ダンジョンを犠牲に休暇を召喚!
9月1回目の更新です。ダラダラ更新していたので投稿開始からほぼ1年経ちそうという恐怖……。
意気揚々とダンジョンの奥に向かって進んで行く。
他の騎士たちがこっちを見るよりも前にダンジョンの敵を絶滅させる勢いで戦わなければならない。モンスターたちがいなくなれば僕たちも地上に帰ることが出来るのだから。
「ちょっと、どこ行くつもり?」
ナタリーさんが心配そうに聞いてきたので、心配させないように平静を装って答える。
「早く地上に帰るためにモンスターを減らそうと思ってね。少し本気を出してみるよ」
「本気って……まあ、あなたはもう何をやってもおかしくないイメージがついちゃってるけど」
良いのか悪いのか分かりにくくて微妙なコメントだ。
奥に進むとモンスターの第二波が見えた。
迎え撃つために、さっき貰った救援物資の武具をアイテムボックスから取り出す。
大きめの金属鎧を手に持って、スキルを使って変化させる。
原形もなくなって、薄く長い金属の塊と化した防具がモンスターの群れに突き刺さっていく。しかし、モンスターの勢いはまだ止まらない。
「やっぱり、これ1つでは厳しいか……。でも、在庫量を舐めるな!」
どうせさっき貰ったばかりのものなので遠慮は要らない。
同じような鎧を同様に変化させてモンスターの壁に食い込ませていく。
体力が減ったモンスターから徐々に消えていくが、次から次へとモンスターが参戦してくるので見かけの上ではあまり減っていないように見える。
後ろからドンドン押されて細い金属に身体を食い込まされる先頭集団が可哀想過ぎる……。
こちらは対抗策としてドンドン金属の数を増やしていく。もちろん、手数が増えれば与えるダメージ量も増える。それにしても、モンスターの圧力が強くて物理的に押されている。
(コミケの混んでる島付近より辛いな……)
花水さんがちょっと引いた様子で呟く。
(それがどのレベルなのかは知りませんが、モンスターの突進の方が強いでしょう)
(いやー、どうなんだろうな。あそこ戦場だし)
戦闘とかが無い世界から来たと聞いていたのに、何やら物騒なことも経験しているようだった。
「このままだと手早く済ませるのは難しそうだなぁ……」
「あっ、じゃあ、この前神殿で使っていたやつをやってみたら?」
何だったっけ、と記憶を手繰っていると、花水さんの方が先に反応した。
(この前神殿で使ったというと……武具の金属を解体する過程に生じたエネルギーで壁を吹っ飛ばしたアレか。環境汚染のリスクとかも考えられるが、俺たちが再びこのダンジョンに来ることもほとんどないはずだから遠慮せずにぶち込んでも良さそうだな)
(環境汚染? うーん、よく分かんないなぁ。でも、あの技は強力だからこの状況を打開する手立てにはなる)
(でも、反動とか来ると怖いから防御用の魔法を頼んだ方が良くないか?)
花水さんの言う通りかもしれない。
「ナタリーさん。例の技を使う予定なんだけど、爆風とかが起きそうだから、一応防御用の魔法を張ってくれないかな?」
「はい!」
魔法の壁っぽいものが形成されたのを確認して、防具類を元のサイズに戻す。そのまま、魔物たちが近くに寄って来るのを待った。
鎧を一つ抱え上げて、術式を込め、力任せに投げる。
術式が完成する前にナタリーさんに呼びかける。
「後ろ向いて!」
「えっ、うん」
振り返っても強烈な閃光が眩しく感じられた。一応相手の方に全てのエネルギーが向くように指向性を持たせてはいるものの、それでも多少のものが漏れて来たり、反射してきたりしている。
「全力で張ってるけど、結構重いわね……! 少し面積を減らさないと……ちょっと失礼」
ナタリーさんが密着するほど近付いて来た。
爆風が魔力の壁を叩いてから十数秒。
一定範囲までモンスターが近付いて来たら自動で防御してくれるように剣を握っていたけど、全く剣が動く気配はなかった。
振り返ると、遠くに小さく魔物の群れが見える。しかし、こちらに歩きながらバタバタと倒れていった。
これで少しは安泰だろうか。平和の代償とでも言いたげに、床に広がったドロドロの液状の何かが視覚に飛び込んで主張してくる。焦げ臭い匂いと、沸騰によってボコボコと沸き立ち、煙まで上げている。
戦闘経験が僕よりも多いナタリーさんは、普通に感心したような様子だが、正直なところ僕みたいな素人からすれば直視するのも難しい。
「本当に凄い威力ね」
「あぁ、自分でやっておいてこんなことを言うのもアレだけど、おぞましいほどの威力だね。しかも、鎧一つでこの威力……」
壁や天井も焼け焦げたような跡が見られる。
まだまだ熱そうなので、この先に進むのはやめておいた方が良さそうだ。
「おい、さっきの光は何だ? 何があった?」
「凄い爆音もあったよな……生きているか?」
自分達の戦闘を終わらせた様子の騎士たちが歩いて来た。
僕たちの前で歩みを止める。
「な、何だこの光景……」
僕とナタリーさんの立ち位置を見比べ、僕の方に声を掛けて来た。
「凄い熱気を感じる。まさか……神官様ではなく君がこれを?」
「ええ、まあ。ちょっとした企業秘密ですけど」
企業秘密って何だ、と小声で囁き合う。花水さんが知っていた言葉なので僕も詳しい意味は知らない。まあ、秘密だということさえ伝わればいいのだ。
「見ろ、向こうからモンスターらしき影が来るぞ。あいつ、ダンジョンでもかなり深層にいる種族だな。気を引き締めろ」
「待て、既にかなりのダメージを負っているように見える」
見ると、確かに大きなモンスターがこちらに歩いて来ている。しかし、既に足を引き摺っているように見えた。数歩進んだ後に、地面に倒れ伏した。徐々に身体が崩壊していっている。モンスターの多くはあのように死んだ後にアイテムを落としながら消えていく。
騎士の一人が嬉々として語る。
「アレ、高価に売れるから回収にしておきたいですね」
「あっ、そっちは危険かも……」
数歩踏み出した騎士は、慌てて引き返しに来た。
「足元がすごい温度になっていて、とてもじゃないですけど、取りに行けませんね」
取りに行けないどころか、出現したアイテムまで消滅してしまった。環境に耐えられなかったということだろう。
騎士たちの長っぽい人が顎を撫でながら思案する。
「ううむ……ここから先に行くのは難しそうだな。モンスターの気配もめっきり減ってしまったし、ここらで一旦報告のために帰るのも手ではないだろうか」
考えている間に、
「あの、体調が良く無さそうなのですが、大丈夫ですか?」
「すまん。いきなり気分が悪くなってな……」
「今魔法で緩和しますから、待っていてください」
先ほどアイテムを取ろうとした騎士が体調を崩してしまったらしい。
(ふむ、割と厄介なことをしてしまった気がするな。ま、いっか。ここ、異世界だし。それに、ちゃんと攻撃の方向をコントロール出来たのか、あそこより先に行かなければ直ちに影響はないだろう。第一、モンスターの生態系が崩れても俺らには関係ないっしょ。むしろ危険が減ってメリットしかないとも言える。異世界の一部でも平和にするとか正統派主人公みたいなことをしてしまった。これがチートか……)
花水さんだけが何かを知っているかのようなコメントをしている。何かの言い訳をしているかのようにも見えるが、僕たちは悪いことをしたわけじゃないはずだ。少なくとも僕はそう思っている。
しかしながら、危険な領域があることについては他の人たちにも共有しておくべきだろうと思って、地面に剣で線を引いた。
「ここから先に進むのは少し危険かもしれないと思います。目印を作っておいたので注意してください」
「ありがとう。謎の技だが、これならモンスターたちも簡単には出て来られないはずだ。これ以上進むことも出来なさそうだし、一度地上に戻ろう」
その一言で喝采が起きた。重い鎧を着こんでいるはずなのに、みんな軽い足取りに見える。
上の階で見張りをしていた人たちも連れて、ダンジョンの入り口に立った。
外の光が眩しく、恋しかった外の世界がより一層輝いて見える。新しい朝を迎えたような気分さえした。
さあ、地上はどうなっているのだろうか。
今年も冬場忙しくなりそうなので、10万字を超えた辺りで一旦完結にしたいですね。
あと2,3話ほどお付き合いいただけたら幸いです。
全編通してほぼノープロットで書いているのでどんな結末を迎えるのか気になります(作者のセリフではない)
次回もよろしくお願いします。