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防具屋と道具屋も買う

お久しぶりです。最近、2000兆円を稼いだ(稼いだとは言ってない)御方が出現したらしくて、5000兆円が現実になる日も近いのかなと夢見ています。

という訳で今回もよろしくお願いします。

 宿屋の人に場所を聞いて、この街の防具屋の商品も買い取りに向かった。

 その道中で昨日立ち寄った武器屋を眺めてみたが、どこもかしこも閉まっていた。

 多くの冒険者と思われる人々が閉まった店の前にたむろしている。


「おいおい、いきなり閉店とかマジかよ」

「いつも通っている店が閉店になってたからこっちに来たってのによぉ……」

「責任者出て来い!」

「どうやって武器の修復をすれば良いってんだ!」

「他の店はどうなんだ?」

「東にある店は全滅したって聞いたぞ。何がどうなってんだ?」


 苛立ちを隠すことなく情報交換を続けている冒険者たち。


(これ、今から防具屋を買い取りに行っても大丈夫なのかな? 警戒されているんじゃない?)


 花水はなみずさんに取りあえず質問すると、自信ありげな声が返って来た。


(冒険者どもはともかく、店側が警戒することはないだろう。むしろ、俺たちの救いを待っているとまで言ってもいい。ほら、武器屋の連中も皆こうなるのを見越して引っ越ししたみたいだから、防具屋の人々にも夜逃げの支度の時間をあげるぐらいがちょうどいいのさ)

(うーん。それもそうかぁ)

(それに、生きて街に帰って来る冒険者は防具へのダメージをほとんどもらっていないはずだ。冒険者どもは確実に防具屋より武器屋に優先して赴く。冒険者どもが武器屋を探し回っている間に防具屋を巡回すればいいだけだ)

(じゃあ急がないとね)


 そういうわけで、僕たちは記念すべき一軒目の防具屋に入った。


「いらっしゃい。こんな朝早くから客が来るのは珍しいね。さ、何かお探しかな?」


 気取った女性が対応してくれた。昨日の武器屋は全体的に攻撃的な性格の店主が多かったので、話かけやすそうな人が多いということだけでも有難い。


「あの、この店の品物全てを……」


 そこまで言うと、相手が目を見開いた。


「近くの武器屋のスミスさんが言ってたことは本当だったのね」


 スミスさんが昨日会った人の中のどの人なのかは知らないが、もう僕たちのことが噂になっているようだった。


「はぁ。まあ多分その噂の人ですかね。噂になっているのなら話は早い。売りますか? それとも、売りませんか?」


 相手はキッパリと断言した。


「売ります! そのお金を元手に、冒険者向けの防具じゃなくて、貴族向けの高級衣料品を作ろうかな、と思っていたんですよ。これで夢が叶います! ありがとうございます!」


 おお、僕たちの行動が他人の夢を後押し出来ただなんて嬉しい話だ。

 僕の方も気持ちよく買い取れる。

 貴族向け衣料品を作りたいと言っていただけあって、金属製の防具よりも、皮製品や毛織物などが多かった。僕たちのスキルでは非金属のものは加工出来ないので、もし転売するとしたら、そのまま売る事になるだろう。

 何度も頭を下げている店主に見送られながら、すぐさま別の店に赴く。

 商談は比較的穏やかに進んだ。大体の店がすんなりと商品を売ってくれたからだ。

 しかし、昨日と違って、頑なに商品を売る気がない人もいた。無理矢理追い出される。


(どうして仕事を止めないんだろうね?)


 僕には全く理解出来ないことだったが、花水さんはある程度の憶測を立てていたらしく、すぐさま意見を述べた。


(武器屋の件を見て、独りで営業を続ければ、今まで他店に取られていた需要を独占出来てウハウハに儲かるはずだって算段なのだろう)

(そういう考えもあるんですね)

(仕事熱心な人だよな。ま、そう長く続くとは思わんが)

(え? それってどういうことですか?)


 曖昧な返答だけが返って来る。


(まあ、あの店主の決断が正しかったかどうかは、あと一週間も経てば分かるはずだ)


 どういうことなのかよく分からなかったので、この件は頭の片隅に留める程度にしておいた。気を取り直して防具屋巡りを再開させた。

 最後の三軒ぐらいになると、ここでもトラブルが起きた。

 僕たちが商談を進めている最中に、他の冒険者が割り込んできたのだ。流石に昼時になって行動する冒険者の数も増えたのだろう。


「おい、武器屋や防具屋を荒らして回っている奴がいるってのはお前のことか!」


 かなり恐ろしい外見の人だったので、店長に間に入ってもらうことにした。


「え? 全然荒らしてなんかないですよ? ですよね?」

「ま、まあ、我々もお客様と商談をしているだけでございますから、荒らすだなんて人聞きの悪い……」

「商談んん? アンタらが今やっている商談ってのは、この店の商品を全部買い取るってやつだろ? それを荒らすって言ってんだよ、こっちは! 俺たちが買う防具が無くなっちまうじゃねぇか」


 なるほど。そこを怒っていたということか。ならば対処は簡単。


「この店で買いたいものがあるけど、僕が買い取ったら手に入れられなくなるのが気に食わないってことですね?」

「分かればいいんだよ。分かったら、さっさとその商談を中止して……」


 そこに小声で言葉を差し込む。


「どれですか? 言ってくれたらお譲りしますけど?」


 今まで威勢よく喋っていた相手が突然黙り込んだ。目をパチクリさせている。


「今、何つった?」

「だから、言ってくれたらお譲りしますよ、と」

「無料で?」

「タダです」

「何でも?」

「まあ、一個ぐらいなら」

「ッシャオラァ!」


 突然機嫌を良くした冒険者が店の中で一番高い防具を持って来た。プレゼントを貰った子どもみたいなはしゃぎ方だ。


「これでも良いのか?」

「もちろん」


 ……どう見てもサイズが合っていないように見えるけどね。


「お金は僕が払っておくから、もう帰ってくれていいよ。あと、この件は内密にね。もし誰かに話したら、その防具の代金を支払ってもらうから」

「あ、ああ。もちろんだ。恩に着るぜ」


 店の中に残っていた他の冒険者たちにも同様の施しをする。

 これで特に文句は言われないはずだ。

 そのまま商談を続けて、この街の全ての防具屋を周り切った。

 二軒ほど商談に応じないところが有ったけど、まあいい。金属防具じゃないと加工出来ないから、買えなくても特に悔しさのようなものはない。


 気分よく一夜を過ごし、今日は道具屋だ、と思っていたのだが、道具屋は一筋縄ではいかなかった。冒険者向け以外にも、一般人向けの日用品などを取り扱っていて、利益よりも地元優先、みたいな考えを持っている店主が多かった。


(ふむ、そう来たか。利益だけではなく、地域の人々からの承認欲求的な心情にも価値を置いているという面が強い……愚かな)


 何か不穏な気配を感じ取ってしまった。


(ど、どうしたんですか、花水さん?)

(いや、彼らの思考が実に愚かだからそう言ったまでだ。地元の住民が道具屋を慕っているのではない。地元民がこの道具屋を使うのは、近くにあって、他所の店と大体同じぐらいの値段だからだ。それ以上でもそれ以下でもない)

(は、はぁ……?)


 よく分からなかったが、取りあえず別の店舗を攻める。

 しかしながら、かなり警戒されているらしく、僕が行くと全然買わせてくれなかった。

 謎過ぎる……。


(ふむ。そういうことか。ならば我々に対する挑戦状として受け取ろう)

(何かよく分からないけど、燃えて来たね)


 視線が勝手に動いて何かを探し始める。

 その視線が、ある一点で止まった。


(何だアレは? いわゆる奴隷か?)

(あ、花水さんは奴隷のことを知らなかったんですね。買いますか?)


 しかし、僕の予想に反して、小さな声だけが返って来た。


(いや。……ああ、そうだ。アウルム君に大切な事を教えてあげよう)

(え? 何ですか、それ?)

(1つ目は、ここにいる俺たち以外の人は全員金の奴隷だということだ。真に解放されて自由を謳歌している者は俺たちしかいない)

(金の奴隷……)

(そして2つ目は、奴隷というものは本来買うものではないということだ。建前上は奴隷が存在しない現代日本からやって来た俺から言わせれば、奴隷を買う奴は素人!)

(え、えぇ……それ、どういうことですか?)

(ふむ。それは機会があれば詳しく教えることにしよう。まずは、あの道具屋どもに一泡吹かせる方が優先だ)


 結論が出たのか、僕の足は街の出口の方に向かった。


感想等を貰えると励みになります。よろしくお願いいたします。

3月も何だかんだで忙しそう。今月もあと2,3回更新出来れば良いかな、という感じですが、これからもよろしくお願いします。


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