の対応をしたはずですが……」
「それで引き下がれるか! 俺はお前に希望を見出した! なぁ、もう一回チャレンジしてみようよ。師匠超えて見せようよ?」
差し出した手から逃れるように、少女は自分の手を長くて大きい袖の中に隠した。
すると、今まで必死に交渉していた花水さんが奇声を上げ始めた。
(あぁ^~。萌え袖可愛いんじゃ^~)
(な、何ですか、それ?)
答えが返って来るよりも前に眼球がグリンと動いた。視線が神官少女の手元に固定される。正直、目が痛い。
それと同時に、少女は何かを感じ取ったのか、
「ひっ」
と小さく声を上げた。
(あの袖を見よ! 袖の中に手の大半が隠れていて、申し訳程度に指先が覗いている。この仕草こそ萌え袖! ……まあ、手の全体が袖の中に入っている場合も萌え袖と呼ぶらしいが、俺はこちらの指先が少し出ているタイプの方が好きだ!)
少女が目配せをしたのか、周りの男たちが一歩包囲を詰めてきていた。
「諦めきれない心中はお察ししますが、うちのナタリーも困惑しているようですのでそろそろお引き取りください」
その男の声を思い切り無視して、
「そうか。君の名前はナタリーと言うんだね? ナタリー、君には才能がある。ここの有象無象どもには見抜けていないのかもしれないが、俺には分かる。だから、もう一度スキル授受をやってくれ!」
明らかに周囲の男たちが殺気だったように思えた。しかし、流石にすぐに荒事が始まることはなく、穏当な言葉を掛けて来た。
「坊や……お言葉ですが、そろそろお家に帰った方がいいと思うんだよね。親御さんに事情を話してからでも遅くないだろう?」
しかし、花水さんは一顧だにしない。
「ナタリー! ここが君の人生の分かれ道だぞ! こんな胡散臭くて下心丸見えな連中に囲まれて過ごすのか、独立して一流の神官になるのか……君にはこの二つの道しかない! そして、そのどちらを選ぶのかという選択肢も、君自身にしかないんだ! さあ、決断しよう! 賢明に!」
ナタリーはチラリと周囲の男性陣を見回して再び僕の方を向いて黙った。
その間に、男たちがジリジリと詰め寄って来る。
「君、我々に恨みでもあるのか知らないが嘘を吹き込むのは止めていただきたい」
「そうだぞ。ナタリー、こんな神の加護も与えて貰えないような奴の戯言を真に受けては駄目だ」
その言葉に花水さんが大きく溜め息をついた。
「神の加護も与えて貰えないような奴ゥ? 自分らが出来てないことを俺のせいにしないで欲しいんですけど。君らの信仰心ってやつが足りていたら神にちゃんとお願い出来るんじゃないんですか~? おたくらの修行不足を俺のせいにされても困るんですけど?」
ぐぬぬ、と唸りながら男たちが少し腰を落とす。
そして、男の中の一人が、
「お前の信仰心不足のせいでもあるんだよ! それが神殿にスキルを貰いにくる奴の態度かっ!」
と叫びながら飛びかかろうとした瞬間、花水さんが【金遣い】のスキルを使った。
それと同時に、
「ちょっと待って!」
というナタリーさんの叫び声が神殿の一室に響き渡った。
制止の声を受けて、文句を言いながらも男が動きを止める。
その間にも花水さんは【金遣い】を何度も使っているようだが、僕には彼が何をやっているのかイマイチよく分からない。
周りの男たちに言い聞かせるようにゆっくりとナタリーさんが口を開いた。
「私、もう一度やります。やりたいです」
周囲からざわめきが起こる。
長老っぽい白髭の爺さんが代表して、
「ナタリーの意思は尊重したいが、これはルールだからのう。ルールには例外がつきものじゃが、それにしたってこのような信仰心のないような男を特例として認めるわけにはいかぬ」
ナタリーさんが、ふっと目を伏せた。
しかし、その重い空気を跳ね飛ばすように花水さんが高笑いを始めた。
「フハハハハハ! 信仰心がない? ならば見せてやろう!」
ざわつく男たちを見ながら、花水さんがポケットから一枚の金貨を取り出して掲げる。
何故金貨を取り出したのだろうか。しかし、その黄金の輝きは、陽の光によって照らし出されている神像よりも頼もしく見えた。
「この金貨に刻まれているものは何だ?」
その神殿っぽいイラストを見ながら……いや、一部の人たちは見ることもなく、
「我らの神殿だな」
「神殿ですね……」
などとまばらに答えた。
小さな声で呻くように語る男たちに対して、花水さんは朗々と告げる。
「その通り! つまり、この金貨を献上することこそが神への信仰心! ならば、我が奇跡を見よ……ナタリー!」
大声で名前を呼ばれたナタリーさんの肩が震えた。
この場にいる人全員の視線が集まる。
……一体、花水さんは何をしたんだ?
ナタリーさんが恐る恐る腕を前に突き出しながら、
「私の袖の中に、いつの間にかこのようなものが……」
ナタリーさんが震える指先を袖から離すと、袖の中から大量の金貨が床に零れ落ちた。
「諸君、これを神の奇跡と呼ばずに何と言う? そして、神は君たちではなくナタリーを選んだのだ。これこそが神の啓示というものよ」
男性陣に動揺が走る。
「な、何だこれは……」
「有り得ない、有り得ないぞ!」
その様子を敢えて無視しつつ、
「俺はこの金貨から神の啓示を受け取った! ナタリーはスキル授受を行うべきである、と!」
男たちが言葉に詰まる。
数秒経って、
「た、確かにそのようなメッセージにも思えるが……何故、君はこのようなことを見抜くことが出来たのだ?」
「そ、そうだぞ! ありえない! 俺はちゃんとナタリーのことを見ていたから断言できるが、あの袖の中から突然金貨が出て来るなど、誰が予想出来ると言うのだ!」
あくまで花水さんは冷ややかに応じる。
「これが信仰心の賜物ですが、何か?」
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