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ダンジョンを抜けてもまだ混沌が広がっていた

9月2回目の更新です。

 久々に新鮮な空気を吸えた。

 ダンジョンの中の湿度高めな空気とは違う。


(久々のシャバの空気は……言うほど爽やかでもないな)


 花水はなみずさんの反応通り、ダンジョンの外は穏やかではなかった。

 街のあちこちから黒い煙が上がっている。


「これ、神殿を襲っていた人たちの仕業なのかな?」


 ナタリーさんが神殿の方向を心配そうに見遣った。


「うちの神殿はそこまで柔じゃないはずだけど……」


 騎士たちも呆然として城の方を見ていた。やはり火の手が上がっているように見える。

 ほどなくして、見慣れない鎧を着た騎士たちがやって来た。

 ダンジョンの中で出会った騎士たちとは階級が違う人たちなのかもしれない、と思っていたが、どうも違うらしい。

 向こうもこっちも戦闘準備を取り始めた。

 黒い鎧に身を包んだ相手が余裕そうな声音で話しかけてきた。


「こんなところにもまだ残党がいたのか。まあ、見たところダンジョン上がりでお疲れのようだ。降伏するなら丁寧にもてなしてやるぞ。特にそこの神官様とかな」


 イラッとした様子で、


「降伏してもろくなことがなさそうね。アウルム君、ここは徹底抗戦といきましょう」


 しかし、簡単に請け負うわけにもいかない。


「ええ……戦う必要あるのかな? 同じ人間だよ?」

「ほほう。そこの一般人は中々見る目があるようだ」

「ほら、相手の人も褒めてくれている」


 平和路線を訴えようとしたのだが、逆効果を生んでしまったらしい。


「少年。ダンジョンで助けてもらったから忠告しておくが、彼らに協力してもいいことは何一つないぞ。奴らは隣国の野郎どもだ。連中は野蛮なことで有名だからな。捕まったらどうなるか分からんぞ」

「でも、ここを切り抜けてもビジョンが浮かんでこないんですよね。守るべきものが既に無さそうというか……」

「そこの確認は後からでも出来るでしょう? アウルム君、アレはモンスターの一種だと思って、今は覚悟を決めなさい」


 でも、人間相手に争うのはあまり良い気分じゃない。それに、このまま乱戦になれば疲労困憊した人員が多いこちらよりも相手の方が明らかに有利だ。


(あれだけダンジョンを破壊しておいて今更過ぎる話だが、人間を殺すのは抵抗あるよなぁ。鎧で身を固めた連中をどうにかして殺さずに……そうか!)


 花水さんが何かを思いついたらしく、勝手に身体が動き始めた。


「ご忠告ありがとうございます。ようやく目が覚めました。というわけで、お礼代わりに俺がこいつらの相手をしましょう」


 敵味方問わず、ざわつき始める。


「おいおい、その体格で俺らの相手とか絶対無理っしょ」

「正気か? ダンジョンでは変な技を使っていたみたいだが、もしかしてアレをやるつもりか?」


 安心させるために微笑みかけながら、


「アレは破壊力が高すぎるのでやりません。でも、誰も死なないで済むようにするためには俺が戦うしかないんだよね。皆さんも疲れているみたいだから、俺一人でやります」

「でも、私が挑発されているんだから、私がやらないと……」

「じゃあ、念のために魔法に対する防御だけお願いします。あとは、遠距離攻撃に備えて皆さんの保護もお願いしますね」


 役割を与えると、渋々ながら引き下がった。

 アイテムボックスに鎧と武器を戻して、一歩踏み出す。相手が狼狽える。


「武器も防具も捨てたぞ。頭おかしいんじゃないか?」


 指導者っぽい高そうな鎧を着た人が叫ぶ。


「無抵抗な人間を装って我々の判断力を低下させようとする作戦に違いない。全力で掛かれ!」


 部下に発破をかけているのに自分は来ないのか……。

 ともかく、僕以外の人が狙われないようにそれなりの強さを知らしめなければならない。


「ちょっと痛い思いをするかもしれないけど、我慢してね」


 相手は聞く耳を持たずに剣を振りかぶった。


「お前はそれ以上の痛い目に遭うんだけどな!」


 しかし、剣が降りて来るよりも先に僕の手が相手の鎧に触れた。


「な、何だこれは!」


 相手は必死に動こうとしているようだが、無駄だ。

 もうその鎧の可動部が動くことはない。僕がスキルで固めてあげたのだから。

 種明かしされる前にドンドンやっていく。


「な、なにが起きているんだ……弓矢隊、撃て! 絶対に近寄らせるな!」


 悲痛な叫び声が聞こえて来る。


「アウルム君!」


 だが、弓矢の先端――鏃が金属で出来ている以上、僕の脅威ではない。

 パシャッ、ペシャァ……。

 僕の身体に触れた鏃が液体のようになっていく。


「き、効いてない?」


「何だアイツは……クソ、俺もやられた! 身体が動かん!」

「身体じゃなくて鎧だろ、これ!」

「魔法は使えるぞ! がら空きなんだよ、死ね!」


 首に提げていたペンダントが輝く。

 すると、僕の周囲に来た魔法が霧散した。元は何の変哲もないペンダントなのだが、スキルによって魔法耐性のステータスを上げまくった結果、このような芸当も可能になったというわけである。


「も、もう駄目だ……」


 実際もう抵抗の余地がなくなっている相手グループの最後の一人を無力化した。

 ここから先は騎士の人たちに任せよう。


「この分隊はもう壊滅したようですね。僕は事後処理のやり方とか分からないので、皆さんで有効活用してください」


 騎士たちが近付いて色々な質問を始めた。


「お前ら、何が目的だ?」

「制圧だよ。上からの命令でな。お前らの国が何故か突然ガタガタになったと聞いたから上の連中は大喜びよ。だが実際、略奪しようにも街に何もねぇ。クソッたれだぜ」

「街はまだ復興されていなかったのか……いや、外から攻められれば復興もクソもないか」

「知らん。こっちだって痛手を被ってんだよ。商人連中はこっちの足元を見ているのか、水や食料をバカみたいに高い値段で売って来やがる。だが、行きの分の食料しか持たされてなかったから仕方ねぇ」


 花水さんが苦笑を浮かべる。


(商魂たくましいな。……違うか。俺たちと取り引きをしていた頃からこうなるのを見据えていたわけだ)


 ナタリーさんが一歩踏み出し、


「それより、街の方はどうなっているの? 制圧に来たと言っていたのなら、当然街の様子を知っているんでしょう?」


 相手は疲れたような声で答えた。


「この街何かがおかしいぜ? 頭イカれた連中が騒いでいたからそいつらを鎮圧したら歓迎してくれたぐらいだ」

「その連中って、呪われているような雰囲気の武器を持ってた?」

「知っているのか? そいつらだよ。変な武器を握った瞬間暴れ始めるんだよ。素人には変わりねぇが、数が多いと厄介だ」


 僕たちが神殿に行った時に見かけた人たちだろう。この人たちが倒してくれたのか。ありがたい。

 ナタリーさんが一歩引くと、再び騎士たちが質問した。


「王族たちはどうなっている? 無事か?」

「あぁ、特に抵抗されなかったからな」

「そうか。ところで、お前らの軍はどれだけの戦力でここに来たんだ?」

「そいつは言えないね」


 それを聞いて、騎士たちが僕の方を見た。


「少年、こいつらに仕掛けた小細工は、どれぐらい時が経てば治るんだ?」

「僕が治す意思を持って触るまではこのままですかね」

「ありがとう。じゃあ、こいつらは一旦ここに放置して我々は城の方に戻ろうか。人質にしようにも重すぎるからな。頑張って誰かに助けて貰えよ。ま、その固い鎧を破壊する過程でお前らの身体がどうなるかは知らないが……」

「ま、待ってくれ! 助けてくれ!」


 相手の悲鳴を気にすることなく、歩いて行く。

 割と遠くまで行ったところで、


「つ、連れて行ってくれたら、君たちに有利になるように働きかけてあげるから!」


 チラリとアイコンタクトを交わし、一人だけ回収した。

 一応釘を刺しておく。


「ちゃんと仕事してくださいよ。その気になればいつでもこの鎧をペシャンコに出来るので」

「ひぃっ! ちゃんとやります! やるので殺さないで!」


 そういうわけで僕たちは城の方に向かった。


次回もよろしくお願い致します。そろそろ完結させたいところ……。

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