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World Adventure  作者: oyj
2/19

第1話

神は、全てを見てきた。


シルフ島。

数十人の人々が平和に暮らす、この小さな島から、物語は始まる。

シオン。

黒髪のこの少年が、物語の主人公である。

「今日の稽古はここまでだ。お疲れっ」

シオンの剣の先生、ケンザキは言った。

「ありがとうございましたっ」

シオンは剣を習っている。

モンスターが生息しないこの島では必要ないことかもしれないが、島の少年たちは皆、剣を習っていた。

「ただいまー」

シオンが家に帰ると、家族はいつものように、暖かく迎え入れた。

「おかえりシオン。少しは上達したか?」

父・バートも、幼い頃に剣を習い、月に一度島から出て、他の町の者に剣を教えている。

「結構強くなったと思うんだけどなー。そろそろ俺も島を出たいよ」

「まだダメだ。外の世界にはな、モンスターがいるんだ」

平和なこの島の人々には、モンスターは脅威だった。

島の外に出られるのは、剣を習った大人たちだけだった。

「そういえばな」

バートは言った。

「今度この村に、一人少年が来るんだ」

「へぇー」

シオンは興味なさげだった。

「近くの町の少年なんだがな、父親と二人で暮らしてたんだが、その父親が死んでしまったんだ。だから安全なこの島で暮らすそうだ」

「ふーん」

シオンは母・リノアの焼いたパンを食べている。

「名前はゼット。お前の通っているケンザキさんの所に、通ってもらおうと思ってるんだ」

「じゃあ・・・ライバルだな」

シオンはニヤリと笑った。

「いじめるなよ」

「わかってるよ」

シオンは昔から明るい少年だった。

人当たりが良く動物も好きで、女性や子供にも優しい。

多くのものに愛される性格だった。


「じいちゃん」

シオンは祖父・ゼフの部屋に入って、言った。

「何じゃ?」

シオンの家は四人暮らし。

バートの母は早くに亡くなって、リノアにも親はいない。

「じいちゃんは昔、世界を旅してたんだろ」

「ああそうじゃ。わしは冒険家だったんじゃ」

「いいなー。俺も他の世界を見てみたいっ」

「まぁ、大人になればその内見れるわい。焦るな焦るな」

シオンはずっと、島の外に出ることを夢見ている。

それでも今日も平和に、少年と島の一日は終わろうとしていた。


数日後―――

「・・・初めまして」

シオンは半分忘れていたが、ゼットという名の少年は来た。

シオンより少し年下の、緑色の髪の内気な少年だった。

「よー、俺はシオンっていうんだ。よろしく」

「ケンザキだ。今日から一緒に頑張ろう」

シオンとケンザキは、それぞれ挨拶した。

この島の子供は少ししかいない。

シオンと同年代なのは、幼なじみのライアとゼットだけだった。

それだけに初めは興味なさそうなシオンだったが、すぐにゼットと仲良くなろうと努めた。

しかしゼットは、なかなか他人に心を許しはしなかった。


その日から、シオンとゼットは共に修行に励んだ。

初めゼットは全く剣を使うことができなかったが、ケンザキの指導によりどんどん上達していった。

またシオンとゼットの仲も、だんだん良くなってきた。

ある日ゼットが犬に襲われたとき、シオンが追い払った。

またある日ゼットがケンザキに叱られ落ち込んでいるとき、シオンは元気づけた。

シオンはゼットにとって、唯一頼れて優しくしてくれる、兄のような存在だった。

ゼットは次第にシオンを尊敬し、心を開いていった。


数年後―――

「だあっ!」

「うわっ」

「それまで」

シオンとゼットは、今日も稽古していた。

「シオン、本当に強くなったな」

今日は試合で、シオンの勝ちだった。

「ありがとうございます」

シオンは好青年に成長した。

「ゼット、君もこの数年だけで随分強くなった」

「・・・ありがとうございます」

ゼットは相変らず、内気な青年だった。

「強いなあシオン!すごいや」

他の生徒の子供たちは、次々にシオンを褒めた。

「おつかれー」

そこにライアがやって来た。

「ゼットおしかったねー」

ゼットは女性が苦手だった。

黙ってうつむいていた。

「シオンはさすがに強いねー」

「まあなっ」

どうやらライアは、シオンのことが好きらしい。


ゼットはシオンを尊敬するとともに、コンプレックスを感じていた。

ここ最近、毎日試合でシオンに敗れている。

一度も勝ったことがないのだ。

「・・・。」

シオンは島の皆に好かれている。

自分には、子供は怖がって近付かない。

女性も気味悪がって、ライア以外は近付かない。

内気なゼットは、よく人に誤解される。

島の人の中には、「ゼットは何を考えているかわからない、彼が父親を殺したのかもしれない」とまで言う人間もいた。

そして悪い噂ほど、すぐに広まる。

ゼットはシオンたち以外の誰とも口をきかないし、島の誰にも信用されてはいなかった。

ゼットは一人、悩んでいた。


その日、島への船は「災い」を乗せてきた。

黒いマント、銀の長髪。

青い狼を連れて、男はやって来た。

男の名は、ジェノといった。


翌日―――

「はっ!」

「うっ」

「それまで」

今日の試合も、シオンの勝ちだった。

「お疲れー」

今日もライアが来て、シオンと一緒に帰っていく。

「・・・。」

ゼットは少しライアが好きだった。

ゼットのストレスは、次第に溜まっていった。

「すまんなゼット、毎日シオンと戦わせて」

ケンザキがそう言うと、ゼットは言った。

「いえ・・・この島に同年代の男は、他にいないから仕方ないです」

「・・・。」

ゼットは怒るでも悲しむでもなく、いつも静かにしている。

ケンザキは逆にそれが心配だった。

「明日からは、別の稽古をしよう」

「・・・。」

ゼットは一人、静かに帰っていった。


ゼットは何とも言えない気分だった。

その負のオーラを感じ取る者が一人いた。

その者はゼットに近付き、言った。

「貴方からは随分、強い闇の力を感じます」

「・・・僕、ですか?」

ゼットはその者・黒マントの男の方を見た。

「私も先程の試合を見ていました。貴方には剣の才もある」

「でも、負けました」

「剣だけで勝負すれば、あのシオンという者には勝てないでしょう」

「・・・。」

「私は魔法使いです。私の力で、貴方の闇の力を目覚めさせませんか?」

「えっ」

ゼットは迷った。

闇とは、この世でもっとも扱いの難しい属性。

失敗すれば精神を支配される、恐ろしい力。

自分に使えるのだろうか・・・

「このままで良いのですか?」

黒マントの男の一言で、ゼットは決心した。

気持ちを整理している余裕は無かった。

黒マントの男・ジェノは左手を、ゼットの前に差し出した。

ジェノはゆっくり笑い、己の闇の力をゼットに与えていった。

「う・・・うううっ」

ゼットは闇の力を感じた。

できる、自分ならコントロールできる。

もっと強くなれる。


その夜、ケンザキは青い狼・グレイヴに襲われた。

ケンザキはかなりの使い手だったが、グレイヴの強力な風の魔法には歯が立たなかった。

ケンザキは切り刻まれ、一人静かに息絶えた。


翌日―――

シオンはいつものようにケンザキの下へ行くと、その死体を発見した。

「せ、先生っ!」

他の生徒たちも次々にやって来た。

「一体誰が・・・」

青い狼は、既にどこか遠くへ行っていた。


その頃、島の北端の岬に、ゼットは来ていた。

その眼は紫色に光り、既に心は半分狂っていた。

「ライア・・・」

そしてここに、ライアを連れてきた。

「どうしたのゼット?あなたから声をかけるなんて、珍しい」

「僕は強くなったんだ・・・シオンよりも」

「・・・?」

剣を抜いて、ゼットは言う。

「これからシオンを倒す。見ていてくれ」

「ゼット・・・」

ライアは言った。

「あなたにはあなたの良い所があるよ。無理に剣でシオンに勝たなくても」

ゼットの瞳が元に戻った。

「ライア・・・」

そこに、風の刃が放たれた。

「きゃあっ」

切りつけられ、ライアは倒れた。

「ライア!」

陰から風の刃を放った黒マントの男は、ケンザキの家へ向かった。


「この島のお嬢さんが、北の岬で何者かに襲われていましたよ」

黒マントの男にそう聞いたシオンは、岬へ急いだ。

「ライアー!」

そして、そこには剣を抜いたゼットと切りつけられたライアがいた。

「ゼット・・・ま、まさかお前」

「!」

子供たちがやって来て、言った。

「ゼットだ!ケンザキさんも、切り刻まれていた!あいつがやったんだ!」

「ゼット・・・」

「ち、違うっ」

ゼットの心は、再び狂い始めていた。

「ゼット!」

シオンは剣に手をかけ、ゼットに歩み寄った。

「お前じゃないんだな・・・?」

ゼットの心に、声が響いた。

『本気のシオンと戦うチャンスだ!』

ゼットは瞳を紫に光らせ、剣を構えた。

シオンは怒った。

「ゼット・・・貴様!」

シオンは剣を抜いた。


シオンの剣技は凄まじかった。

ゼットの重力弾を斬り、避け、攻めて来る。

「うおおーっ!」

シオンの眼には涙が流れた。

「ゼットーッ!」

ゼットは剣を弾き飛ばされ、シオンの一撃を喰らい、倒れた。

「ぐはっ・・・闇の力を持っても、僕はシオンに敵わないのか・・・」

「闇の力だと!?」

ゼットは目を閉じた。

「クソッ!どうして・・・」

そこに黒マントの男が現れ、雷を放った。

青紫の雷は子供たちやシオンを気絶させた。

男は言った。

「ゼット様・・・貴方はもっと強くなる!更なる力を得て、魔物となるのです。そしてこいつら人間共に、復讐するのです」

黒マントの男は、ゼットに更なる力を与えた。

ゼットは目覚めた。

「私は・・・強く・・・なる・・・!」

その心は、もう悪魔となっていた。


「(こいつらはゼットを更に強くするのに必要かもしれないな・・・)」

ジェノは、シオンたち島の者を生かした。

そしてゼット、グレイヴと共に、島を出た。

シオンが目覚めた時、ゼットと黒マントの男はいなかった。

子供たちは言った、「黒マントの男が雷を放った」と。

シオンは決心した。

今こそ島を出るべき時だ。

父も母も、祖父も止めはしなかった。

「島のことは俺に任せろ」

父はそう言って、シオンを見送った。

「ゼットはきっとまだ生きている。止めなければ!そして黒マントの男。あいつがゼットに何かしたんだ」

こうしてシオンは、島を出た。

「ライア、待っていてくれ。ケンザキさん・・・仇は討つ!」


シオンの冒険が始まった。

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