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あぁ~! 命が終わる音ォ~!!

お久しぶりです。5月、1回目の更新です。

 宿を出ると、喧騒の声が部屋の中よりも一層大きく聞こえるようになった。

 こんな深夜なのに街中がドッタンバッタン大騒ぎになっているらしい。

 とは言え、人の数自体は昼よりも少ないので、昼の方が騒がしさでは勝っているのだが、賑やかな雰囲気と、緊迫した怒号飛び交う状況では全く騒がしさのベクトルが違う。

 宿と神殿を繋ぐ大通りの人通りが多い。圧倒的に多いのは、神殿の方向から宿の方に向けて逃げて来る人々だ。女性も子供も必死の形相をしている。

 その人通りを悠然と歩いて進む。

 家族連れに声を掛けるのも気が引けるので、一人で逃げている様子の男の人に声を掛けた。


「すいません。何か有ったのですか?」


 声を掛けられた男性は、周囲を何度か確認してから、背負っていた大きな荷物を地面に降ろした。


「ここは……もう安全なのか……」

「まあ、多分」

「俺は神殿の近くに住んでいたのだが、深夜に神殿近辺でついに暴動が起きてな。襲っている連中、近くの家にも押しかけて来やがったんだ。俺はタイミングよく無傷で逃げられたが、家にいつ帰れることか……」

「大変そうですね。情報ありがとうございます。情報料代わりに、これをあげます」


 アイテムボックスから果物を取り出して渡す。食糧難の現在では、お金よりも食料の現物支給の方が喜ばれるのだ。

 押し付けるように渡して、神殿へ向けて歩き出す。

 男は信じられないものを見るかのように目を見張って、


「しょ、正気か? そっちは危ないって言っただろ? ……それよりも、これ、毒とか入ってないよな? 腐ってないよな?」


 一度振り向いて、


「それが腐っているように見えるなら、あなたの目が腐っていることになりますよ。あと、毒も入ってません。今から僕があなたの代わりにそれを食べても良いんですよ?」

「疑って悪かった! これは俺が食べる。ありがとな!」


 軽く流されたけど、やっぱり僕が危ない方向に行くことよりも食料の方が大事なんだよなぁ。

 神殿に近付くごとに、だんだん人通りの数が減っていく。もう多くの人々は逃げたみたいだ。神殿近くの家々は、深夜にふさわしく静まり返っている。

 家は静かだが、神殿の方は騒がしさ5割増しである。


 神殿の前には、多くの冒険者崩れっぽい人がひしめいていた。

「溜め込んだ食料を出せ!」みたいなことを叫びながら何かを投げている。

 どうやら、結界か何かで冒険者たちを締め出しているらしい。下級の冒険者たちでは破れないのだろう。

 しばらく眺めていると、一部の冒険者たちが神殿近辺の建物からジャンプして結界的な何かを飛び越えようとしていた。神官が幾ら強いと言っても、魔力量を考えれば結界を大規模に張り続けられるわけがない。だから、正門以外の空間は手薄だと考えていたのだろう。


 しかし、


「何ィ! 何故こんな空中にも結界が……!」

 男たちが空中で何かの壁にぶち当たって落ちて行った。


 グシャァッ!!


 水分多めの野菜が潰れた時みたいな音が響いた。

 神殿側の反撃はまばらで静かだったので、余計に大きな音のように聞こえた。

 かなり高い場所から落ちたみたいで、即死に近い人もいた。

 これが人間の潰れる音、命が終わる音か……。

 一部の人は、まだ生きているみたいで、小さくうめき声を上げている。だが、僕の持っている回復薬などで治せるとは到底思えない。


 初めて人が死ぬところを見た。

 全然知らない人だったからか、そんなにショックを受けることはなかった。

 他の人たちも「また作戦が失敗したか」みたいな反応しかしていない。

 でも、冒険者を助けるための神殿が、冒険者を見殺しにしているという事実に腹が立った。

 僕はこんな集団に頼って冒険者になろうとしていたというのか。

 だというのなら、冒険者になれなくてもよかったのかもしれない。


 それにしても、メアリ―さんから来るように言われていたのに、全然入れる気がしない。

 しばらく冒険者たちが結界を殴り続けていると(その間に神殿内から魔法が飛んできて何人も倒されていたが)、いきなり人の波が動き始めた。

 しかし、数歩進むと止まってしまった。徐々に包囲網が狭まっているけれども、逆に相手の防御も堅牢になっている。守るべき範囲が小さくなった結界は、以前よりも分厚くなり、神殿の中から飛んでくる魔法も激しさを増している。

 魔法が苦手な下級の冒険者では到底太刀打ち出来ていない。

 やっぱり、神殿を襲って食料を奪おうなんて馬鹿げたことだったんだ。このまま長期戦をやっても勝てるとは思えない。他の人たちも薄々その事実に気付いているように見えるけど、かと言って撤退するようには見えない。


(コスパが悪すぎるが……ま、どのみちこれ以外に生計を立てる手段がないからここに来ているんだろうな。何もせずに餓死するか、戦って死ぬか。ここにいる連中には、その二択しか残されていないのさ)

 花水はなみずさんが何の感慨も無さそうに解説してくれる。

 それを無言で聞き流しながら、状況を見守る。

 何人か死者が出ているけど、これ以上酷くなることもなく決着がつくのだと思っていた。


 人混みから数歩離れて見ていた僕の後ろから、ドタドタと足音が聞こえて来た。

 街の警備の人たちが来たのかな、と思っていたが、風貌が全然違った。

 ゴツイ荒くれ者にしか見えない。そんな人たちが大体二十人ぐらい集まっている。後から来た人たちは、下級冒険者たちより格段に強そうに見えた。


「おい、お前らァ、どうして俺を呼ばなかった! 俺がお前らに協力を惜しむとでも思ったのか?」


 その野太い声に反応して、下級の冒険者たちが振り返る。


「ノーリスさん、どうしてここに……!」

「し、師匠!」

「先生……俺たちは、アンタをこの件に巻き込むつもりはなかっただけなんだ……!」


 どうやら、ここに集まっている人々の指導者的な人らしい。


「そんな顔をするな。お前らがやっていることは、平時から見れば到底許されないことだが、こうも食料がなければ致し方ない。俺は、お前らが飢えて死ぬのをみすみす見逃すわけにはいかなかったんだ」

「そんな……でも、俺たちも先生にこれ以上世話になるわけにはいかないと思ったからよぉ」

「そうだぜ。ノーリスさんたちが自分がひもじい思いをしてでも、俺たちのために食費を捻出してくれてたのを知ってたんだ。先生にこれ以上迷惑掛けられるかよ!」


 温かな再会の雰囲気もそこそこに、ノーリスと呼ばれた男は、下級冒険者たちの言葉を手で制し、鋭い口調で、


「今はどうでもいい。それよりもどうやって相手に勝つべきか考えろ。そんな調子だからいつまでも昇級出来ないのだと、いつも言い聞かせてきただろう?」


 ノーリスの連れっぽい人が呑気そうに呟く。


「でも、神殿の連中も相当強いっすよ。どうするんすか? 聞いた話だと、神官って神殿内だと魔力消費量が大幅に削減されたり、ステータスがゴリゴリあがったりするらしいじゃないっすか。まだ建物全体を包む結界を維持しているのが確たる証拠っすよ」

「安心しろ。勝ち目がゼロなら可愛い弟子たちと雖も見殺しにしてしまっていただろう。だが、こちらにも秘密兵器があるというわけさ」

「アレ使うんすか? 気味悪いから気乗りしないんすけど……」


 ジャックと呼ばれた男が、言葉とは裏腹にニヤリとノリノリな笑みを浮かべた。

 男たちが次々に装備を変えていく。その武器は確かに禍々しそうなオーラを放っていた。

 ノーリスがさっきまでの柔和な笑みから一転して、少し仄暗い笑みを浮かべながら、周りの弟子たちに声を掛けた。


「お前たちにも配布しよう。今は頭数が必要だ」


 冒険者たちが集まって来る。


「え、良いんですか、師匠!」

「ああ、怪しげな商人だったが、数日前に格安で大量に譲ってくれたんだ」


 その言葉に引っかかる。まだこの街に武器商人が残っていたのか? そんな話、聞き覚えが無い。

 不意に、ノーリスがこっちを見た。


「君も、神殿を襲いに来た冒険者だろう? 君にもあげよう」


 咄嗟にアイテムボックスから強そうな武器を取り出して応答する。


「えっ、ああ、いや、僕は自前の装備があるので大丈夫です」

「ふむ。素人丸出しみたいな君がどうしてそんなに高級な装備を持っているのかは分からないが、それなら大丈夫だろう」

「はあ、お気遣いありがとうございました」


(あいつらが持っている武器キモすぎるけど、こんなぼっちみたいに突っ立っていた俺たちに声を掛けてくれるなんて、良いヤツ過ぎない? あっちの方が聖人じゃね?)

(いや、どう考えても神官の方が聖人だからね。やってること泥棒だからね?)


 僕たちが話している間に、下級の冒険者たちが禍々しいオーラを纏っている武器を次々と手に取っていく。

 数秒後、冒険者たちが今までとは違ったテンションで叫び声を上げ始めた。


「神殿を潰せええええっ!」

「神を冒涜せよ!」


 ……あれれ~? 食料奪いに来たんですよね?


次回もよろしくお願いします。次回はもっとサブタイトルと内容がリンクした感じになるはず……。

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