深い川には気を付けよう!
思い付きで書き始めました。
或る程度やりたいこともありますが、皆さんの感想などを受けてストーリーを作るようなこともやってみたいなと思っています。
「こんな展開が良いんじゃないか」「こんなキャラが見たい」などの要望をどんどん書いて下さるとありがたいです。
ある日、川に洗濯に行くと川の底にちょっと豪華そうな剣が刺さっているのが見えた。
昨日まではあんなもの無かったはずなのになぁ、と思いつつ、いつも通り洗濯をする。
僕の家は農家だから、泥汚れが多くて洗濯が大変だ。集中して作業しないと、かなりの時間がかかってしまう。
だけど、何故か僕の視線は時々あの剣に引き寄せられてしまった。
このままだと作業にならない。……こうなったら先に剣を引っこ抜くしかないな。
決心して川に踏み込んでいく。大丈夫だ。この川は子どもの頃から何度も遊んだ川なのだから慣れている。
そう自分に言い聞かせながら、ゆっくり進んでいくと剣の数歩手前まで移動する頃には、僕の首元まで水が来ていた。あれ、こんなに深かったっけ?
子どもの頃からこの川で何度も遊んでいたけど、実際の所、川の中央部分まで近づくのは初めてだったので気付かなかった。
あの頃は親が口うるさく、
「川の中央部分は深くなっているから行っちゃダメ!」
と何度も言っていたなぁ。
近くにあると思っていた剣が、意外と遠くにあるみたいだ。でも、少し潜れば柄を握ることが出来た。このままちょっと潜ってサクッと引き抜いてしまおう。
潜って川底に足を付け、腕に力を込める。しかし、予想外に深く刺さっているみたいでビクともしない。
何度かチャレンジしていると、剣が川底を少しずつ破壊しているのか、少しずつ剣がグラグラし始めてきた。そして、一気に力を込めると、ついに剣が抜けた。
その結果、何故か剣が光り輝いて水の流れが激しくなり、僕は流され始めた。物凄い勢いだったので川底が削られ、どんどん深く、そして川幅も段々広くなっていた。
あまり泳ぎが得意ではなかったので、すぐに川の奔流に呑み込まれる。
「助けて、母さん! 助けて、父さん! 僕はまだ、死にたくないっ!」
でも、その声は誰にも届かない。僕は毎回混雑を避けるために、あまり他の人がこの川を利用しない時間帯を避けて洗濯をしていたからだ。声が届かないだけではなく、僕が流されている光景を目撃する人も皆無に近いだろう。
「助けて、リゼ!」
幼馴染で僕の唯一の友人である女の子の名前を叫んでも、やっぱり届かない。
どうせ助からないのなら、と重たい剣に縋りつく。真っ先に手放していれば少しは助かる見込みがあったかもしれないのに、僕の根底にある欲深い心がそれを邪魔したのだ。
貧しい農民だから、この高そうな剣を売れば数ヶ月は楽して過ごせるだろう、という邪な考えが僕の心の中で通奏低音のように響き続けて鳴りやまなかった。たとえ命の危機が目前にまで迫っていたとしても。
段々沈んでいく身体を頑張って浮き上がらせる。
○o。.ゴボゴボボボボ.。o○
「この川……深いから、深いっ!」
何とか顔を上げて叫んだその台詞が、僕の最期の言葉になった。
気付けば、目の前に黄金のオーラを放つ女性が座っていた。目元は黒い眼鏡のようなものに覆われていて、よくわからない。
あと、女性の後ろにどう見ても場違いな40歳ぐらいのおじさんが立って変な踊りを踊っていた。手足を閉じたり開いたり、たまに両手を交互に天に向かって突き上げている。新手の雨乞いなのだろうか。
そのおじさんは恰幅がよく、上質そうな黒い服を着て、眼鏡を着用していた。恐らく貴族か何かなのだろう。若干頭髪が寂しくなっているけど、お金持ちならこのような絶世の美女とも結婚出来るのかな。
女性が僕に気付いて僕に語り掛けてきた。
「よぉ、ようやく覚醒か? てか、その年齢なら学生か? いや、私女神だから知ってるぞ、お前は農民だ。智慧が無いから脳筋生活、商いが出来ないから納金を延期。家を担保に借金暮らし♪」
自称女神の女性があまりに無遠慮な言葉を掛けてきたので、思わず少し睨んでしまった。
「おっ、ちょっとは良い表情出来んじゃん。私、ゾーイ。職業、女神。今日も一日がんばるぞい」
差し出された手を握るべきか悩む。
悩んでいる間に無理矢理右手を掴まれた。相手の手の温もりが、一瞬だけ伝わって来てすぐに消えた。
強い違和感を覚えて自分の右手を見ると、いつの間にか眩しく金色に輝いていた。しかし、全く動かせない。
まるで本物の純金になってしまったかのように見える。
慌ててゾーイの顔を見ると、ニチャァとした笑みを浮かべていた。
「どう? これで女神だって信じてくれた?」
無言で頷くと、手を元通りに直してくれた。
今までの変なリズムのついた口調ではなく、真面目な口調でゾーイが語り始めた。
ところで後ろのおじさんは何者なんだろう。
「君、確か名前はアウルムだったよね。端的に言うと、今の君は死にかけなの。でも、私よりも上の神が落としちゃった剣を探し出してくれたおかげで、君には今チャンスが与えられています」
「チャンス、ですか……?」
「そう。アウルム君、金貨5000兆枚と異世界転生チートライフ、あなたはどちらを望みますか?」
金貨5000兆枚か……想像は出来ないけど、物凄い枚数なんだろうなぁ。でも、異世界転生チートライフって何だろう。
「あの、異世界転生チートライフって何ですか?」
ゾーイはニヤニヤした笑みを崩さず、
「私はヒントを出しちゃダメって言われてるから、想像で考えて?」
異世界転生チートライフ……色々考えたけど、全く想像できない。まるで異国の言語だ。
よくわからないものよりもよくわかる金貨5000兆枚だ。金貨5000兆枚欲しい!
そう、心が叫びたがっているんだ。だから、遠慮なくその言葉を解き放つ。
「僕? 僕は勿論……金貨5000兆枚!」
僕の言葉を聞いたゾーイは益々笑みを深めた。
「良いね! その素直な感じ、とてもいいよ。正直なあなたには、チート能力もオマケしてあげましょう。ただ……」
言葉尻を濁すゾーイを問いただす。
「ただ……何ですか?」
「ただね、異世界転生だと楽にアウルム君を復活させられるんだけど転生なしで復活させるのって少し面倒なんですね。だから……」
一旦言葉を切ったゾーイは大きく息を吸い込み、あらぬ方向へ向かって叫んだ。
「欲張りセット入りま~す!」
ゾーイの声に木霊するように、
「一万円入りま~す!」
とか、
「麺が、上がりま~す!」
等という言葉が聞こえて来た。よくわからないけど、今の状況とは全く関係ない言葉のような気がする。
ゾーイは何度か頷き、
「上から承認をいただいたので、アウルム君には欲張りセットを適応します」
全く話が読めない……。
困惑している僕を置き去りにしたまま、ゾーイはビシッと3本の指を立てた。ちなみに、人差し指・中指・薬指の3本ではなく、親指・人差し指・中指の3本であった。
「まず、あなたの願い通り金貨5000兆枚をあげましょう」
「はぁ、ありがとうございます」
「次に、あなたにチートスキル一式を授けましょう。詳細は後で確認してください」
「はぁ、ありがとうございます……って、ちょっと待ってください! チートってスキルのことだったんですか? 冒険者になるために絶対に必要なのに、授けて貰うために滅茶苦茶お金が掛かるという……」
これで僕も昔からの夢であった冒険者の仲間入りが出来るのかもしれない。そう考えると、今からでもワクワクした。
ゾーイは面倒くさそうに頭を掻いている。
「あー、現代知識チートとか能力値的な方のチートが欲しかったってことですか? 欲張りさんですね……」
「あっ、いえ、違うんです。チートって言葉自体がよくわからなかったから確認しただけです。スキルは昔から欲しかったので、とても嬉しいです」
本音を打ち明けると、ゾーイは満足そうに何度か頷いた。
「三つ目として、あなたを復活させてあげましょう。先ほど欲張りセットが承認されたので、あなたを完璧に復元するという何日も掛かってクソ面倒な復活方法ではなく、よりスピーディーでより強化された状態で復活出来るような復活方法が適応されます」
「?」
何を言っているのか、イマイチ見えてこない。考え込んでいると、言葉が付け足された。
「今のあなたに欠けている生命力を他所から借りてきます。まあ、率直に言えば、死んでしまったこのオッサンがまだ残している生命力を用いてあなたを復活させるということです」
例のおじさんは未だに変なダンスを踊っている。
ゾーイの言葉通りだと、僕の中にこの変なおじさんの生命力が使われる……? 何か嫌だなぁ。
「あの、僕は別に復活までに少し時間が掛かってもいいので、そのおじさんはちょっと……」
さっきから変な舞を繰り広げていたおじさんの動きが止まり、僕の方を鬼の形相で睨んできた。もしかして聞こえているの? 怖っ。
ゾーイは笑顔を絶やさず、
「欲張りセットはキャンセル不可なので、諦めてください。まあ、あなたの2割ぐらいがこのオッサンに置き換わる程度のことですよ」
ゾーイの言葉を受けて、おじさんが再び謎の舞を繰り広げ始めた。
それにしても2割……2割か……。僕の家はハゲの家系ではないはずなのだが、将来禿げてしまうのだろうか。
しかし、僕の出来ることは何も無いので、諦めるよりほかはない。
「この3点が欲張りセットですね。では、これから楽しい金貨5000兆枚ライフを! ……あっ、あの剣は回収させていただきましたので気にしないでください」
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ちまちま更新していく予定なのでよろしくお願いいたします。