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あの道具屋、絶対許さない

何か色々あって春になってもペースが上がらない。特に締め切りがないこの作品と締め切りがある公募用作品……優先度を考えれば当然の結果です……。

 街の出入り口付近の大通りに来たのは良いが、特に何かするでもなく、道行く人々を眺めているだけだった。


花水はなみずさん、何をするつもりでここに来たんですか?)

(そんなに焦るな。俺たちの救いの手を拒んだ道具屋を潰すために、ある人を待っているだけだ)

(でも、花水さんって確か別の世界から来たんですよね? 知り合いなんていないはずですが……)

(ああ、知り合いなんていない。だが、どういう人を待つべきか、ぐらいは分かる。っと、早速お出ましだ)


 大きな門から街に入って来た大きめの馬車に近付き、馬の御者に声を掛ける。


「この馬車、何が積まれているんだ?」


 御者が面倒くさそうに答える。


「そこをどきな、クソガキ。あんたに答える必要なんてないよ」


 特に気にすることなく言葉を続ける。


「俺の予想だと、道具屋に納品するための道具が積まれていると思うんだが……」

「惜しいな。これは武器屋の連中に頼まれたブツだぜ」


 ん? 武器屋……? 懐かしい響きだ。


「おっと、なら幸運だったな」

「は? 何を笑ってやがる! これ以上営業妨害をするなら……」


 何かを言われる前に真実をお伝えする。


「残念ながら君の取引先はもう店仕舞いを済ませたぜ。だから俺が代わりに買い取ってやる」

「おいおい、冗談ぬかすなよ。あの誠実な店主がお得意様である俺に対してそんな不義理を働くはずがねぇ」


 ニヤリと口元が歪む。


「なら、試してみるか? 俺の言う通りだったら、俺はアンタが当初売る予定だった額の半値で買い取ろう。でも、アンタの言う通り、まだソイツが営業していたら、俺が倍の価格で買い取ろう」


 相手は少し戸惑った様子を見せた。中々返事をしないので、煽ってみる。


「どうした? その義理ってやつはそんなに信用出来ないのか? それとも、次の仕入れの時には店を閉めているような奴と取り引きをするほど、アンタの見る目は無かったってことを受け入れられないのか?」

「ぐっ……そこまで言われて黙っていられるか! 良いだろう。二十年以上この仕事を続けてきた俺の観察眼が本物だってことを教えてやる。そっちこそ、お金払えません、とか言って泣いて逃げるなよ!」



 数分後、そこには地面に膝をついて号泣しているオッサンの姿があった。



「お願いだから半値の取引はやめてくれ! 俺の妻と子どもに飯を食わせてやれなくなる!」


 必死に頭を下げている商人に見えない位置で、悪魔的笑みが止まらない。


「そうか……じゃあ、泣きの一回をくれてやる」


 男が突然顔を上げたので、こちらもすぐに表情を真剣なものにする。危ないからもう少し地面に頭を擦りつけていて欲しかった。


「アンタ、この街の他の武器屋の名前は知っているか?」

「あ、当たり前だ!」


 それが何か関係あるのか、という訝し気な表情をしている。


「ならば、こうしよう。アンタが俺に一つの武器屋の名前を言う。そして、その店が営業していたら、俺はさらに倍の価格で買い取ろう。しかし、その店が閉店していたら……」

「へ、閉店していたら……?」


 突然ガタガタと震え始めた。言わなくても大体察しているようだが、キチンと事前に通告しておかなければ約束を反故にされかねない。


「今の価格のさらに半値で買い取らせてもらう」


 雷に打たれたかのように目を見開いて復唱する。


「さらに半値……! 当初の売り上げ予定の、四分の一ッ……!」


 男は冷や汗を流しながら考え続ける。


「勝てば当初の四倍の売り上げ、負ければ当初の売り上げの四分の一、どうだ? 面白い賭けだろう?」


 男が小さく呟く。


「何故この店は俺が仕入れに行っていた二週間の間に潰れてしまったんだ……?」

※僕たちが買い取ったからです。


「いつの間に潰れてしまったんだ……?」

※数日前です。


「だ、だが、超大手のあそこならば……!」

※武器屋は全て僕たちが買い取りました。


「し、しかしこの子ども、不気味なほどの自信を抱えてやがる……!」

※僕たちが買い取ったからです。


「絶対ハッタリに決まってやがる……!」

※事実です。


「だが、化け物みたいなこの自信……何が、この街で一体何が起きてやがる……!」

※僕たちがちょっと買い物をした程度で、他は通常営業です。


「クソっ……だが、ここで打ち勝てば一攫千金のチャンス……! ここで退いたら男が廃るッ……!」

「おや? それでは続行するということでよろしいですね?」

「ああ、やってやろうじゃねぇか!」


 オジサンの馬車の後ろに乗せてもらい、移動する。


「アレ? どこ行くんですか?」


 指定されていた店を通り過ぎてしまったので声を掛ける。


「あ? 確かこの辺に店があったと思うんだが……」

「アレですよね。看板だけなら残っていますし」


 オッサンが飛び降りて扉の張り紙を読み始める。俺からすれば読むまでもなく内容がわかる。閉店のお知らせだ。


「ば、馬鹿な……!」

※馬鹿はあなたです。


 地に伏したオジサンに声を掛ける。


「約束、覚えてますよね?」

「あ、あぁ」

「もう一回ぐらいなら付き合ってもいいですよ? 勝てば八倍の価格。負ければ八分の一の価格になりますが。まあ、タダで奪うとまでは言っていないので温情を感じていただければ、と思います」

「ぐっ……ぐぬぬ……」


 蹲って唸り声を上げているオッサンに声を掛ける。


「俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇ限り、その先に俺はいるぞ!」


 ハッとした表情でこちらを見て来た。しかし、その数秒後に、さらに我に返って困惑した表情を浮かべた。そりゃ、いきなりこんなことを聞かされても訳が分からなくなるだろう。

 雰囲気でゴリ押ししていく。


「だからよ、止まるんじゃねぇぞ……」

「え、ああ……でもなぁ……」


 オジサンのやる気が完全に消えかけている! ここは僕が助け舟を出さなければ……。


「オジサン、家族を養わなければならないんでしょ? 今のまま家に帰れるの? それに、ここまで来たら四分の一も八分の一も同じようなものでしょう?」

「むむっ……確かに言われればそうなのかもしれぬ……」



 数分後、やはり店先で項垂れているオッサンの姿があった。



「さて、どうします? 続行しますか?」


 ノリで聞いてしまったが、相手は意外と乗り気だった。


「な、何? まだチャンスをくれるのか?」


 最後の店まで回ってもいいのだが、それでは相手に不信感を持たれてしまう。


「でも、何度も試されると全ての店を回ることになるので、あと一回が限界ですね」

「じゃあ、もう一回トライだ! 俺は勝つ! うおおおおおおっっ!!!!」



 十分後。



「やっぱり勝てなかったよ……」

「そうだ、オッサン。十六分の一は流石に可哀想だから、一つ情報をくれたら四分の一にまで戻してやるよ」


 ガバっと勢いよく顔を上げた。


「な、何! それは本当か? 俺が知っていることなら何でも言う!」

「この街にある道具屋に商品を供給している連中のことを知りたいんだ。奴らはどの辺で荷物の取引を行っているんだ?」

「何のためにそんなことを聞くのか分からんが……そりゃあ、店の近くに決まっているだろう。多いのは店の裏口付近だ。大体の店はその辺に倉庫を構えているからな」

「なるほど。じゃあ、これが代金だ。確認しろ」


 オッサンが代金を数えている間に荷物を押収する。


「確かにピッタリあるな……それにしても、アンタ何者だ?」

「ただのお客様だよ。四分の一の価格であっても、買い手が見つからずに途方にくれる前に売れたことを喜べる時が来るかもしれんぞ。じゃあな」


 提供された情報に従って、道具屋の裏口付近に立つ。少し待っていると、大きな馬車が来たので近付く。


「馬鹿! 死にたいのか!」


 その忠告を聞き流し、


「その荷物、ここの道具屋に売るためのものだな?」

「ああ、それがどうした?」

「倍の値段を出す。俺に売れ」


 商人は思っていたよりもアッサリと決断を下した。


「え、良いんですか」

「良いぞ。金はある」


 金貨をチラ見せさせると、すぐに商談が始まった。

 取引を終えた後、他の卸売り業者を紹介してもらい、同じ手法で買い占める。


(そんなペースで買い占めても大丈夫なんですか?)

(ああ。どうせ使い切れる金じゃないし、困ったらいつでも回収出来るとも思っているからな。これは持久戦だが、もう少しすれば結果が分かる。あの道具屋どもがどうなるか楽しみだ)


チマチマ更新していくのでこれからもよろしくお願いします。

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