表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/31

金遣いが荒い

最近忙しいので今月は週一更新を目安にしています。ご了承ください。

 目が覚めると、全く知らない場所にいた。全然知らない人たちが僕に声を掛けて来る。


「おい、大丈夫かアンタ?」

「どこから来たんだ?」

「名前は何だ?」


 同時に沢山のことを聞かれて困ったが、どうにか1つ1つ答えていく。


「名前はアウルムです。故郷はモウンツですね。川で流されちゃったみたいで……」


 人々がにわかにざわついた。


「モウンツだって? あんなに遠い場所から流されて来たということか……」

「わざわざ田舎から……」

「誰かに流されたんじゃないか?」


 人々の会話から察するまでもなく、豪華な建物が多いことから、ここがモウンツとは全く違うような都市部であるということが分かる。今度はこちらから質問してみよう。


「あの、ここはどこでしょうか?」

「ここはギルテリッジだ。モウンツなんぞとは比べ物にならないほどの大都会だぜ?」


 ギルテリッジ……! 僕は生まれてから今まで一度も来たことのない街だ。父さんや母さんは昔訪れたことがあるみたいだったので、二人の昔話として何度か聞いたことがある。

 そして、僕の夢である冒険者を支援するための冒険者ギルドの大きなものも存在しているらしい。ここからギルテリッジまで戻ることは難しいから、このまま冒険者ギルドを探してどうにか生計を立てる道を考えるしかないだろう。


 ……あれ? 僕はこんなにも両親に対して薄情な人間だっただろうか。

 変な感覚に首を捻りつつ、僕を心配しているのか野次馬根性で集まって来たのかよくわからない周りの人たちに、元気であることをアピールしておく。


「あの、ところでこの辺に神殿はありませんか?」

「あぁ、あっちにあるぜ。目覚めていきなり神殿に行くだなんて、アウルム君、信心深いなぁ。まあ、あそこからここまで流されて助かったってのは、まさに神の御業としか言いようがないからね。早くお礼を言いに行くといい」


 確かに僕が助かったのはゾーイという触れたものを金にすることが出来る女神なんだけど、何故か無理矢理変なおじさんを僕に押し付けて来たので心からお礼をする、という気にはなれない。

 僕が神殿に行くのは、お礼参りのためじゃない。スキルを貰いに行くためだ。

欲張りセットとやらで、何かのスキルを貰っているみたいなのだが、変なスキルだと嫌なので一応普通のスキルを貰っておきたい。


 神殿の近くで路地裏に行く。あまり人がいないことを確認しつつ、例の金貨5000兆枚が一体どこへ行ってしまったのかを考える。

 まだ水の滴っている服を漁っても、全く出て来ない。もしかして川の中に落ちているのではないか、と思って立ち上がろうとしたら、脳内から変な男の声が聞こえて来た。


(や、まずはステータスオープンと叫んでみるべきでは?)


 全く脈絡もなく、聞いた事の無い単語も聞こえて来たが、何故か納得出来たので、


「ステータスオープン」


 と小声で呟いてみた。


 すると、自分の目の前に何か文字が書いてあるものが見えた。

 自分の名前とか性別、生年月日などがズラッと並び、その下の方に「スキル」と書かれた欄が見えた。


【神の欲張りセット(他者からの鑑定無効)】


 ……何だこれ。ネーミングが直球過ぎる。

 その【神の欲張りセット(他者からの鑑定無効)】という文字列をじっと見つめると、解説が出て来た。


「【神の欲張りセット(他者からの鑑定無効)】の内容は、【花水劇優】、【アイテムボックス(容量制限無し)】、【金遣い】の3つによって構成されています」


 ……? まあ、スキルの話を聞いたことがほとんどなかったから、ほとんどの単語が分からなかったのはしょうがないことなのだろう。

 気を取り直して、一番直感的に分かりやすい【アイテムボックス(容量制限無し)】を数秒間見てみる。すると、先ほどと同じように解説が出て来た。


「【アイテムボックス(容量制限無し)】は【アイテムボックス】系スキルの最上級のスキルです。名前の通り、入れることの出来る容量に制限がありません。アイテムボックス内の物を任意の場所及び時間に使用することが出来ます。また、アイテムボックス内では全てのアイテムの時間が収納時のまま固定されるため、経年劣化が生じません」


 なるほど、一度使ってみよう。

 心の中で箱のようなものをイメージすると、自分の傍の空間が少し歪んだ。手を突っ込んで見ると、何かが掴めた。

 試しに掴んだものを外に出して見ると、それは金貨だった。これ、さっき手を入れた時の感覚で考えるとマジで5000兆枚ありそうだ……。


 いや、【アイテムボックス(容量制限無し)】の欄に「金貨×5000兆枚」と書いてある。

多分嘘の表記ではないはずなので、他のスキルの確認に移る。

 どちらを先に確認するか悩んだが、まだ馴染みのある【金遣い】の方を先に見てみよう。


「【金遣い】は、任意の金属を自由に操作及び加工、並びに、手で触れた任意の金属の様々なパラメータを最大5000兆倍することが出来るスキルです。ただし、質量を5000兆倍にすることは出来ません。質量の変更には自動的に上限が設定されます」


 何だろう、このスキル。少し説明が分かりにくいなぁ。

 少し考え込んでいると、また心の中から自分のものとは違う声が聞こえて来た。


(要するに、自分で意識した金属の物体を自由に操作したり加工したり出来るスキルと、自分が手で触れた金属の様々なパラメータを5000兆倍に出来るスキルが組み合わさっているってわけよ。ただし、大きくしたり重くしたりする時には自動的に制限が掛かるみたいだが)

「何でそんな制限が掛かるの?」

(そりゃ、この惑星の重心が変わって世界が滅亡しちゃうからでしょ)


 そりゃ、と言われてもどういう経緯でそんな法螺話みたいな理論に繋がるのか全く分からなかった。質量? 重心? 全然聞き慣れない言葉だ。

 心のどこかから嘲笑するような声が聞こえて来たけど、無視しよう。

 そして、全く見覚えの無い【花水劇優】というスキルに目を向ける。


「【花水劇優】(読み方:はなみずげきまさ)は人名。40歳男性。彼女いない歴=年齢。世間的にはギリギリ高学歴と呼ばれる大学に進学したものの、コミュニケーション能力の低さ故にブラック企業で社畜生活を続ける。40歳になり、体力的にも精神的にも限界を迎えたので、会社の納期の日は変わらじをこのデスマーチぞ行方知られぬ、という辞世の句を読んで入水自殺を遂げた。趣味はアニメとゲーム」


 ……は?

 何これ? これ本当にスキルの説明欄?

 思いっきり「人名」って書いてあるし、あんまり聞き慣れない言葉も多いけど、残念な人生を送った人だってことだけは確実に伝わってくるよ!?

 え、これまさか例の欲張りセットの一番要らないやつ?


(一番要らないやつとか言うな! 俺はお前みたいなそんなに悪い顔じゃないやつに転生出来て、しかもチート能力と金貨5000兆枚とかいう超恵まれた環境で人生をやり直せるからテンションマックスなんだぞ! この世界の金貨がジンバブエドルみたいなことになっていなければ勝ち確なんだ! 早くくたばれ! 俺はこの身体を自由に使いたいんだ! 早くしろ、俺には時間が無いんだ!)


 すごい早口で捲し立てて来る。この人、僕に憑依する形で寿命を延ばすことが出来ているというのに、物凄く上から目線だ。

 でも「時間がない」って言っているから、放っておけば勝手に自然消滅するのかな。

 スキルの確認も終わったし、気を取り直して、これから待ちに待った神殿に踏み込もう。


感想や評価をいただけると励みになります。次回もよろしくお願いします。

次回更新は9月20日を目安としています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ