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それからの僕たち

色々忙しかったので投稿がかなり遅れて申し訳ありませんでした。

 鎧の中に閉じ込められた兵士をつれて、都の中央に移動する。

 敵国の兵士たちが待ち構えていたが、人質を見せると攻撃の手をやめた。


「た、頼むからこの人たちに危害を加えないでくれ! 俺が殺されてしまう!」


 演技が上手いのか、それなりに地位のある人なのかしらないが、人質の言う通り、敵兵は大人しくそのまま通してくれた。

 多くの貴族っぽい人たちが、敵兵の監視下に置かれていた。

 僕たち……特に、騎士たちを見て顔色が少し明るくなる。

 だが、まずは敵兵をどうにかしなければならない。


「私は情け深いから、一応事情を聴いておこう。君、分隊隊長なのにどうしてそんなザマなんだ?」


 この人質、分隊の隊長だったのか。


「動こうにも、謎の力で鎧を固定されてしまいまして……」


 鎧の中で必死に身体を動かしている音が響く。

 サラッと種明かしされてしまったが……まあいいか。


「僕はこれ以上の戦闘を望んでいません。皆さんも武器を下ろして、平和的に解決しましょう」


 敵兵が貴族たちの方を振り向き、


「おい。この少年に見覚えのあるやつはいるか?」


 しかし、沈黙しか生まれない。それもそのはず。僕は遠くの村から川で流されて来た少年に過ぎないので、貴族とは全く面識がないからだ。


「何者だ。名乗れ」

「アウルムです。色々あって良い感じのスキルを貰えた普通の市民ですね」

「普通の市民が何の用だ?」

「だから、街を平和にしてくださいと言いに来ただけです。ちょっとダンジョンに潜っている間にこんな感じになっちゃっていて驚きですよ」


 敵の兵士たちがざわつき始める。


「何を言っているんだ? 大体、こんな少年如きに何が出来るというのか。平和の使者でも気取っているみたいだが、どうせ後ろに控えている騎士どもの差し金さ。メイジ隊、放て!」


 一応平和を主張している立場なので、人質を盾にすることはせず、自分の背後に移動させた。魔法に対する防御能力を格段に引き上げたお守り(ただの金属塊)のおかげで僕の近くに来た魔法が自動的に消滅していく。

 爆風が晴れて、


「な、何ィ?」

「危ないですね。この人質の人まで巻き添えになるところでしたよ?」


 しかし、僕の言葉を聞いているようには見えなかった。


「くそっ、やっちまえ!」


 周りを見たところ、皆鎧で身を固めていたので、特に問題なく戦えそうだった。

 殴られる前に鎧に触れて、相手の身体を固定していく。

 数分も経てば、


「えっと、これで平和的解決ってことで良いですか?」

「な、何故だ……? 何故身体が動かない?」

「目の付け所が違いますよ。身体はちゃんと動いているでしょ? ま、それはさておき、話を進めましょう」


 相手のリーダーっぽい人たちと話して、街の中にいた他の敵兵たちを集めて降伏させた。

 鎧の硬直は解かずに元の国にお返しする。

 その手続きを行っている間に、貴族っぽい人たちから縁談の話を次々と持ち掛けられた。

 隣で話を聞いていたナタリーさんが微笑む。


「アウルム君、せっかくの機会なのだから、私のことは気にせず、良い人を探してみたらどう?」

「うーん、でも何か違う気がするんだよ。正直な所、相手よりもこっちの方がお金持ってるはずだから、黙々と従うのは釈然としないというか……」

「えっ、そうなの?」


 ナタリーさんの疑問を軽く流す。

 その間に花水はなみずさんが声を掛けて来た。


(おいおい、貴族のカワイイ娘さんと結婚して平和に生きる道を選ぼうぜ。あの、ちょっと遠くに座ってるピンクの髪の女の子とか良いなぁ。婚活しなくても向こうから引く手あまたな状況になっているということがどれだけ素晴らしいことなのか、十年も経てば身に染みて分かるはずだから……)


 一部の単語はよく分からないが、言わんとしていることは理解出来る気がする。

 しかし、


(でも、貴族の縁談に乗るってことは、簡単に言えば、あの小太りのおじさんを「お義父さん」と呼んでヘコヘコ頭を下げなきゃいけなくなるってことですよ? お金目当てに結婚するならともかく、こっちがお金持ってるなら必要ないですよね?)

(むむ……言われてみればそうだな。それに、一日中イチャイチャするのも厳しそうだな。監視が厳しそうということに加え、恋愛結婚じゃないから相手が俺を一日中オギャらせてくれるかどうか怪しいぞ)

(オ、オギャ……?)


 何言ってんだこの人。


(しかし、貴族と言えば多くのメイドを抱えていてもおかしくない。ポジティブに考えれば、そっち方面に手を出していくのもアリだ!)

(そこで無駄にポジティブにならないでくださいよ。あのおじさんたちに小言をチクチク言われ続けそうな生活を送りたいんですか?)

(いやまあ、送りたいか送りたくないかと聞かれたら、そりゃあ送りたくないけど)


 花水さんを丸め込むことが出来たと思うので、ナタリーさんとの会話に戻る。


「この場を上手く纏める方法を思いついたので協力してもらってもいいかな?」

「いいけど、何をやればいいの?」


 概要を説明して、貴族の人たちとの会話に戻る。

 会話をある程度続けたところで、ナタリーさんがおずおずと言葉を挟む。


「あ、あの……アウルム君は今ここで縁談を結ぶよりも、貴族としての階級を与えるだけの方がよい、との神様からのお告げが下りまして……そうすればこの都市全体にも利益があるとのことです」


 もちろん、完全なでっち上げだが、神官の服を着ているナタリーさんが言うことによって多少の説得力を醸し出すことが出来る。

 足りない部分は、「都市全体の利益」という言葉で補う。貴族連中を最後に動かすのは、やはり利益の有無だろう。相手の貴族のプロフィールが一人一人分かっていれば、個別に都合のいい嘘を吹き込むのだが、今回はそういうことも出来ないので抽象的な言葉で誤魔化した。


(ま、お告げや神託ってのは往々にして抽象的なものだからな。それに、実際問題、この都市を救ったという事実はあるわけだし)


 作戦立案を手助けしてくれた花水さんが得意気に笑う。

 貴族たちが縁談を切り上げて話し合いを始めた。僕としては階級自体には特に拘りがなく、縁談さえなくなれば階級を貰えなくても構わないという認識なので、この時点で勝ったも同然である。


「縁談よりも階級か……どうする?」

「しかし、あの謎の力を鑑みれば、この街に居て貰った方が助かる可能性が高いのも事実では?」

「階級だけを与えてもこの街に残る保証はないが……そもそもどこの家の生まれなのかも分からないのだぞ?」


 何故か生まれた場所や両親のことなどを聞かれた。正直に答えると驚かれたが、かなり遠い村の出身なので仕方ない。


「完全な平民なのにあんな力を持っていたとは……」

「ううむ、階級の件は少し待ってくれ」


 どっちにしてもこの場から解放されるのならいいや、というわけで挨拶をして帰る。

 ナタリーさんと共に宿屋に入ってから、


「そう言えば次に会う約束をし忘れたから、階級の件は自然消滅しそうだな」

「アウルム君は階級とか関係なく生きていけそうだけど、これからどうするの?」

「何もしなくても生きていけるだけのお金を持っている自信はあるけど、何もしないというのもなぁ……」


 ナタリーさんが引き気味に呟く。


「えっ、そんなにお金あるの?」

「だからまあ有り余るお金を使って何かやりたいな~とか思わなくもないですね」

「下手にチャレンジして失敗したらどうするの?」

「ちょっとやそっとの失敗で無くなるような額じゃないから大丈夫だよ。それに、たとえ貯蓄が無くなったとしても、冒険者みたいなことをして稼げるだけの能力はあるでしょ?」


 少し会話が途切れて、


「じゃ、じゃあ、貴族になるのを通り越して、王になれば?」


 王か……。自分が玉座に座っている姿を脳裏に思い描く。

 もちろん、玉座の周りには大勢の人たちが控えていて、僕の命令を待っているはずだ。

 うーん、何だか生き辛そうだな。


(そうだぞ。王様なんかやめておけ。暗殺されるリスクも増えるだけで、しかも自分の私財も国の為に使わなきゃならなくなる。社長とかの方がまだマシだ)


 言われてみればあまりメリットがないような気もする。土地や人民を手に入れたとして、それで何かやりたいことがあるかと聞かれても、特にない。

 利益のないことをわざわざやる必要もないだろう。


「王はちょっとやる気にならないから、何かお店のようなものでもやろうかな」

「お店……悪くないわね。でも、色んなお店との競争に勝たなきゃならなくなるわね」

「競争? ん? そういえば……僕には、この街の色んな武器屋や防具屋の人たちを円満に辞めさせた実績があるけど」

「えっ、ある時期から一斉に武器屋とかが閉まったのってもしかしてアウルム君の仕業だったの?」

「仕業って……。僕は単にお金を渡して商品を買い占めただけだよ?」

「何軒も?」


 頷いてから肩を竦める。


「この街の店だけなんだけど」

「何で少し申し訳なさそうなの……」


 さて、ここで問題になるのは何の店をやるかということだ。


「何の仕事をしようかな。やっぱり、王よりも大きな仕事がいいよね。国境とか関係なく活動出来るのが商人の強みなわけだし」

「それぐらいの規模になると、仮に私が協力するとしても、二人では厳しいんじゃない?」

(そこで現代知識TUEEEの出番なんだよな。まあ人手を集めるのは任せておきな)


 花水さんが何故かやる気になったので、仕事を始めることになった。

 僕は有り余るお金で奴隷を買うのかと思っていたのだが、花水さんの戦略は違っていた。

 奴隷に身を落とす一歩手前の人々を救済して、生活を保障する代わりにほぼ賃金無しで働かせるというものだったのだ。こういう貧しい人たちはどこの都市にもいるので、僕たちは行く先々で人手を確保してビジネスを拡大した。

 人件費が少なくて済み、競合他社よりも薄利多売の勝負に持ち込みやすい僕たちの仕事は、価格革命だとか価格破壊だとか言われて伝説的に語られていった。


 そして、集めたお金で僕たちは素晴らしい生活を送ったけど、他の業者たちが僕たちの手法を無理矢理真似して、社会は随分混乱したらしいよ。


10万字ぐらい書いたので分量的に区切りがよく、また、今年も冬や春が忙しいことが確定しているため、やや唐突ですが今回で完結ということにさせていただきたいと思います。

今作はプロットや設定無しの手癖オンリーで書いているので、完結のさせ方にも悩みました。この構成は公募には使い回せないやつですね……。

「手癖だけで書くとヒロイン周りの描写が弱いな」と思わされたり、「投稿間隔かなり開いているのに、タイトルのインパクトがあればまあまあ読んで貰えるのか」と感じさせられたりしました。これはこれで学ぶことの多い作品だったと思います。

読了ありがとうございました。また何かの作品でお会い出来たら幸いです(冬や春に大型の用事がなければ毎日投稿でもう少し長めの作品に取り組めるだろうと考えている)。

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