第8話
南の地域・トッポ―――
ガルドは運悪くシオンと離れ、ここに辿り着いた。
トッポの北東の端にある、大きな修道院。
「スズ修道院」の近くの浜辺に、ガルドは流れ着いたのだった。
「・・・む」
ガルドは目を覚ました。
シオンとは違って、ガルドに故郷はもう・・・無い。
しかしある意味では、それよりももっと良い環境が、目の前にはあった。
シオンが天国と間違えたかのように、ガルドもまた、天国のような環境にあった。
「あら、目を覚ましたのね」
この世のものとは思えないほどの、美しい美少女が、目の前にいた。
ちなみにライアも美しい女ではあるが、シオンはそこには大して意識していない。
「・・・ここは?」
しかしガルドは、女性には全く興味が無かった。
むしろ若い女性と話した(?)のも、これが記憶にある内では初めてだ。
「ここはトッポのスズ修道院よ」
美少女は、にっこり笑って答えた。
「わたし、マザーに報告してくるから」
そう言って、美少女はゆっくり部屋を出て行った。
修道院の一室のベッドの上に、ガルドはいた。
「・・・はっ」
ガルドは辺りを見回した。
「良かった」
『斬鬼』は、ちゃんと手元にあった。
「(あれから何日経ったのか・・・)」
この世界に、日付けというものはまだ無かった。
ちなみに星は後に「地球」と呼ばれ、海が大半を占める球体であることが解明されるが・・・それもまだだった。
大陸は大体一つにかたまっていて、それが「世界」と呼ばれている。
だから例えば東の地域・アルカディアと、西の地域・ラークは繋がっていない。
間には、大きな海がいつまでも広がっている。
「マザー」
美少女は、マザーの所に行って、ガルドが目を覚ましたと報告した。
「あら良かったわね、リーン」
美少女はリーンと呼ばれた。
数日前、リーンは他の修道女たちと共に、ガルドを見付けてここへ運んだ。
「えへ」
その際リーンは、「このひと、なんかかっこいいかも!」と発言している。
リーンは17歳。
少女のような可愛らしさと、大人の女性のような美しさを併せ持つ。
「わたしね」
部屋に戻ったリーンは、ガルドが刀を持っているのに何も突っ込まず、話した。
「ずっと昔、お父さんとお母さんがわたしを育てられなくなって、マザーにもらわれたのよ」
「・・・。」
「それからずっと、ここで暮らしてきたの。みんなとってもいい人なのよ」
「・・・。」
「わたし、リーンっていうの。あなたは?」
「(よく喋る女だな)・・・ガルドだ」
「『ガルドダ』さん?」
「違う、『ガルド』!俺はガルドだ」
ふと、思い出した。
数週間前、「俺は鬼だ」と言っていた事を。
シオンに会って、自分は・・・何か、変わったのかもしれない。
「ガルドね!よろしく」
リーンはガルドに、手を差し伸べた。
彼女はガルドに、興味津々だった。
ガルドもまた、多少はリーン、というか女性に興味を持ち始めた。
ガルドも刀をしまって、リーンと握手したのだった。
「・・・世話になったな」
「え!?」
「俺にはやる事がある。もう行くからな」
「もう、いっちゃうの?」
「(子供みたいな女だ・・・)ああ」
ガルドは素早く部屋を出た。
面倒な関り合いは、したくない。
いずれ借りは返す。
それで文句無いだろう。
広い修道院だな、と思いながらしばらく歩いていると・・・
「きゃあ〜!」
修道院の出口で、声がした。
「!」
ガルドは急いでそこに向かった。
リーンも、だった。
というか彼女は部屋からずっと、ガルドを尾けていたのだが。
修道女の一人が、鬼型モンスター「デーモン」に襲われている。
「ミリア!」
リーンがかけて行こうとすると、ガルドは止める。
「下がってろ」
ガルドは石をぶつけて、デーモンの気をひいた。
デーモンがガルドを襲う。
「トッポ・・・なるほど生物があまり存在しないだけに、モンスターは強いのがいるようだな」
ガルドは素早く刀を抜き、デーモンを真っ二つにした。
敵の急所点を結んだ線を斬り、一刀両断する技・・・「斬撃」だ。
「グアオオッ」
デーモンは大きな傷跡ができて、倒れて消えてしまった。
モンスターは、死ぬと粉になって消えてしまう。
「・・・。」
ガルドはゆっくり外へと歩いて行った。
「まって!」
リーンは叫んだ。
「せめてお礼くらい・・・させてよ」
「・・・。」
ガルドは修道院に、戻って行った。
「ミリアの危ない所を救っていただいて、ありがとうございました」
マザーはガルドに向かって、礼を言った。
「・・・ここは強いモンスターが結構いるはずだ。何であんたはここで修道院なんてやってるんだ」
「ここトッポは砂漠と海が広がっていて、北のロマスには山川森があります」
「自然が好きなのか」
「好き、というよりは・・・まあ、その環境で修道院を開きたいと思っていましてね」
「・・・そうか。まあ良いが、気を付けた方が良い」
「ええ、それはもちろん。いつもは結界を張っているのですが、今日は弱まっていたようです。ご迷惑をおかけしました」
ガルドがただのおばさんに、こんなアドバイスをするとは。
シオンが見たら何と言うだろう。
「この修道院ではね、ヒーリングを教えているのです」
「ヒーリング?」
「光の精霊の力を借りて、傷を治す魔法です」
「そんな魔法が存在するのか。それに、精霊?」
「ええ。この世界には、精霊というものがいるのです。精霊の声を聞き、光の力を多くの人間に使ってもらう為に、私はここにいます。ここには光の精霊が存在するのです。ですからここで、修道院を」
「・・・そうか」
ガルドは半信半疑だった。
というか、もうこの修道院のことには興味が無かった。
今日は泊まって下さいと言われて、部屋を借りたガルド。
そこにまた、リーンが入ってきた。
「・・・またお前か。他人の部屋に勝手に入るなとは、習わなかったのか」
リーンは無視して、
「ケガはどう?」
「ケガ?俺はケガをしていたのか?」
「あっ、じゃあ効いたんだね。私の『ヒーリング』」
「お前もそれが使えるのか」
「ここの人はみんな使えるわ。ずっと習ってきたんだもの。勉強と、魔法と、精霊への祈り。日課なのよ」
「・・・。」
「ガルドって強いから、わたしがヒーリングを使うこともなかったね。あんな強いモンスターを無傷で倒すなんて」
「いや、ここに俺が来た時ゲカしていて、それをお前が治したなら・・・有り難い」
「ふふ」
「・・・。」
リーンはしばらく、部屋から出て行かなかった。
「おい女」
「わたしはリーンよ」
「・・・マザーは、魔法使いか?」
「いいえ。ずっと昔に光の精霊の声が聞こえて、ヒーリングが使えるようになったらしいわ。それからずっと、ここにいるの」
やはり魔法使いは、まだ人間とはそう馴染んでいないようだ。
それに、ここトッポに魔法使いはほとんど存在しない。
「光の精霊というのは、本当に存在するのか?」
「わからないわ。マザーはそれを信じてるし、わたしたちもそれに従っているけれど」
「ここにいるのは皆孤児か?」
「ええ、そうよ」
「そうか」
ガルドはそれ以上何も言わず、眠ろうとした。
「ねえ」
「何だ」
「ガルドは明日、旅立つんでしょ?」
「そうだ」
「どこに行くの?」
「さあな。とりあえずは、東に戻るか」
「ガルドは東から来たの?」
「ああ」
「わたしね」
「(本当によく喋る女だ・・・)」
「ずっと修道院の外に行ってみたいって思ってたの。世界は危険だからって、ずっとここにいるのよ」
「それが賢明だ」
そう言えばシオンも、ずっとそうだったと言っていた。
ガルドもアルカディア以外の地域に来たのは、これが初めてだったが。
「西の地域には、『ステージア』っていうところがあるんだって」
「ほう」
「そこでは人間がお金を払って、魔法使いが魔法を教えてくれるんだって」
「何」
「本来人間は、みんな魔法の資質を持ってるのよ。私たちだって、魔法使いがいなくても、こうして回復の魔法が使えるわ。ちなみに毒や混乱だって、治せるのよ」
人間は、魔法使いに魔力を与えられるもの。
そして魔法使いは、よほど気に入った人間にしか魔力を分け与えない。
古くからそう伝えられている。
ガルドは、常識が覆された気がした。
「わたし、もっといろんな魔法が使えるようになりたい」
「・・・俺も」
「え?」
ガルドは、口を開いた。
「俺も魔法に耐性が欲しい。俺の敵は、魔法を使う」
「・・・ねえ、わたしも一緒に連れていってくれない?」
「何だと」
リーンの眼は、どうやら本気だった。
「俺にガキの守りが似合うと思うか?」
「子供じゃないもん!」
リーンの怒った顔は、本当に可愛かった。
ガルドのような男でなければ、すぐにでも連れて行くだろう。
「俺は戦いに生きている。倒すべき敵がいるんだ」
「わたしも、魔法を覚えて協力する。今だって回復魔法は、きっとあなたの役に立つわ」
「・・・。」
ガルドは迷った。
シオンに初めて会った時、自分も同じような事を言っていた。
人間とは自分の実力を、他者に認められたいものなのだ。
「・・・好きにしろ」
「やった!ありがとう、ガルド」
リーンは大喜びで部屋を出た。
翌日―――
「元気でやっていくんだよ、リーン」
「はい、マザー。みんな、また会おうね」
リーンは皆に手を振った。
「立派な魔法使いになってねー!」
マザーも友達も、リーンの決心を聞き入れた。
「・・・行くぞ女」
「うんっ!私はリーンだってば」
明るい娘のような、落ち着いた女性のような・・・不思議な少女・リーンがガルドの仲間になった。
二人は西を目指し、歩いて行った。
一方、シオン―――
「パルテ」は、ごく普通の町だった。
シオンはいつものように、酒場で情報を集めた。
「ステージア」という魔法の国では、魔法使いが金で人間に魔法を教えているという。
シオンもまた、驚いた。
ヴィオラさんは、きっと知らないだろうなあ。
この話をしたら、驚くだろうな。
怒るかな?
どうでも良い事を考えながら、シオンは「ステージア」を目指し、進んだ。
シオンも魔法が欲しかった。
途中、骨型モンスター「スケルトン」や岩モンスター「ゴーレム」などに襲われたが、
新技「Wスラッシュ」などにより、シオンは次々に倒して行った。
ちなみに剣は、適当なものを店で買った。
そしてシオンは、魔法の国「ステージア」へと辿り着いた。
「ん?お前」
「え?あーっ!」
目の前にいるのは、何とあのジョーだった。
「ひ・・・久しぶり。でもすごい偶然だなあ」
シオンの「すごい偶然」。
ガルドをすぐに見付け出し、故郷に流れ着き、ジョーと再会。
これで三度目だ。
「おー。まぁみんな西じゃあ、ここステージアに来るだろうからなあ。先日大国のドラナグもぶっ潰れちまったらしいしな」
ゼットか、黒マントの男・ジェノだろうか?
「まあそこらの店で、話そうぜ」
シオンは今までの旅を全て話した。
「なるほどねー、随分いろいろあったんだな。ってか本当にガルドを仲間にするとはスゲーなお前」
そう言えば、ガルドはどうなったのだろう。
無事だろうか?また会えるかな。
「意外にもガルドは、ジョーより年下だったよ。ジョーは何してたんだ?」
ちなみにジョーは、20歳。
「俺は今まで西の宝を探してたが・・・ここはあんま、宝が無いなあ」
「そっかー」
「あ、でもよ、なんか魔力が宿ってる鎧を見付けたんだよ。俺は鎧は使わないから、お前にやるよ」
「本当!?ありがたいよ」
「それから剣も見付けたんだがな、コイツは俺の武器だからやれんぜ」
ジョーも剣士になっていた。
預けていた青と銀の鎧を取り出し、ジョーはシオンに手渡した。
シオンはライアのくれた水色の服の上に、鎧を着た。
力が湧いてくる。
「すごい・・・ありがとう、ジョー!」
「おう、再会祝いだよ」
この鎧の色・・・ゼットの鎧と、反対だなあとシオンは思った。
ゼット、絶対に止めてやる!
「で、シオンよ。ここに来たからには」
「ああ、魔法が欲しい」
「俺もだ!でも金はあるのか?安くはないらしいぜ」
「・・・。」
「・・・相変らずだな。俺が貸しといてやるから、ちゃんと返せよな」
「かたじけないっ」
ジョーは宝を売って、結構な金持ちになっていた。
そして強さを求めるようになっていた。
二人は魔法使いの下へと向かった。
「魔法修行所・マジカリア」。
「ふむ・・・」
魔法使いの女の子は、二人を見た。
「あなたは無属性ね。どんな魔法でも容易に使えるわ」
「やった!」
シオンはそう言われて、喜んだ。
「あなたは雷ね。まずは雷の魔法から始めるべきね」
「へーっ。まあ良いけど」
ジョーは、こんな感じだった。
「ここで数日間、簡単な修行をしてもらいます。いいですか?」
「はいっ」
「おー」
二人は修行を始めた。
そして数日後―――
シオンは見事、炎の魔法「ファイア」と水の魔法「アクア」、雷の魔法「サンダー」を得た。
ジョーは雷の魔法「サンダー」、「サンダーストーム」、「ショックスタン」を会得した。
「ジョー、俺はドラナグに向かうよ。何か手がかりがあるかもしれない」
「まあ北じゃなければ、そんなに危険はねーだろう。俺も行くよ」
こうして二人は、ドラナグ帝国へと向かった。