第4話
あれからまたいくつかの地を転々としたが、良い刀は見付からなかった。
また人やモンスターを斬りまくってきた。
このへんは倒しても蘇るアンデット系モンスター「ゾンビ」が多い。
ガルドは疲れ、久々の休息を取っていた。
「強くなる為に好敵手が必要、か・・・」
河原で握り飯を喰らい休みながら、ガルドは呟いた。
自分が数日前に言った言葉に、自分で驚いていた。
父は一度たりとも、相手を逃がしはしなかった。
「あれは俺の本能なのか・・・」
そしてその前に、狂った事も思い出していた。
「強くなるのに好敵手が必要」とは、ガルドは知る由もないが、ジェノの言葉でもある。
ジェノはゼットの中に強大な闇の力を見出し、近付いた。
そしてゼットを更に強くする為に、シオンを生かした。
悪魔・ジェノと同じ本能を持つかもしれないこの鬼を、仲間にしようとしている者がいるとは・・・それもまた、ガルドは知る由もなかった。
彼はゆっくり立ち上がり、トーデ丘へと向かった。
その頃、ジェノは仲間を求めていた。
ゼットは人間だが、奴の秘めた力は、自分よりも大きい。
そして彼を利用しようと取り入った。
奴はいずれ、魔王となるほどの強大な力を持つ・・・
その時の為に、自分の仲間を作っておかなければ。
彼もまた、古代文明の地・アルカディアにいた。
そして「シルヴィス神殿」という場所に来た。
「行くぞ、グレイヴ」
コウモリ型モンスター「バット」、騎士型モンスター「ナイト」、少し強力な狼型モンスター「キラーウルフ」などが襲いかかるが、彼らの敵ではない。
「グレイヴよ・・・お前と同種のモンスターは見た事が無いな。お前は希少なのか」
グレイヴは、よくわからないといった顔をしていた。
最もその表情から読み取れるのは、この男・ジェノくらいだが。
そして二人は、最奥部へと辿り着いた。
その瞬間、無数の毒矢が二人を襲う。
グレイヴは風の魔法「タイフーン」で、それらを全て破壊した。
と、すると今度は天井から毒槍が振って来た。
今度はジェノが雷の魔法「サンダーストーム」でそれらを粉々にした。
「古代人共め・・・随分と大掛かりな仕掛けを作ったものだ」
更なる古代、人間と魔法使いは同種であり「古代人」であった。
また動物とモンスターも、同種であり「古代獣」であった。
進化の過程で、それらは分かれていったのだった。
「グレイヴよ、一気に行くぞ!」
「ガオオッ」
二人は大風に身を包み、更に奥へと進んだ。
そこには、仮面を付けた不気味な人形があった。
「これが・・・古代の秘宝か?」
落とし穴や地雷など、地面のトラップを地の魔法で破壊しながら、ジェノは言った。
その時、人形は動いた。
「ムッ」
人形は、ジェノの首を絞めた。
そして扉が閉まり、暗闇となった。
グレイヴは匂いを嗅ぎ分けジェノを助けようとするが、時間がかかる。
ジェノは光の魔法「シャイン」で辺りを照らし、人形を蹴飛ばした。
「何という力だ・・・フン!」
鎌をその場で一回転させ、闇の力を込めた突風を作り出す。
「デスブラスト」と名付けられた、ジェノの切り札の技である。
デスブラストは人形を粉々にしてしまった。
神殿の扉は再び開いた。
「まずい・・・やり過ぎたか」
ジェノの首には、真っ赤な痕が残っていた。
つい本気の力で反撃してしまった。
ジェノは反省した。
己の感情を、もっとコントロールするべきだった。
ジェノは人形に近付いた。
人形はもう粉々で、動く術もない。
「古代人の魔法が込められていたのか・・・」
「その通りでございます」
「!?」
「!?」
ジェノもグレイヴも驚愕した。
「貴様が・・・本体か?」
「はい、私シルヴィスと申します」
仮面が、宙に浮いていた。
「なるほど仮面に魂を宿すとは、なかなかの魔法だな」
「いいえ違います」
「何?」
「私は元より仮面型のモンスター。古代人に捕らえられ、人形に呪いで縛られていたのでございます」
「ほう・・・お前にはそれほどの価値があるのか?」
「はい、私魔力には多少自信がございます。遥か昔、全ての古代獣と、古代人の半分ほどを支配しておりました」
「それが本当の話ならば、お前は『初代・魔王』といった所だ。随分強いのだな」
ジェノが他人を褒めるのは、珍しい。
「しかしここに縛られ、魔力も人形に吸収されて底をつこうとしていた所・・・あなたに助けられました。あなたは一体?」
「私はジェノ、こいつはグレイヴだ。仲間を探しているのだが、古代の秘宝でも見てやろうと思ってな」
「なるほど。ではこの私、これから一生あなたのお力になりたいと存じます」
「そうか・・・ではシルヴィスよ、私と共に来い」
「はっ。宜しくお願いいたします」
「他にこのへんに、古代の秘宝はあるか?」
「残っているかは存じませんが、少々南へ行った所の『カスピ遺跡』には、血でできた魔剣があると聞いた事がございます」
「よし、それを探しに行くぞ」
「ところでジェノ様」
「何だ」
「私は水の魔法を得意としますが、このような事もできます」
三人を不思議な光が包み、気付くと彼らは地上にいた。
「脱出魔法『エスケープ』でございます」
「私は攻撃魔法しか会得していない。移動の魔法とは、どのように行うのだ?」
シルヴィスは精神を集中し、行きたい所を想像し魔力で体をそこへ向かわせるのだと語った。
「大切なのはイメージでございます」
そしてジェノは、移動魔法「テレポート」を使って消えた。
やはり彼は天才だった。
グレイヴもシルヴィスも、驚いた。
再びテレポートで戻ってきたジェノは、「攻撃や移動以外の魔法もいずれ会得するとしよう」と語る。
グレイヴとシルヴィスは、ジェノを尊敬し付いて行こうと更に決心を固めた。
「所でな」
「はい、なんでございましょう」
現れたサソリ型モンスター「スコーピオン」とミイラ型モンスター「マミー」を切り裂き、包帯を持ったジェノは言った。
「仮面が浮いているのは不気味だ。ボディを持て。とりあえず、これでも適当に使え」
包帯を渡されたシルヴィスは、魔法でそれを人型にした。
「・・・これではまるでミイラでございます」
「まぁこれから遺跡に行くのだ、それで問題無いだろう。後で布でも買ってやる」
「郷に入れば郷に従え、でございますね」
この辺りには古代人の墓が多い。
つまり、ゾンビやミイラが多い。
確かに多少は、カムフラージュになるかもしれないが。
グレイヴは思った。
何というかジェノにも少しは、人間味があるのかもしれない。
港町・ポルー―――
シオンはここに、また戻って来た。
「今度は東・・・だな」
そして東の門番の前に来て、言った。
「外に出たい。通してくれ」
「どうぞ」
「・・・あれ」
今度はあっさりと外に出れた。
もう顔つきが、前とは違うのかもしれない。
あれから数週間・・・シオンはそれなりに、いろいろな経験を積んできた。
「(ライアはもう治ったかな・・・)」
故郷に帰ろうか少し迷ったが、シオンはアルカディアへと向かって行った。
シオンは更に強くなった。
襲い掛かってくるモンスターを、どんどん倒していく。
実戦は練習の何倍もの経験値を得られる。
数日後・・・ロマスの東端の港・ポルコに着く頃には、ほとんどのモンスターを一撃で倒すほどになっていた。
「ポルンガまで」
「はいよ」
金も随分貯めて、装備も整えた。
軽くて丈夫な鎧と靴、そして盾を持っている。
数週間のこの旅は、シオンを急激に成長させた。
だが旅は、まだ始まったばかりであった。
船はポルンガに着いた。
「船長さん」
「んー?」
「黒いマントの男を見ませんでしたか?」
「そういえば随分前に乗せたような・・・」
「えっ!?」
だがそれ以上は、何も聞けなかった。
数週間前の事だし、そうでなくてもジェノがどこに行ったかなど、わかるはずもない。
「(ゼットたちは、このアルカディアにいる・・・?)」
シオンは、船を下りて歩き出した。
トーデ丘―――
「親父・・・」
ガルドは、戻って来た。
墓の下に、折れた「人切り丸」を埋める。
「強い力を、二つほど感じるな」
「!?」
ガルドほどの者が、今まで全く気付かなかった。
だが今は確かにある。
超強力な、闇の力を肌で感じる。
「・・・何者だ」
振り向くと後ろにいたのは、黒いマントをまとった緑髪の青年。
エルクハイムの城から来た、ゼットだった。
「一つは死骸か・・・魂だけでも相当強い力を感じる」
「・・・!」
ゼットはゆっくりと、ガルドに近付く。
「もう一つは、まだ成長途中か」
ガルドは19歳。
実力は、「剣豪」と呼べるほどのもの。
それでも同い年くらいに見えるその男は、遥か下を見るかのような口調だった。
「お前・・・私と戦ってみないか?」
緑髪の男は、剣を抜いた。
「お前も力を試したいだろう」
ガルドは冷や汗をかいていた。
こんなに強大な力は、今まで感じた事が無い。
父以上とも思える闇の力。
「安心しろ」
ゼットは言った。
「魔法は使わない。剣と刀の、真剣勝負だ」
ゼットはマントを脱ぎ捨てた。
マントの下は、ごく普通の革の服を着ていた。
こんな普通の男に、ガルドは恐怖していた。
しかもゼットも、シオンと同じくどちらかというと童顔だった。
少年にも見えるこの男に、ガルドは恐怖していたのだ。
「どうした、早く刀を抜け」
「・・・俺は」
「?」
「俺は、鬼だ」
自分に言い聞かせるように、ガルドは言った。
そして父に「見ていてくれ」と言わんばかりに、一気に刀を抜いた。
「鬼か・・・面白い男だ」
ゼットは素早く確実に、ガルドの急所を突いてきた。
「クッ!」
ガルドは何とかそれを弾き、横一文字に斬りつけた。
ゼットは後ろに跳んで下がった。
そしてかつてのジェノのように、妖しく笑った。
今のゼットの創造主は、ジェノのようなもの。
似るのは当然だった・・・
「フフフハハ・・・行くぞ!」
ゼットの剣が、次々にガルドを襲う。
「うおっ」
ガルドは防ぐだけで精一杯だった。
「こいつは・・・強い」
「お前もな」
自分では気付いていなかったが、ガルドも刀に闇の力を込めていた。
かつて父がそうだったように。
つまりガルドは闇属性である。
ゼットの属性も、闇である。
闇と闇。
剣と刀。
それらが激しくぶつかり合っている。
「ハァッ!」
ゼットの強力な一撃が、ガルドの刀を叩き折った。
「しまった!」
「フンッ!」
そして突きを肩に受けたガルドは、仰向けに倒れた。
「思ったよりも随分強い・・・負けた事など、ないだろう」
「ぐ・・・」
「人間は負けて強くなるものだ」
ゼットもまた、ガルドを生かした。
「私はエルクハイム城にいる。いつでも来るがいい」
そして去って行った。
「く・・・っ!」
ガルドはそのまま、気を失った。