第7話
ちょうどジェノたちが、ドラナグへ向かっている頃。
シオンとガルドは、エルクハイムに到着していた。
「・・・呪い刀『斬鬼』、良い切れ味だ」
テッサイの命が宿っているのか、ガルドの本性なのか。
この刀を使う時、ガルドの眼は鬼と化していた。
襲い来るモンスターさえ、可愛く見えた。
「斬鬼」はまさに、もう一つの魔剣であった。
この数日後に、もう一つの魔剣の使い手・ダークが誕生する事になるとは、当然彼らは知りもしない。
「これなら勝てるかな?」
シオンも当然、着実に強くなっている。
「・・・行くぞ」
シオンとガルド。
強者剣士二人は、エルクハイムの後の「魔王」を倒しに来た。
城は、荒れていた。
数週間前に、ジェノたちが住人を皆殺しにしたからだ。
「・・・行こう」
「ああ」
二人は城の中へと、ゆっくり入っていく。
「待て」
すぐ後ろから、声が聞こえた。
「(また・・・だ)」
ガルドは恐怖した。
あの時と、同じ。
ゼットだ。
「来てくれたのかガルド。それから・・・」
シオンは振り向き、見た。
緑の髪、紫の眼。
今は金と黒の鎧と、赤いマントをつけている。
「ゼット」「シオン」
声が揃った。
しばらく、沈黙が走った。
「・・・中では戦いにくい。外に行かないか」
ゼットはまるで、昼食でも誘っているかのような落ち着いた口調で言った。
三人は、アルカディアの南東の端の、海辺へ向かって歩いていた。
「ずっと城にいるのも退屈でな。よく歩くんだ」
ゼットはそう言った。
「(このオーラ、この落ち着いた雰囲気、本当にゼットなのか?)」
シオンは思った。
「(まだ・・・敵わない・・・)」
ガルドは、まだ恐怖していた。
一度負けたのだから、当然かもしれない。
「久しぶりだな、シオン」
ゼットは言った。
「私を追っていたのか?私は私のやり方で、強くなる事にした。心配するな」
「・・・。」
島の時とは逆に、シオンが挙動不審になっていた。
ゼットは腕など組んで、偉そうにしている。
そう言えば金の鎧などもつけて、ますます偉そうだ。
ゼットは更に語った。
「この鎧は、南で見付けたものだ。東の遺跡の宝は、随分荒らされているからな。良い物を見付けるには歩くに限る」
「ゼット、あの黒マントの男は?」
「シオン、君も鎧を着けた方が良い。ガルドは身軽な方が好きみたいだがな」
「ゼット!ライアとケンザキさんをやったのは―――」
「そんな事は、今はどうでも良い事だろう」
「どうでも・・・良いだって!?」
「マントの男はジェノ、私の側近だ。ライアとケンザキは、おそらく奴がやった」
「じゃあ!ゼットは」
「着いたぞ」
シオンの目に一瞬希望が見えたが、ゼットの声にかき消された。
もうゼットは、戦う事しか考えていなかった。
シオンはガルドが恐怖しているのに、やっと気付いた。
あのガルドが!
「シオン・・・もう私は、君の親友だったゼットじゃあないんだ」
「!?」
「私は世界の王となる。君たちは私の糧となる為、ここで今から私と戦う。それだけだ」
「なっ!?」
「剣を抜け」
「・・・。」
シオンはもう、何を言っても無駄だと思った。
もうここに何をしに来たのか、なぜ旅立ったのかも忘れかけていた。
が、最初に思ったように・・・ゼットを止める!
シオンは、ケンザキの剣を抜いた。
「・・・ケンザキのものだな。良い剣だ。私もそろそろ新調しなくてはな」
どこまで落ち着き払ったゼットの態度に、シオンは腹さえ立った。
この旅の目的とも言える存在をやっと見付けたのに、悔しかった。
虚無感があった。
「ガルド、お前も刀を抜け」
「!?」
「私は自分の力を試したい。今度は魔法も使わせてもらおうと思ってな。一対一では物足りん」
ガルドは決心し、刀を抜いた。
自分はとにかく・・・シオンの力になるだけだ!
この時のゼットの力は、既にとっくにジェノの力を超えていた。
ゼットには資質があった。
ジェノがそれを引き出したのだが、彼が後に後悔するほどの実力をゼットは秘めていた。
あれからゼットは一人修行し、いくつものモンスターを倒し、闇以外の魔法も自分で編み出した。
きっかけはコンプレックスとジェノという存在だったが、今の彼はもう究極の魔法剣士であった。
ジェノとゼット・・・この物語の「悪役」は、両者ともただひたすら最強を求める者である。
今ジェノは仲間を、ゼットは強さを求め続けていた。
そして得た。
「・・・やるか」
三人は、それぞれ武器を構えた。
それぞれの思いを胸に、戦いは始まる。
崖下で、波打つ音が聞こえる。
シオンは、「スラッシュ」を放った。
「フン・・・」
ゼットは素早く剣を抜きそれを防ぐ。
更にそのまま、大きく横一文字に剣を振った。
「ショックウェーブ」!
その衝撃波は、シオンとガルドの両者を斬りつけた!
「ぐはっ!」
「つ、強いッ」
無銘の剣で、ここまでとは。
「・・・修行したのでは、ないのか?」
ゼットは残念そうに言った。
そして地の魔法「グランドブレイク」を放った。
シオンの下の地面が割れて、ジオンはよろけてつまずいた。
「うわっ」
ゼットは素早く移動し、眼下のシオンに向けて言い放つ。
「人間は負けて強くなるものだ。君が教えてくれたんだ」
シオンは恐怖した。
ゼットはシオンの眼前に剣を置く。
そして、シオンの剣を素早く叩き折った!
シオンは殺されるとさえ思った。
強すぎる・・・
ゼットはシオンを蹴飛ばした。
シオンは折れた剣を持ち、崖の下に、落ちて行った。
「うわあああーっ」
「シオーンッ!」
ガルドが駆け寄るが、その前に左手を出したゼットが立ち塞がる。
「続きをしよう、ガルド」
ゼットの巨大火炎弾「ナパームストライク」を、必死で避けるガルド。
「クッ・・・」
そして一撃喰らい、ガルドは大ダメージを受けた。
「ガッ!」
ガルドは魔剣「斬鬼」を使う間もなく、敗れた。
「ガルドッ!」
「・・・!」
一瞬にして、ゼットはガルドの眼前に来た。
前の時も強かったが、今はその比ではない!
「・・・どんな修行をしてるんだ?」
ガルドはつい、尋ねてしまった。
「まあ楽して強くは、なれんな。」
「・・・。」
何とガルドは、崖に向かって走り出した。
「シオンを助けるつもりか?やめておけ、このへんの流れは早くてよく変わる。奴もお前も、どこに着くかわからんぞ」
ガルドは思った。
どこに流されようが、このままお前と戦って、死んで地獄へ行くよりはマシだ。
まあ、ゼットはまた自分を生かすだろうがな・・・
ガルドは海に飛び込んだ。
「・・・。」
ゼットはゆっくりと、城に戻った。
数日後―――
エルクハイムの城に、ジェノが帰って来た。
「ただいま戻りました」
「お初にお目にかかります」
「・・・。」
「ガオウッ」
ジェノ、シルヴィス、ダーク、グレイヴは、それぞれ挨拶(?)した。
「ジェノ」
「は」
「随分良い仲間を連れているな。それで私を倒すつもりか?」
「・・・いえ、決してその様な。皆私やゼット様と同じ志を持つ、強力な仲間です」
「同じ志?」
「この世界を支配し、新たな世界を創造するのです」
「そう言えば、そんな事を言っていたな」
ゼットはそんなものは、どうでも良かった。
とにかく強さを求めていた。
「私は世界に興味は無い。好きにしろ」
「はは」
ジェノは感じた。
今の自分も前より数倍強くなったが、こいつはそれ以上だ。
ジェノの想像を遥かに超える速度で、ゼットは資質を開花させていた。
しかも、己だけの力で。
「ジェノ」
「は」
「東にはもう、何も無い。北へ行く」
「わかりました」
五人は、エルクハイムを後にした。
「(北・・・か)」
北の地・グレーデルは、ジェノの故郷であった。
強力なモンスターと、魔法使いの村が多く存在する。
時には雪が降り、大地を白く染める。
また時には血がしぶき、大地を赤く染める。
白と赤の地・・・グレーデル。
あそこにまた、戻るのか。
五人はゆっくりと、北へ向かって行った。
一方、シオンは―――
「おいしっかりしろシオン、おい!」
シオンが目を開けると、父バートの姿があった。
「父さん・・・?ああ、ここは天国か?」
「俺はまだ死んでないぞ!?」
「え!?」
シオンは、飛び起きた。
ここはシルフ島だ。
何と故郷に、流れ着いたのだった。
「島の子供たちがな、今朝海辺でお前を見付けて・・・知らせてくれたんだ」
夢のようだ。
まさかエルクハイムから随分離れた故郷に、戻ってくるなんて。
奇跡だ。
「ハッ」
シオンは泣いている母・リノアの隣に、折れた剣を見付けた。
「ケンザキさんの・・・」
シオンはこれまでの全てを、家族に話した。
「シオンが無事で、本当に良かったわ」
シオンは一人っ子。
母はどれだけ、自分を心配してくれたろうか。
「さすがわしの孫じゃ!」
祖父は孫の冒険譚に、大喜びだった。
「そうか、ゼットが・・・」
ゼットと最も古い付き合いの父は、深刻な顔をしていた。
「あの後、この島は平和なの?」
「ああ、何も問題はないよ」
ゼットも故郷をどうにかしようとは、さすがに思わないのかな。
シオンは外へ出た。
ケンザキの墓に、折れた剣を埋めた。
かつてガルドがそうしたように。
「・・・シオン!?」
後ろから、女の声がした。
「ライア!」
ライアの足は、ケガしていた。
あの時ジェノの風の刃は、ライアの足を傷付けた。
ライアの右足は、もう使えなくなっていた・・・
それからライアはシオンに、水色の服を手渡した。
「シオンの服、もうボロボロじゃん。私、ずっとコレ作ってたんだよ」
「俺の為に・・・?」
「退屈だったから!」
ライアは恥ずかしそうに言って、走っていった。
「シオンはまた、旅立つんでしょ?・・・がんばってね」
シオンの胸が震えた。
「そうだ・・・俺はもっと、強くならなければ」
そしてすぐに、旅立つ準備をした。
数日後―――
皆と別れを済ませ、シオンは三度この港町「ポルー」に来ていた。
「西には魔法使いが多くいるんだったな。頼ってみようかな」
シオンはまず、ティグリ村へと向かった。
「おおシオン!久々じゃな」
ヴィオラと魔法使いたちは、シオンを暖かく迎え入れてくれた。
前にここに来たのは、もうずっと前になる。
そう言えばあの時はジョーと・・・
「!」
シオンは、思い出した。
「そう言えばジョーも、西に行ったんだった!もしかしたら会えるかも」
「あやつもあれから音沙汰無しじゃ。どうなったかの」
「ヴィオラさん、俺も同じ所へ送ってください」
「うむ、『パルテ』じゃな」
ヴィオラはシオンに、「ワープ」をかけた。
シオンの西の地域・ラークでの旅が始まる。




