Epilogue
神は、全てを見てきた。
世界には平和が取り戻された。
魔族は全て滅び、この世にはまた、人と動物、そしてモンスターが残された。
魔法使いたちは、人間と共存する道を選んだ。
そして聖剣スペリオンは勇者・魔王を封じ続け、人と神が通じる道は再び塞がれた。
己の体を犠牲とし、魔王ゼットを封じたシオン。
彼はこれから長きに渡って、「勇者」として称えられる事となる。
そして勇者の仲間たち、戦士ガルドと賢者リーン。
彼らの名ももちろん、世界中に響き渡る事となる。
魔王城―――
全てが終わり、誰もいなくなったはずのここで、一人の者が目を覚ます。
「ゼット・・・封印、されたか」
長い銀髪・赤い瞳。
もう鎧も破壊され、戦う力などは残っていない。
それどころか、こうして立っているのもやっとの瀕死である。
「この私が・・・無様な・・・情けない、姿だ・・・」
彼はぼろになったマントをまとって、下へ降りた。
「ジェノ・・・様・・・」
そこには、仮面があった。
「フフ、お前も・・・しぶといな」
ジェノは仮面を拾い上げ、マントに入れた。
そしてゆっくりと、外へ出た。
「ガオウッ」
外には、グレイヴがいた。
「グレイヴよ・・・」
蒼き狼は、人間たちから隠れ、主人を待っていた。
主人ジェノは、もう死をも覚悟していた。
剣を抜き、ゼットを復活させようなどとは考えなかった。
その衝撃ですら、自らを滅ぼすかもしれない。
ジェノは倒れた。
グレイヴは、彼を死なせたくなかった。
グレイヴは主人を乗せ、走った。
北の地域・グレーデルの、最も人気の無い名も無き洞窟に、彼を連れて行った。
「グレイヴ、助かったぞ・・・」
そしてジェノは、全ての魔力を使って・・・自らを封印する事にした。
この世界に、もう自分の居場所は無い。
そう悟ったからだ。
グレイヴもまた、それに付き従った。
こうしてジェノ・グレイヴ・シルヴィスは、共にある洞窟で封印されたのだった。
一方―――
精霊は全て勇者・魔王と共に封印され、聖剣スペリオンも魔王城に残った。
つまり神との連絡手段は絶たれ、人間たちはまた、自分たちの力で歩み始めた。
それでもどうしても、精霊や神と交信したい人間たちがいた。
ガルドとリーンである。
彼らは大賢者メビウスを頼った。
「ふむ・・・シオンは、おぬしらを世に残したかったんじゃな」
「でも、シオンだけが生きて帰って来ないなんて!」
「シオンの考えを、汲んでやるべきじゃ。悪はまだ、滅びたわけではない」
「え!?」
「・・・何?」
「ゼットの封印だって解けるかわからんし、いつまた世界に巨大な悪が誕生するかはわからん」
「なるほど」
「それに、これはわしの勘じゃが・・・ジェノは生きている」
「!?」
「何だと・・・」
「邪悪な波動を、感じるんじゃ。今はとても、信じられない程小さいがな」
「・・・。」
「・・・。」
「シオンの事は残念じゃが、仕方無い。とにかくおぬしらは、生きるのじゃ。」
「・・・ああ」
「わかりました」
シルフ島―――
ガルドとリーンは、島の住人に全てを語った。
ケンザキの弟子であった子供たちは、皆涙を流した。
母リノアは、泣き崩れた。
父バートは「そうか・・・」とだけ言って、遠くを見ていた。
祖父ゼフは、「シオンは勇者として、立派に死んだのじゃ!泣いてほしくはなかろう」と、リノアを慰めていた。
「シオンは、本当に多くの人に愛されていたのね」
世界中の人間たちが、シオンに感謝していた。
「・・・ああ」
そして二人は、ライアの所へ来た。
「・・・わたし、ずっとシオンと生きてきました」
「・・・。」
「シオンが旅に出て、寂しくて。でもいずれ勇者、なんて噂が流れてきて、なんだか遠い人になったみたいで」
ライアは、涙を流し始めた。
「わたしはずっと、シオンの帰りを待ってた・・・」
ガルドは何も言えなかった。
リーンは「彼を守れなくてごめんなさい」と謝ったが、ライアは黙っていた。
そしてしばらくの沈黙の後。
「本当に、遠い人になってしまったのね・・・」
ライアはうつむいてしまった。
ガルドは「すまん」とだけ言って、去って行った。
リーンも困った顔で、頭を下げて後を追った。
思えばゼットも、可哀相な男だった。
早くに親を失い、19歳にしてジェノに利用され魔王となり、世界中の人々に怨まれた。
そして封印され続ける今も、誰一人彼の帰りを待ってはくれない。
故郷の人々でさえも・・・
スズ修道院―――
「おかえり、ガルドー!」
メイは大いに喜んだ。
リーンの顔が凍て付く日々が、始まろうとしていた。
ガルドはここに住む事にした。
修道院の用心棒として、彼は怠る事無く修行した。
メイの頼れる相手として、リーンの良き相棒として、彼は幸せに暮らした。
そして、五年の歳月が流れた―――
大賢者メビウスは、「世界の平和を見せてくれてありがとう」と言い残して、この世を去った。
七年前に復興した「ドラナグ」は、今では世界一の巨大な帝国となっていた。
もちろん竜帝は、ドランである。
亡き兄に負けじと修行した彼は、僅か20歳にして、今や全ての国民に愛される最強の帝王となっていた。
ジョーは世界一の冒険家として、世界中を旅して回った。
25歳になった彼は、世界中の冒険家が憧れる存在となっていた。
ダッジはガルドに次ぐ強者剣豪として、その名を更に馳せた。
最高の鍛冶屋イッサイと共に、「刀」を世界一有名な武器としていった。
またダイたち弟子と共に、その剣術を広めていった。
世界やシルフ島には、平和な時が流れていた。
平和の礎となった勇者シオンのことを、誰も忘れはしなかった。
23歳になったライアは、今でも毎日、シオンの事を想い、北へ向けて祈りを捧げていた。
ゼフは亡くなったが、バートとリノアは寂しくも誇りを持ち、平和な時を過ごしていた。
スズ修道院も、何も変わらずそこにあった。
マザーは年老いたが、まだ元気に修道女たちを導いた。
19歳になったミリアは、今やリーンに次ぐ賢者として、多くの魔法を使いこなすようになった。
そして、12歳になったメイは・・・
「・・・はっ!」
メイの一撃が、悪魔型モンスター「アークデーモン」を仕留めた。
「見事だ」
黒髪の、長髪の男がそれを褒めた。
「ありがとう、ガルドのおかげよ」
その男は、メイの師匠・24歳になったガルドであった。
メイはあれからガルドに剣を習い、立派な女剣士となっていた。
「ガルドー!メイー!」
そこに、水色の髪の美女が現れた。
22歳になったリーンである。
三人は仲良く、修道院へと帰って行った。
その夜、メイが寝静まった後・・・ガルドはリーンの部屋に入り、彼女に相談した。
「あら、今日はメイと一緒に寝ないのダーリン?」
「・・・からかうな」
「それともわたしに夜這い?いやだわーもう」
「・・・。」
「で、何?浮気相手になってくれなんて、嫌よ」
「リーンは人を封印できるか?」
「えっ?」
「かつてのシオンのように」
「・・・そりゃあゼットみたいな強力な魔物を封じる事はできないけど、超強力な魔力で人を冷凍睡眠状態にする事なら、できるわ」
「やってくれ」
「ええっ!?」
ガルドは語った。
「・・・俺の気がかりは、メイの剣術だけだった。だがもう12歳にして、あれだけの使い手だ。もう俺が教えずともやっていけるだろう」
「・・・それで?」
「今の世は、平和だ。俺のシオンたちの為にも、自分の力を平和の為に役立てたい」
「つまり世界が乱れるまで、眠って力を温存しときたいってこと?」
「そういう事だ」
「・・・でも、世界がまた荒れるかなんてわからないわ。ジェノだってもう、死んだかもしれないし」
「荒れてからでは遅いんだ。勝ち取った平和を守る事が、力ある者の努めだ!」
「・・・。」
「俺は『仲間』一人が犠牲になって終わり、にはしたくないんだ」
「・・・わかったわ」
「メイには、旅に出ると言う。口裏を合わせてくれ」
「ねえ、ガルド」
リーンの瞳には、涙が浮かんでいた。
そしてガルドに、キスをした。
ガルドにとって人生で二度目、五年ぶりの事であった。
メイの事は見張っていたし、リーンも「抜け駆け」はしなかったからだった。
今を除いて。
「・・・リーン」
「あなたって、罪な人よね」
「・・・すまん」
そして数日後。
ガルドはメイに「旅に出る」と告げた。
これが、おそらく今生の別れである。
ガルドは涙を流しそうにまでなったが、こらえ・・・言った。
「お前の腕を認めて、これを預ける。俺が帰るまで持っているんだ」
そして名工イッサイの「真月」を、メイに手渡した。
「ありがとう!・・・いってらっしゃい、ガルド!おいしい料理をつくってまってるね」
「・・・ああ」
ガルドは笑顔で、小さく手を振った。
そして―――。
北の国の氷の洞窟に、二人は来た。
「・・・本当にいいのね?」
「ああ」
「これを持って」
リーンはクリスタルを、ガルドに手渡した。
「この洞窟の氷の力と、クリスタルの力と、私の魔力を使って封印するわ。何年眠ることになるかはわからないのよ?」
「ああ」
「・・・ガルド」
リーンはまた、ガルドにキスした。
「・・・。」
ガルドは避けもせず、何も言わなかった。
「わたし、ガルドのことが好きよ」
「・・・俺もだ」
リーンはまた、大泣きした。
「早くしてくれ。また『ハナを恥らう』事になるぞ」
「もうっ!・・・また会おうね、ガルド」
「・・・縁があればな」
リーンはガルドを、氷の洞窟の柱の中にに封印した。
それから数日後―――
「ねえリーン、ガルドおそいね」
「・・・そうねえ」
リーンは考えた。
やはり自分の力も、後世に残そう。
この世界にはドラナグもあるし、賢者ミリアもいる。
それに剣士メイも・・・
リーンは、決心した。
そして全てをマザーに告げた。
「・・・なるほど。そういう訳だったのね」
「おかあさん、だから私も」
「・・・わかったわ。あなたの思うようにしなさい」
「ありがとうございます」
それからまた数日―――
「ええー、リーンも旅にでるの!?」
「わたしがいなくても、ちゃんとマザーの言うことをきくのよ」
「・・・はーい」
リーンも、涙を流しそうだった。
今までずっと育ててくれたマザーと、一緒に育ってきたミリアたち修道女。
そしてこの五年、本当の妹のように可愛がってきたメイ。
その全てと、別れることになるのだから。
「・・・じゃあね。行ってきます」
そしてリーンは、皆に手を振った。
それから一人になって、泣いた。
ある魔法使いの村に行って、リーンは頼んだ。
己を封印するのに、力を貸して欲しいと。
「本当に、いいのですか?」
「・・・ええ、お願いします」
「・・・。」
そして彼女は、魔法使いの村に伝わる「封印の棺」に入り、己を封印した。
こうして勇者シオンは、魔王ゼットと多くの精霊と共に、魔王城で。
戦士ガルドは、氷の洞窟で。
大賢者リーンは、ある魔法使いの村で。
死神ジェノは、グレイヴ・シルヴィスと共に、名も無き洞窟で。
それぞれ封印され、時は過ぎて行くのだった・・・
数年後―――
メイはいつまで経っても帰って来ないガルドとリーンを、駆け落ちでもしたんじゃないかと疑った。
そしてマザーを問い詰めて、真実を聞いた。
最初は納得いかなかった。
何度も何度もガルドとリーンを思い出して、枕を濡らした。
しかしメイは決心した。
ガルドとリーンのいないこの世界を守るのは、自分だ。
そしてもし世界が荒れた時、ガルドとリーンの封印を解くのは自分だ!
彼女はガルドより受け継いだ真月に、日々磨きをかけた。
それから彼女はこの後いくつかの悪に、たった一人で立ち向かい世界を救う事となる。
彼女もまた「聖剣士メイ」として、後世に名を残す事となるのであった。
これで、長い冒険と、世界の物語は終わりである。
またいつか、何かの封印が解かれるその時まで。
またいつか、新たな冒険者が現れるその時まで。
神は、全てを見ていた。




