ナタリーさんとの久々の再開
更新が久しぶりになってしまって申し訳ないです。よく考えたらヒロイン的な存在をあまり出せてなかったな、と思ったので今回はこんな感じです。よろしくお願いいたします。
数日後、街には混乱が蔓延していた。
武器や防具の整備が間に合わず、積極的にモンスターの討伐に出かける冒険者たちが減ったらしく、街には冒険者を募集する貼り紙が多く見られた。
冒険者は街をモンスターから守る役目も担っているから、冒険者の減少は死活問題らしい。
(今なら冒険者登録を簡単に通れるんじゃないか? まあ、俺はモンスター退治なんて御免だが)
花水さんが冗談交じりに話しかけて来る。
(あはは……まあ、一時的に資格を得られても、この混乱が収束した後も継続して冒険者をやれるかどうかは分からないからね)
これが、僕を冒険者として認めなかったギルドへの報復なのだろうか。思っていたのとはちょっと違う回りくどいやり方だと思うけど、心のどこかでスカッとした気分がしないわけでもない。
冒険者不足に加えて、道具や日用品の供給が滞った結果、庶民の間にも多くの混乱が起きているようだった。大手の道具屋が価格を吊り上げる為に意図的に供給を渋っているという噂が巷で流れ始め、収入が絶たれた荒くれ底辺冒険者を中心に、道具屋の打ちこわしも計画されているらしい。
花水さんが言っていた持久戦というのはこの事だったらしい。このまま行けば、間違いなく僕たちの圧勝だ。
今日も道具屋に行くはずだったアイテム類を、店よりも先に仕入れて街をぶらつく。
仕入れの人たちの中で「道具屋の倍の価格で買い取ってくれる神みたいな子どもがいる」という噂が広まり、僕たちが商人を探しに行く前に、向こうから僕たちのことを探してきた人もいた。
商人の間ではすっかり有名人になってしまったらしい。
人が一際多く集まっている場所が有ったので、何かのイベント事かと思って近付いてみる。街でも一、二を争うほど大きなこの建物は神殿、かなり久しぶりに来たように感じる。
(神殿で何が始まるのかな?)
(さあな。……いや、大体予想がつく。どうせ貧民救済のための炊き出しか何かだろう。宗教関係の連中がこういう状況でやることなんて大体どこも同じもんさ。それに、周りにいる連中はどう見ても元気のない奴らばかりだからな。そういう奴らが何にたかるのかを考えれば、大体これで当たりだろ)
言われてみれば、周囲には覇気のない人たちが多かった。身なりもそれほど良くない。
それに、僕の昔住んでいた街の神殿でも同じようなことをしていたように思う。
ただ、それを受けようと集まっている人の数が違い過ぎていたから気付けなかったんだ。
しばらく眺めていると、予想通り炊き出しが始まった。僕たちは宿屋で食事を済ませておいたので、遠くから眺めるだけ。
スキルを授けてくれなかった神官たちは、多少やつれているように見えた。
神官たちの食事も基本的に貧相だからなぁ、と数日前のナタリーの食事風景を思い出しながら心の中で呟く。
(ナタリーの様子も見ていくか? どうせ暇だし)
花水さんの提案に乗っかる。
(そうだね。街の大まかな状況も知りたいし)
炊き出しが終わった神殿内に入る。
中も普段より多くの人がいた。行き場のない人たちなのだろう。
熱心に祈っている小さな子どもの横を通った時、
「明日もパンを食べられますように」
という声が聞こえた。思わず良心が痛む。
(ここまで状況は深刻なのか……)
対照的に、花水さんはヘラヘラとした声で、
(どこの宗教でもそういう祈り文句があるんだよ。それに、世界のどこかで誰かが飢えているのはいつものことさ。今日はたまたまそういう奴が近くにいただけのことだよ)
(よくもまあ、そんな他人事みたいに……!)
(ん? アレはお前の知り合いなのか?)
(そういう意味じゃなくて……)
言葉に詰まった時、すぐに更なる反論が差しこまれる。
(まあ、揚げ足を取って悪かったな。じゃあ質問を変えよう。アレがちょっと外見の良い少女じゃなくて、醜悪な外見で何日も風呂に入ってなくて酸っぱい臭いを漂わせているオッサンだとしても、他人事じゃないと言い張れたのか?)
(それは……)
再び言葉に詰まった時、近くから声を掛けられた。
「あなたは、確か……アウルム君、だよね?」
声の主を見ると、銀髪ロングヘアの美少女神官が立っていた。ナタリーさんだ。他の神官同様、前見た時より少しやつれているようにも見える。髪も少しボサボサになっていて枝毛が目立っている。
質問に対して頷くと、相手は何かを察したように尋ねてきた。
「もしかして、炊き出し目的だった? ごめんね、もう今日のお昼の分は終わっちゃったから……」
完全に誤解されているような気がする。しかし、それも無理はない。彼女は僕が冒険者になれなかったことを知っている。
「久しぶりだね、ナタリーさん。でも、僕は炊き出し目的じゃないよ。たまたま神殿の近くを通りがかったら多くの人が集まっていて、何か特別なイベントをやっているのかと思って寄ってみただけさ」
ナタリーさんは苦笑して、
「特別なイベントねぇ……そんな華やかなものじゃないわ」
そこまで呟くと、一旦周囲を確認して、神殿の奥の方に歩き始めた。ジェスチャーで付いて来い、と言っている。
大人しく後ろを歩いて、神殿の裏口に出た。
目を伏せて、愚痴をこぼすように小さく語り始める。
「ここ最近、この街は大混乱よ。特に、物資がどこかで止まっているらしくて、食糧難が近付いているの」
話を聞いている最中に、勝手に手が動いた。花水さんの仕業だろう。
虚空のアイテムボックスから、新鮮なフルーツ(アイテムボックス内では鮮度が維持される)を取り出し、モグモグと食べ始めた。
「しかも、冒険者の人たちに回復薬とかが行き届いてないみたいで、私たち神官にそういう仕事が回って来るし……あっ、私は今魔力切れなだけだから。仕事を怠っているわけじゃないから。……って、さっきからうんともすんとも言わないけど、聞いてるの?」
ナタリーさんが視線を上げた。ちょうど目が合う。
咀嚼してから、
「うん。聞いてるよ。回復アイテムとかの在庫が減っていて値上げされてるらしいよね」
ちゃんと相槌を入れたのに、今度はナタリーさんが動きを止めてしまった。
話、聞いているのかな?
彼女の視線は一点で止まっている。僕の口元に添えられた右手……の中にある果物だ。
それを指差し、わなわなと震えながら、
「ちょっと! それ、どこで手に入れたの?」
「どこって……普通に売ってるじゃないか。高いけど」
実際、今も一応売っているけど高い。まあ、今握っているやつは、僕が道具屋の普段の仕入れ価格の倍で買い取ったやつだけど、それよりも今の相場の値段の方が高いぐらいには価格が高騰している。
「あなた、お金持ちなのね」
「まあ、それなりにね」
お金持ち、と言えば……。
「そう言えば、神殿もかなりお布施とかで儲かっているんでしょ?」
「え、まあ、多分……。でも、運営費用で結構飛ぶから、お給料はそんなに高くないよ」
「ふーん。それなりにお金を持っていて、今は食料に困っている……」
「そうそう。そうなのよ」
僕と花水さんの思考が珍しく合致した。
(商機到来!)
アイテムボックスから新しい果物を取り出してナタリーさんに差し出す。
キョトンとしたナタリーさんに声を掛ける。
「これタダであげるからさ、神殿のお財布握っている人を呼んで来てよ」
「え、あー、ど、どうしようかな……」
かなり本気で悩んでいるようだ。自分の分を食べ進めながら圧力をかける。
「要らないなら僕が食べるけど」
慌てた様子で、
「と、とにかく、お金の管理をしている人を呼べばいいのね?」
「うん。食べ終わった後でいいよ」
そう言うと、腕からひったくられた。数日間食べてない飢えた子どものようにがっついている。
食べ物一つで随分と幸せそうな顔をするじゃないか。
春になれば更新頻度が上がると思っていた時期が私にもありました。もうちょっと経たないと、今後の見通しが立たないので、今のところは月3回更新を目標にします。よろしくお願いいたします。