神殿からスキルを貰おう。
大変長らくお待たせしました!
白い壁で、他の建物よりも一回り大きい。僕を助けてくれた男の人に聞いていた通りだ。
これが神殿。様々な催事に用いたり、神に感謝や祈りを捧げたりすることが多いけれど、お金を払えばスキルを1人1回まで授けてくれる場所でもある。
冒険者になるためには、神殿からスキルを貰うことが最低条件なので、まずはここをクリアしなければならない。木製の扉を開けて中に入る。
天井がとても高く、広大に感じる。その天井には何か絵が描かれていた。
周囲を見渡せば、様々な神と思われる像が置かれている。像の前で跪いている人も何人か見受けられた。
僕の住んでいたモウンツにも神殿はあるけど、こんなに大きくはない。流石大都市ギルテリッジだ。
近くにいた神官と思しき女性に声を掛ける。
「あの……スキルを授けていただきたいのですが、どうすればいいでしょうか」
「スキル授受ですね。でしたら、こちらにどうぞ」
案内された場所に向かい、指定された場所に座る。
「スキル授受は1人1回しか出来ません。まずは名前と年齢をお聞かせください」
「名前はアウルム、年齢は16です」
神官のような人が、手元に何か板状のものを出現させて操作をしている。
数秒待っていると、相手が顔を上げた。そして、その板状のものをこちらに向けて来た。
「次に、この部分に右手の親指を載せてください」
言われた通りにする。
数秒その状態を保っていると、
「もう指を離しても大丈夫ですよ」
と言われた。アレは一体何なのだろうか。
(ふむ……アレもこの女性のスキルなのだろうが、データベースに指紋認証とは中々に中世ヨーロッパ的世界観から乖離した技術よな)
花水劇優さんが何か言っているが取りあえず無視しておくことにする。独り言をブツブツ呟いている変な奴に思われたくないからだ。
(無視しないで! 会話出来るからね? 俺がこうして応答している時点で会話のキャッチボール成功しているでしょ?)
むむ……確かに、実際に声に出さなくても会話出来ているのかもしれない。しかし、今はとにかく無視だ。
僕が花水劇優さんと心の中で話している間に、何かの作業を終えたらしき女性が声を掛けて来た。
「確かに、あなたは今までにスキル授受を受けたことがないようですね。今回、ここでスキル授受をなされると、これから先二度と出来なくなるので注意してください。また、授けられるスキルは神の気まぐれなので、どのようなスキルであったとしても我々は責任を負いません。それでもよろしいでしょうか」
女性が念を押すように、
「これまでの説明で何か質問などはありませんか?」
「はい。特にありません」
「それでは、スキル授受に必要な代金として、金貨10枚を奉納してください」
金貨10枚か……昔の僕なら全然手が出せないほどの金額だ。だけど、今は女神ゾーイから貰った5000兆枚の金貨がある。
目の前でアイテムボックスから直接金貨を出すと怪しまれそうだったので、ポケットから金貨を取り出しているように装う。
一生で1回しか出来ない大事な儀式なので、相手も慎重に1枚1枚確認していく。
「はい。確かに金貨10枚ですね。確認が終わりましたので、こちらに先ほどと同じように右手の親指を押し当ててください」
女性の出している変な板状の物体の指定された場所に右手の親指を押し当てる。
数秒経つと、
「はい、ありがとうございます。スキル授受の準備が整うまで、しばらくお待ちください」
「よろしくお願いします」
やった。これで僕も冒険者の仲間入りだ。
目の前でガッツポーズをするのは少し恥ずかしかったので控えておく。
展示されている像などを見ていると花水劇優さんが話しかけて来た。
(君は何でそんなに冒険者になりたいんだ? 金貨が5000兆枚あれば楽して一生を過ごすことが出来るはずだ。わざわざ死ぬ危険を冒す必要はないんだぞ? お前が死ぬと俺も一蓮托生だから本当にやめて欲しい。いや、そもそもこんなクソガキと一つ蓮の上って運命が気に食わない。来世は東京のカワイイ女子高生がいいって何度も言ったはずなのに、あのクソ駄女神と来たら……!)
物凄い早口だったことと、聞き慣れない言葉が多かったことが相まって、あまり返答する気になれなかった。でも、自分の意思を再確認するためにも1つだけは答えよう。
冒険者は、僕の昔からの夢だったんだ。貧しい農民と違って、冒険者は稼ぎがいいし、カッコいい。稼ぎの面は金貨5000兆枚で補えるとしても、モンスターたちと命懸けで戦う人間のカッコよさはお金では買えない。それに、お金だけ持っていても、退屈な人生を送っていては面白くない。
(え……? 金の力で大量に愛人作ってダラダラ暮らす方が絶対に楽しいと思うけど?)
駄目だ、このオッサン……これ以上ないダメ人間にまで堕落している。
(酷い言われようだが、危険を避けて出来るだけ楽に過ごす方がどう考えても合理的、ひいては人間的だと思うがね。むしろ、チート能力貰ったし、お金も一杯あるから冒険者しようって考え方のほうがサイコパスだぞ)
いや、冒険者のカッコよさはお金じゃ買えないものだから。
そう言うと、今までに感じた事のないプレッシャーが乗せられた短い言葉が返って来た。
(命も金じゃ買えねーんだぞ、クソガキ)
清々しいまでの正論で、思わず黙ってしまう。
しかし、頑張れば安全に立ち回れる冒険者になれるはずだ。だから諦めない。
僕は田舎者だから、冒険者になって都会で暮らしたいんだ。
(まあ、都会で暮らすことには俺も賛成だし、幸いチートスキルを既に貰っているから、これ以上グチグチ言うのはやめておくか)
花水劇優さんも納得してもらったところで、お爺さんが声を掛けて来た。
「アウルム君だね? スキル授受の儀式を行うからついて来なさい」
おぉ、ついにこの時間が来た。
黙ってお爺さんの後を追う。普段は関係者以外立ち入り禁止のような雰囲気を放っている部屋に通された。小さい部屋だが、それ故に神秘的な空気が濃くなっているように感じる。
「ここに跪いて、神に祈りなさい」
指定された場所へ行き、神の像に向かって小さく呟く。
「神様……僕にスキルを授けて、僕を立派な冒険者にしてください。よろしくお願いします」
僕が呟いている間、お爺さんは何か魔法のようなものを使っていた。
待ち続けること5分。若干お爺さんの息が荒くなっている気がする。
10分経過。スキル授受って意外と時間掛かるんだなぁ。
15分が経つと、ついにお爺さんから声を掛けられた。
「アウルム君。申し訳ないが、今日のワシは調子が悪いみたいじゃ。代わりの者を呼んでくるから待っておいてくれ」
は? 調子悪いと出来ないものなの?
(ジジイはよ仕事辞めーや)
口は悪いが、花水劇優さんに同意したくなった。
代わりに、最初に対応してもらった女性を含め、多くの神官たちが集まって来た。これだけの人が僕の所に集まって来ていても、他の仕事は大丈夫なのだろうか。
そして、代わる代わる先ほどのお爺さんが使っていたような魔法を使い始めたけど、みんな口を揃えて
「今日は調子が悪い」と言い始めた。
お通夜のような空気を放っている神官たちが目を合わせ、代表してお爺さんが結論を述べた。
「ここには国一番の神官もいるが……君にスキルを施すことは出来なかった。ここにいる全員が試したのに無理だったので、君はこれから先、スキルを受けることは出来ない」
……は?
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