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ただのお客様(神様)ではありませんので(上)

お待たせしました。かなり久々の投稿になりました。申し訳ありません。この時期忙しくて……。次回の更新は2月前半辺りを予定しております。

冒険者登録に失敗して落ち込んでいた僕に対して、神様になろう、などという素っ頓狂なことを言い始めた花水はなみずさん。お客様は神様だ、などと言い張っているが、そんなものなのだろうか。そんなことで神様になれるなら誰も苦労はしないはずだ。


(まあアレだ。誰にとっての神なのかが重要なわけだ。俺を微妙な形で転生させたゾーイとかいうのも、せいぜい金運だか商売繁盛だかの神で、健康長寿とか安産とかの神じゃなさそうだし?)


 言われてみればそんな感じがしなくもない。僕たちが知っている神話にも、神様はたくさん登場する。どの神も個性的に描かれていて、得意なこともそれぞれ違っていたはずだ。

 そう考えてみれば、神は全てのことを完全に出来て当たり前、という僕の偏見が間違っていたのかもしれない。

 その構図を現実的なところに当てはめると、商品を買ってくれるお客様は、商品を買って欲しいと思っている人にとっての神でしかないが、一応神とも言える。


(じゃあ、どこの店で神様になるというんです?)


 僕の質問を受けて花水さんが笑い始めた。それは思考の中だけでなく、現実の僕の身体まで動かしていたので、傍から見ると、突然笑い始めた危ない人にしか見えない。早くやめて欲しい。

 花水さんが上機嫌に答える。


(どこでも良いに決まっているじゃないかアウルム君! 俺たちはただのお客様じゃない。神様からこの世に遣わされたレベルのお客様だ! 無限のアイテムボックスと、およそ使い切れないような金! これがあるのに、ただのお客様に甘んじる必要などない!)


 おぉ……言われてみればそんな気がしないでもない。


(さあ、行くぞ!)

(はい!)


 そういうわけで一番近くにあった武器屋に赴く。


「いらっしゃいませ」


 かなり大きな武器屋だ。見れば初心者向けと思われるような安価な武器から、上級者向けと思われる高価な武器まで揃っていた。


(花水さんは、何を買うつもりなんですか?)

(一応聞いてみるが、お前は何が買いたい?)


 店をぐるりと回って、「初心者さんにオススメ!」と店員さんが一言コメントを書き添えている安めの武器のところに戻ってくる。


(うーん、武器の扱いに慣れていないから、最初はこういう初心者向けの武器が良いかなぁ……)


 その瞬間、


「プッ」


 と嘲笑の声が聞こえて来た。……それが自分の口から発せられたものであるということに気付くまでに少し時間が掛かってしまう。


(な、なにが可笑しいんですか!)

(いや、なに……冒険者登録が出来なかったことをもう忘れてしまったのか、と思ってな)

(忘れるわけないじゃないですか!)

(じゃあ何でまだ真っ当な冒険者を目指しているんだ? 唯一の望みである神官様まで逃げ出したんだぜ? ギルドに登録するような正式な冒険者なんてもう無理だ)

(そんなの、まだ……)

(いや、心の底ではもう無理だということを薄々感じているんだろ? なら、新しいことを始めないとな)


 確かに、花水さんの言う通り、僕は心のどこかで冒険者になることを諦めていたのかもしれない。すんなりとその言葉を受け止める。


(初心者用のコレじゃなかったら……花水さんなら何を買うと言うんですか?)

(ハハハ。じゃあ、会計のところまで行こう。冒険者になれなかった恨みを間接的に晴らそうじゃないか……俺は特に恨みとかないけど、面白そうだからこの世界の冒険者のみんなマジでゴメン、とだけは先に言っておく)


 僕も恨みと言うほどの強い感情は抱いていないはずだけど、それでも花水さんが何をするつもりなのか見てみたかったので止める気にならなかった。

 会計のところで暇そうにしている男性店員さんに声を掛ける。


「すいません」


 ボケッとしていた店員さんが慌てて反応した。こちらを見て、訝しげな視線を送って来る。


「は、はい……どのようなご用件ですか?」


 自分の左側にある武器を左親指で指差し、


「ここから……」


 店中を人差し指で指差しながらぐるりと一巡して、再び店員さんの目の前に置いてある武器のところまで戻ってくる。


「ここまで、全部ください」


 店員さんが目を何度かパチクリさせた。

 数秒の沈黙を挟んで、恐る恐る声を掛けられる。


「あの、もう一度分かりやすく説明してもらえませんか?」

「じゃあ言い方を変えます」


 ごくり、と喉を鳴らしながら店員さんが耳に手を添えた。

 ねぇ、少し耳を塞ごうとしているようにも見えなくない手の形になっているのはわざとなのかな? いや、こんな面倒くさい客の言葉なんて聞きたくないのかもしれないが。


「この店にある商品、在庫も含めて全部売ってください。買います」


 再び沈黙が訪れる。

 苦し紛れに店員さんが聞き返してきた。


「あの、在庫含めて全部売れって言いました?」

「はい。そう言いましたが? 一回目は在庫の話が出来なかったので、少し言い方を変えさせてもらいました」

「いや、ちょっと……えぇ……」


 数秒悩んだ末に、パッと明るい表情を見せた。


「あなた、そんなお金をどこにも持っていませんよね? 冗談は止めて、おうちに帰ってくださいよ」

「ふーん……そういうこと言うんだ」


 そう言いながら、花水さんがしゃがみ込んだ。


「ちょっ、ちょっと、他のお客様の御迷惑になるので……」


 慌てた様子で店員さんがカウンターから出て来る。


「他のお客様の……」


 店員さんの注意の言葉が止まる。

 そりゃそうだ。ポケットの中から金貨を大量に取り出しつつ、賽の河原で石を積むように金貨を積み始めていたのだから。


「お、お客様……そ、それは……?」


 機械的に金貨を積む手を動かしながら、


「見て分からないか? 金だ」

「え……はあ、確かに……」


 立ち上がりながら自分の身長と同じぐらいの高さまで金貨を積み上げ、再びしゃがみ込んで二本目の金貨塔を作り始める。


「えっ……あの、お客様、そのお金、どこから……?」

「冒険者相手の商売をしているのに、アイテムボックスもしらないのか?」


 呆れたように言うと、店員さんはすぐに畏まった態度を取った。


「す、すいません! そのような方だとは思わず……じ、自分、雇われの身なので店長を呼んで来ます! 少々お待ちください!」


 店員が逃げるように店の奥に行くのを見ながら溜め息をつく。


(結局、俺らが神なんじゃなくて、金が神なんだよなぁ……まあいいや。大事なのは、金さえあれば神になれるってことだよ)

(金さえあれば……か)


 確かに、今積み上げた分でも、僕らの在庫からすれば氷山の一角どころの騒ぎではない。

 もっと多くのお金を持っている。

 しかし、この店の商品を全て買い占めて何をしようというのだろうか……?

 考えている僕の隣では、さっき僕が買おうと思っていた初心者用の装備を腕に抱えた人が、あんぐりと口を開けて立っていた。その剣は、もう魅力を失って見えた。


次回もよろしくお願いします。

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