武器屋を買う
お久しぶりです。
僕たちの一方的な要求を聞いて、この店の店主がやってきた。荒くれ者が多い冒険者相手の商売を長年やっているだけあって、流石に強面で威圧感がある。
「この店の商品を在庫まで全て買い占めたい、と言ったのはお前か?」
声もかなり低くてドスが利いている。
これ、何を答えればいいのだろうか。僕が何かを考える前に口が動いた。どうやら花水さんが対応してくれるらしい。まあ、これは彼が言い始めたことなので、むしろ対応してくれなければ困る。
「そうですけど、何か問題でも?」
「あぁ? アンタ、正気か?」
「そりゃ正気ですけど、まあ、普通の人から見たら頭がおかしくなったと思われてもおかしくないでしょうね」
店主は首を捻りながら、
「まあ、アンタの精神状態よりも金の方が重要な問題か。一応、店番からは、アンタがアイテムボックス持ちで、それなりに金を持っているという報告を受けちゃいるが……この目で見なけりゃ信用ならねぇ」
「見たいですか? それじゃあ……」
花水さんが飼い犬を呼ぶかのように軽く手を叩くと、目の前に店主と同じぐらいの体積の金貨タワーが出現した。
「これはまだまだ序の口ですよ」
手を叩く度に先ほどと同様の高さの金貨タワーが次々と出現する。
その手が店主によって掴まれた。
「分かったからもういい! ……確かに、今まで見たことのない量の金だな。だが、こんな金持ちがいるなんて話、聞いたことないぞ」
その辺を詮索されると困るので話を強引に進める。
「それで、売ってくれるってことで良いんすか?」
「お前、どうしてこの商品を全部買おうと考えたんだ? アンタ、見た目的にも冒険者じゃないんだろう?」
「何で冒険者以外の人が武器を買ったらダメなんだ? アンタも冒険者じゃないんだろう?」
露骨に同じような言葉を返された店主が唸る。
「そういうことを訊いているんじゃなくてだな……アンタ、戦闘用じゃないなら、どういう理由でウチの武器を買うって言うんだ?」
「買いたいから買うんですよ。ほら、一つの店の商品を全部買うのって夢があるじゃないですか? 俺の理由なんてそれだけですよ」
「なるほど……夢。夢ねぇ……」
店主が何かを考え込み始め、店内が静かになった。
ここで、気になることがあったので尋ねてみることにした。
「あの……逆に、おじさんは何のために武器を売っているんですか?」
「そりゃ、うちは代々鍛冶屋の家系で、武器を造る傍らで武器屋も営んできたからな」
「先祖代々だからおじさんも武器屋を? 他にやりたいこととかないんですか?」
「そうは言っても、仕事ばかりやってきたから、すぐには思い浮かばねぇよ……」
「じゃあ、これから考えていけばいいんですよ」
首を傾げたおじさんに、
「今武器を僕に全て売ってしまえば、大金を持ったまま仕事を辞められるじゃないですか」
おじさんは、ハッとした表情を浮かべた。どうやら、仕事を辞めるという選択肢が頭の中から完全に抜け落ちていたらしい。
「確かに、家業だと思って毎日やっていたけど、この年になるとかなり辛い仕事だったからなぁ。大金が手に入れば仕事を継続する必要もない。今まで世話になった家族にも色々してやれるし、それになにより、ワシ以外にもまだ数軒武器屋があるから、俺がやめても冒険者が困るわけじゃねぇ」
小さく色々と呟いた後、
「よし、ワシの最後の仕事をしようじゃねぇか! ついて来な!」
と、今までより心持ち柔和な声をあげた。
そのまま店の奥の方に移動する。全商品の値段を僕と店主、店員総出で計算していく。
計算が完了したら、代金をキッチリと払う。5000兆枚の金貨を持っている僕から見れば微々たる金額だったが、店主たちはお金の置き場に苦労していた。
そのまま、武器をアイテムボックスに全て収納していく。ついでに、僕の後ろで武器を欲しそうにしていた駆け出し冒険者っぽい人に1つ好きなものを選ばせてプレゼントしてあげた。会計を邪魔してしまったため、詫び武器配布というわけである。
1つ1つ回収している間に、店員の人たちに給料が払われ、僕が回収を終えて店を出ると、店の前に「完売御礼」という札と、「閉店しました」という札が掛けられた。
店主とその家族に何度もお礼を言われながら見送られる。
店から遠のくと、花水さんの笑い声が聞こえて来た。
(いやあ、人助けというのは中々気分がいいものだ。さて、アウルム君、善は急げだ。このまま、他の武器屋も制覇するぞ!)
(え、この武器どうするんですか?)
(アイテムボックスの容量が無制限だから、今は無視でいい。むしろ、ほとんどの武器が金属で出来ているから、スキルで全部金貨に変換してもいい)
そうか。今まで【金遣い】というスキルの存在をすっかり忘れていた。
金属を自由に変換出来るというあのスキルさえ有れば、買い占めた金属製の武器を余裕で加工出来る。
(低クオリティの武器を外見そのままに高品質にして転売する、という手もあるな)
なるほど。これが御伽噺に聞く錬金術というものか……。
善は急げ、という花水さんの言葉通り、街にある武器屋の位置を色んな人から聞きつつ、行って根こそぎ買い占めるという行為を夜まで繰り返した。
たまに、冒険者の為に武器を売るという高い意識で、出し渋る店主もいたが、金の力でねじ伏せていく。
「あなたが武器を売らなくても、この街にはもっと多くの武器屋があるじゃないですか。冒険者の武器は他の人に任せて、一歩先を行きましょうよ」
というような言葉を何度言ったか分からない。
ともかく、深夜になる前に、この大都市の武器屋の武器を全て買い占めることに成功したわけである。
適当に入った宿屋の部屋で笑い合う。
(これで、この街から武器屋が消えた! 明日は防具屋、明後日は道具屋だ。このペースで皆を労働から解放して幸せにしてあげようじゃないか)
(皆、最後には幸せそうな笑顔を浮かべていましたから、まるで神様になったかのような気分でしたよ!)
(言っただろう? 金さえあれば神になれる、とな)
その夜、冒険者たちは、いつもの武器屋に行っても何故か閉店しているという怪奇現象に遭ったらしい。しかし、多くの冒険者は疲れていたため、他の武器屋に行くのは翌日にしよう、と考えたと言う。故に、僕たちの所業が明らかになるのは数日後になるのだった……。
私用でスケジュールがアレなので、次回の更新は3月になります。ご不便をかけますが、よろしくお願いします。