表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/31

神殿の守り手

今月は宣言通り、1ヶ月3回投稿が出来ました。来月も頑張ります。

 ナタリーと「神殿が暴動に巻き込まれた時は、取りあえず神殿に行く」という奇妙な約束を交わしてから数日、街ではやっぱり暴動が起きていた。

 まず最初に標的として選ばれたのは、僕との交渉に応じずにそのまま開店していた道具屋や防具屋だ。商品を根こそぎ奪われたと聞く。


「大変そうだなぁ」


 煙が上がり、何か色んなものが飛び交っている街並みを、宿の最上階の部屋から見下ろしながら呟く。


(特に道具屋の人とか、防具屋の人とか)


 花水はなみずさんが僕の独り言に反応した。


(まあ、俺たちの交渉に応じなかったツケが回って来ただけさ)


 その後も、花水さんが解説を続けてくれた。

 適当に纏めると、こんな感じ。


 なぜ彼らが襲われたのか。その理由は単純明快なもので、暴動の主犯格が普段から利用しているからだ。

 これらの暴動を主導しているのは、底辺冒険者たちだ。装備の手入れや道具の準備が出来なくなって簡単な仕事も命取りになり、食い扶持にも窮していた彼らは、単純なことに気付いてしまった。

 自分達は、冒険者と言うカテゴリーから見れば実力のない底辺だが、街の普通の人たちに比べればそれなりに体力があり、闘いに自信がある。面倒なことは考えずに、その辺から奪えばタダで飯が食える。それも、神殿で配給しているような貧相な飯じゃあない。

「3000円払えば無料の10連ガチャが出来る」的なガバガバ計算だが、彼らの多くは計算を大の苦手としている。でも大丈夫。金が財布から出て行くのか、出て行かないのか……それだけを考えればいいのだから。


(帳簿の上で数字が動くのか、暴力で品物が動くのか……その程度の違いしかない。そもそも現代日本じゃないからクレカ決済みたいなシステム無いけどね)


 花水さんはそんな言葉で纏めたけど、クレカとか言われてもよくわからない。


(あの人たち、どうしてこんなリスクのあることに手を染めちゃったのかな?)

(腹が減れば警察なんて関係ない。それに、同じように生活に困っている人たちは大勢いる。そいつら全員を駆り立てて、尚且つ他人より速く、そして多くを奪えばいいのさ。後から来た警察に捕まるのは出遅れた連中だ。数で攻めれば、相対的に自分が捕まる確率が下がるってわけだ)

(ああ、確かに冒険者なら、他の人たちよりは速く動けるだろうし、多くのものを盗んでいけるだろうね)

(ビッグウェーブを自分達で作り出して、後はその波に乗ればいい。初心者向けのクエストよりは難しいだろうが、中級者向けのクエストよりは簡単そうだろ?)

(いや、花水さんってこの世界の冒険者のクエストとか知らないですよね?)

(確かに知らないけどさ、それは冒険者になれなかったお前も同じだろ?)


 痛いところを突かれてしまったので黙る。

 街の暴動は、思っていたよりは酷くならなかった。国が積極的に商人から物資を買い取っているから、らしい。僕と数回取引したことがある人が言っていた。


 ついでに言えば、国は恐喝紛いのやり方で商品を買い取っていくらしい。大勢の武装した兵士たちで商人を取り囲んで、簡単な商談を行うのだとか。一応最低限のお金は払ってくれるらしいけど、それ以上の額を出す僕みたいな人たちに買い取られる前に強引に買い取ってしまおう、という腹積もりらしい。

 買い取られた商品は、国が少し安めの(あくまで現時点の物価から見れば安い、という話で、僕が買い取りを始める前の物価から見れば少し高い)金額で供給する。

 そういう努力があるので、街全体でモラルハザードが起こるという最悪の事態は避けられているようだ。


 ただ、国の努力も虚しく、配給のために神殿を訪れる人々の数は、日々増加しているように見えた。それでも神殿が盗みのターゲットにならないのは、神の加護のおかげだろう。

 すぐさま花水さんから指摘される。


(いや、そんなオカルトな話じゃなくて、あの神官どもがその辺の冒険者より明らかに強いって話じゃなかったのか?)

(それはそうだけど、もうちょっと人の良心的なものを信じたいから……)

(良心もクソもあるか。あそこが攻められてないのは、神官が強くて、弱い民衆が肉の壁になってるからだよ)


 何か怖い言葉が増えた……。

 沈黙すると、ご丁寧に解説を始めた。


(人間が密集してると、脱出するのが困難になるんだよ。せっかく物を盗めても、安全な場所に帰ることが面倒ならコスパが悪い。しかも、仮に偉い人が民衆に「賊を捕まえた者には褒美を与える」とか言ってみろ。死に物狂いでしがみつかれるぞ。冒険者からすれば民衆を殺すのは簡単かもしれないが……死体も死体で場所を取るからな。ドンドン逃げ場が塞がれていくわけよ。動きが鈍った状態で、強い神官に勝てるわけがねぇ。そういうリスクを考えれば、今はまだ攻め込むには割に合わない場所なんだよ)

(気軽に死体とか言ってるけど、そんな簡単に人を殺しちゃダメだよ!)


 そこまで言って、1つの可能性に思い当たる。


(もしかして花水さんって過去に人を殺したことがある、とか……?)


 返答はすぐに来た。


(無えよ! クソ上司や俺に嫌がらせを繰り返して来たウェイ系陽キャどもを何度殺そうと思ったことか……! だが、残念ながら勇気がなかったのと、計算が小学生並には出来てしまった事が合わさって、人殺しにはなれなかったわけよ。殺しじゃ食っていけねぇ。クズを殺してクソみたいな人生を歩まざるを得なくなるなんて割に合わないんだよ)

(ええ……損得勘定で人殺しをしなかったってことですか?)

(人間は合理的に考える生き物だからな。この世界よりは人殺しのハードルが高かったってだけさ。……言っておくが、今なら余裕で出来る)


 思わず耳を疑ってしまった。一応聞き直す。


(出来るって、殺人のこと?)

(その通り。今なら人を殺しても余裕で生きていけるし、殺せるだけの力がある)


 花水さんが僕の身体を無理矢理動かして、アイテムボックスを開いた。

 大量に買い取った武器が視界いっぱいに広がる。

 命を終わらせるための道具が、こんなに大量にある。それも、上位の冒険者が使うような高性能なものもそれなりの数が揃っているのだ。


(しかも、神から貰った【金遣い】とかいうスキルを使えば、どんなに弱い武器でも、金属製なら、即座に改良出来る。正直、防御面に不安が残るが、金と武器には困らねぇ。オマケに、アイテムボックス内なら食べ物も腐らないから、食事にも困らないとくれば、人生イージーモードよ。これこそ、俺が望んだ異世界転生チートライフなんだよな……いや、真面目なクソガキの身体にぶち込まれた件だけは、全然望んでない想定外の事故だけど)


 アイテムボックスから取り出したご飯を食べながら、花水さんが言葉を続けた。


(つーか、人を殺す覚悟も無いのに「冒険者になる」とか言ってたの?)

(それは……)


 確かに、自分でも甘いと思う。今回の暴動が無くても、冒険者の中には気性が荒い人が多くて冒険者同士のトラブルが頻発している、という話は何度も聞いていたことだった。



 自分の中途半端な性格について色々思案しながら、街の騒動に対して高みの見物を決め込むこと数日。

 夜中にハッと目が覚めた。

 これは僕の意思じゃない。


(さて、アウルム君。神殿に行こうか。約束の時が来たようだ)


 寝ぼけているのかな、と思ったところで、


(この前言っただろう? 神殿が無事なのは神の加護なんかじゃない。神官の強さと肉の壁のおかげだ、と)


 僕が寝ているような時間なのだから、今は夜中。夜になると流石に配給を待つ人は減る。

 神殿には夜警の人もいるだろうけど、それでもこの時間帯は手薄になる。

 そして、国からの配給も徐々に減っていた。その鬱憤がついに噴き出したってことだろう。


(正解だ)


 どこか楽しそうに花水さんが答える。

 窓から街並みを眺めると、確かに神殿の方から黒煙のようなものが見え、喧騒が聞こえてくるような気がして、一気に眠気が吹き飛んだ。


前作のPVを超えていました。ありがとうございます。タイトルのインパクトって重要だなぁ。

次話のタイトルは「あぁ~! 命が終わる音ォ~!!」です(そう言えばこのネタやってなかったな、と思ったのでタイトルだけが先に決まった形です。中身はまだ1文字も書いてません。多分バトル回です)。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ