第17話
勇者たちの長い旅は、遂に終点を迎える。
シオンたちは、魔王城へと辿り着いた。
「・・・遂に来たな」
「ああ。後は奴らを倒すのみだ」
「きっと大丈夫よ!」
ここまでの道中、魔族は次々に襲いかかったが、その全てにかすらせもせずに来た。
勇者たちは、確かに強くなっていた。
「行こう」
三人は、地獄の門番ケルベロス二対の前に出た。
シオンの「サンダーストーム」、ガルドの「大車輪」、リーンの「ビッグウェーブ」により、ケルベロスは倒れた。
一行は門の中へと進んで行く。
青い狼が、巨大なオーラをまとって待っていた。
「ガオオオウッ・・・」
グレイヴである。
彼はジェノに、言われたのだ、「任せる」と。
少しでも多くのダメージをシオンたちに与え、ジェノたちに楽をさせる事が彼の役目。
グレイヴは主人と同じく赤く目を光らせ、牙をむいた。
三人はそれぞれ武器を持ち、構えた。
グレイヴの放つ「サイクロン」を、三人はそれぞれ避けた。
シオンとリーンは協力し、破壊の魔法「ハルマゲドン」を繰り出した。
グレイヴの巨大なオーラは、一気に縮小した。
彼はジェノに力を与えられていた。
グレイヴは「タイフーン」を繰り出し、シオンとリーンを吹き飛ばした。
そして「ハリケーン」が、ガルドに迫り来る。
「・・・フン!」
ガルドは急所を見切り、竜巻を切り裂いた。
そして「絶影剣」で、グレイヴを仕留めた。
「グガアアアッ!」
グレイヴは、倒れた。
グレイヴは10年前に生まれた。
幼い頃に親を失くし、ジェノと出会ってからずっと一緒に生きてきた。
彼にとってジェノは、自分の全てであった。
知能が高く、忠実な彼はまたジェノの右腕でもあった。
またジェノに従う仲間として、シルヴィスとも多少友情が芽生えていた。
彼は最後まで、ジェノに尽くした。
グレイヴの体は、消滅しようとしていた・・・
優しい光がグレイヴを包み、救った。
「シルヴィス殿、お疲れ様でした」
奥に、仮面の男が立っていた。
シルヴィスである。
「お見事です皆様・・・こちらへどうぞ」
シオンたちは無言で、中へと入って行った。
戦う力を失くしたグレイヴは、門の外へ出た。
自分にはもう、この城に居場所は無い。
「ようこそ魔王城へ」
シルヴィスは言った。
「リーン殿、あなたは回復魔法が使えるそうですね。私も練習したのですよ」
「・・・わたしのように清らかな心を持っていないと、うまく使えはしないわ」
「フフフ、心得ておきます」
シオンが、口を挟んだ。
「『ハナを恥らう乙女』が何か言ってるぞ」
「・・・。」
最終決戦の真っ只中、シオンとガルドの緊張が緩んだ。
リーンはキッとそれを睨んだ。
「シオンもしつっこいわね!」
「・・・ガルド殿は左の階段、シオン殿は真ん中の階段へどうぞ。リーン殿はこちらです」
「戦力を分断するのか?」
「それぞれの対戦相手がいるはずです。一気に戦っても、宜しいのですが」
「俺は別に構わん」
ガルドはそう言った。
シオンとリーンも、構わなかった。
確かにそれぞれ倒すべき相手がいる。
一対一の方が、やりやすい。
三人はそれぞれの階段を上った。
ガルドの上った先には、ダークがいた。
「・・・来たか」
「・・・借りを、返しに来た」
ここでガルドは思い出した。
そう言えば、多くの人間の借りを返していない気がする。
この旅が終わったら、まず仲間に借りを返そう。
リーンに5000Gも返してなかったな・・・
最後の戦いだが、ガルドにはまだ心に余裕があった。
ガルドは「真月」と「絶鬼」を抜いた。
ダークのブラッドソードは、赤く輝いている。
二人は互いに走って行った!
ダークは「フレイムブレード」を放った。
ガルドはそれをしゃがんで避けながら、「大車輪」を放つ。
ダークはそれを空中で避け、「キリングブレード」を放った。
ガルドは一歩下がり、一薙ぎした。
ダークは壁に叩き付けられた。
「・・・本気で来い」
ガルドは刀を構えなおした。
ダークは突進し、「ダッシュ斬り」した。
ガルドはそれを両の刃で受け、返した。
そして素早く踏み込み、「無限斬」を繰り出した。
無数の刃が、ダークを切り刻んだ。
そしてダークの黒い鎧は壊れ、中の戦士が出て来た。
「うぅ・・・」
ディランは22歳だった。
幼い頃に弟・ドランと共に竜帝に拾われ、育てられた。
彼はその力の全てをドラナグ帝国の為に使った。
そして国が滅びてからは、ジェノの為に。
彼の一生は、ずっと戦いの中にあった。
「ドラン・・・」
ディランは、何故その生涯をこの魔王城で、斬られて終えなければならないのだろうか。
哀しき運命は、今終わった。
その傍らには、砂漠の秘宝・ダークストーンと、血の魔剣・ブラッドソードが落ちていた。
「・・・。」
ガルドは奇妙友情を感じ、目をつむり軽く冥福を祈ってから、階段を上った。
リーンが階段を上ると、シルヴィスは言った。
「・・・始めましょうか」
シルヴィスはマントをなびかせ、不気味に笑っていた。
リーンは数歩下がって、「シャイニング」を繰り出した。
多くの光がリーンを包んだ。
「ほう・・・さすがだ」
シルヴィスは嬉しそうに、右手を上げた。
「アイスニードル」が、リーンを襲った。
リーンは「フレイムウォール」で、それを溶かし尽くした。
シルヴィスは次々に氷柱や氷の刃を作り出してゆく!
リーンはその全てを溶かし、壊していった。
「何故あなたは、悪の味方をするの?たくさんの魔法使いが、人間に協力してくれたのよ」
そう問うリーンに、シルヴィスは答えた。
「私は魔法使いではなく、古代獣にございます。そして私には、善や悪など関係無いのです。ジェノ様に従っていれば、私はずっと戦える。楽しめる。ただそれだけの事です」
「・・・あなたって最低ね」
「・・・。」
シルヴィスは「ダイヤモンドダスト」を繰り出した。
リーンは「ナパームストライク」を繰り出し、シルヴィス本体を燃やした。
「ギャアアアーッ!」
シルヴィスは倒れ、仮面が転がった。
「・・・ふう」
安心したリーンに、仮面から「アイスドリル」が放たれた。
「きゃあっ」
リーンは覚悟したが、クリスタルが輝き護ってくれた。
「チイイッ!」
「あなたの本体、仮面だったの・・・?」
リーンは魔力を集中し、「エネルギーレイン」を浴びせた。
光の矢が無数に降り注ぎ、仮面を集中砲火する。
「グオオオーッ!」
そして今度こそ、シルヴィスは倒れた。
「・・・よしっ。わたしの勝ちよっ!」
リーンも、階段を上った。
シルヴィスは100年ほど前に、古代人たちによって誕生した。
魔力を増幅させるアイテムだった仮面は、いつしか意思と魔力を持って動き始めた。
世界中で暴れ回り、古代獣たちを支配していった。
その頃のシルヴィスは、確かに強かった。
だが100年もの間封じられ、彼の力は半減した。
彼はジェノへの恩義と、新世界創造への興味だけで動いてきた。
だがそれも、もうすぐ終わろうとしていた。
シオンが階段を上ると、そこにはジェノがいた。
「・・・お前か、ジェノ」
「フン、久しぶりだな勇者殿」
ドランに兄ディランの事を頼まれたが、ガルドならきっと上手くやってくれるだろう。
今は目の前の敵に、集中しよう。
「思えばお前がいなければ、何も起こらなかったんだ」
「だがあの時私が生かしていなければ、お前は今生きていない。いわば私のおかげで、多くの仲間を得てきたのだろう」
「クッ・・・」
「勇者とは名ばかりで、お前の力は小さなものだ。実際はガルドとリーンの絶大な力によって、お前はここにいる」
確かに自分は、今までいろんな人に助けられてきた。
鎧を見て、シオンは思った。
ジョー・・・そう言えば5000G返してなかった。
ガルドと同じ事を、彼も考えていた。
「お前一人ならば、私一人でも倒せるだろう。ガルドとリーンは、ゼットに始末させるとしよう」
ジェノは死神の鎌・デスシックルを出して構えた。
長い銀髪が、揺れる。
赤い目が光って、シオンに迫って来た!
「『サンダーボルト』!」
「『デスライトニング』!」
雷と雷が、激しくぶつかった。
「何!?」
ジェノは驚いた。
計算よりも格段に強い・・・
「『サンダーブレード』!」
雷の精霊・オズマの力を宿した剣は、ジェノのマントを切り裂いた。
ジェノの周りに青紫の雷がまとった。
それを一点に集中させ、ジェノはジョーを倒したあの技を使った。
「『ゴッドバスター』!」
シオンは高く跳んで、それを避けた。
そして放った、竜戦士の技を。
「『ドラゴンダイブ』!」
それはジェノの鎧をも傷付けた!
「グッ・・・おのれ」
ジェノは鎌を回転させ、「デスブラスト」を放つ。
シオンは聖剣スペリオンでそれを切り裂き、ジョーの技「ショックスタン」を放った。
「クッ」
そして動きの止まったジェノに、「レジェンドクロス」を放った。
「クハッ!この私が・・・こんな小僧ごときに・・・」
そしてジェノはシオンを生かした事を遂に後悔し、ゆっくりと倒れた。
ジェノはこの世に生まれて20年、全てのものを見下してきた。
そしてその、他者を見下し過小評価する性格が、遂に仇となって彼は敗れた。
彼は何故私が・・・と、最後までそう思っていた。
歪んだ精神を持つ、真の魔王。
本当の悪は、まさにこの男だったのかもしれない。
悪は今、滅びた。
それを見届けたシオンも、階段を上った。
一方、外の世界では―――
主にドラナグが大いに奮闘し、魔族たちは次々に破れていた。
「シオン、後は君たち次第だ・・・!」
世界の命運は、やはり彼らに懸かっていた。
皆、彼らの無事を祈り続けた。
三人は再び、三階で合流した。
彼らは顔を見合わせ、微笑んだ。
あと一つ。
この最大の試練を超えれば、世界は平和に・・・
シオンは、最後の扉を開けた。
「行こう!」
「ああ!」
「うんっ!」
「皆、やられれたのか・・・」
玉座には黄金の鎧のゼットが、座っていた。
そして、立ち上がる。
「私がこうしてここにいる事も不思議だが、君がこうしてここに来る事もあの頃は考えられなかった事だな、シオン」
「・・・。」
「ガルド、最後まで彼の支援をしてくれて感謝する。君ともまた戦いたかった」
「・・・フン」
「リーン、君とは初めてだな。私が魔王・ゼットだ」
「・・・イーッ」
「私はこれ以上無い程、強くなった。人間の世か魔族の世か・・・世界の未来を賭けて、戦おうではないか」
「ゼット、俺も負けて強くなったぞ!」
皆それぞれ、武器を構えた。
最後の戦いが始まる!
「『エクスプロージョン』!」
ゼットの手元から大爆発が起こり、三人は散らばった。
「『ギガプラズマ』!」
ゼットの体から発せられた電磁波は、それぞれを正確に狙った。
ガルドはプラズマを斬り、リーンの下へ向かった。
シオンもプラズマを斬り、ゼットの方へと走った。
ゼットはシオンの前に立ち、新たな剣技「Z斬り」を放った。
「ぐはっ!」
ゼットの眼は紫に光り、鎧が崩れ羽と尾が生えた。
その姿は、悪魔そのものだった。
「ゼット、もうやめるんだ・・・君は悪魔に」
「私は魔王だ!」
ゼットは火を吹いた。
そして右手を上げ、闇黒魔法「ダークマター」を繰り出した。
空間が闇に破壊され、三人は大ダメージを負った。
「やはり強いな・・・」
ガルドがそう言った時、リーンは全魔力を集中していた。
「精霊たちよ・・・私たちに、力を!」
精霊たちが現れ、ゼットを取り囲んだ。
「何だこいつらは・・・」
人間の心を失い混乱するゼットを、精霊はしっかりと包囲した。
そしてそれぞれの力で、ゼットを封じ込めようとする。
「・・・無駄だ!」
ゼットは「ビッグバン」を放ち、精霊を拡散させた。
『これは・・・』
『我々精霊をも凌ぐこの力。彼は本当に人間か!?』
「精霊共よ、まとめて滅びるが良い!」
ゼットの魔剣「グランハザード」が、空間を切り裂く!
「『カオス』!」
精霊の力は、一気に弱まった。
ゼットの意識が精霊に向いている内に、ガルドは「無限斬」を繰り出した。
「ガルド・・・やはりお前は、強いな!」
だが尻尾でガルドは吹っ飛ばされた。
リーンも「エネルギーレイン」を繰り出すが、ゼットは羽を閉じ、ダメージを抑えた。
「女!甘いぞ!『ブラックホール』!」
闇黒空間が、リーンを包む。
「キャアッ」
「リーン!」
ガルドが飛び込み、それを守る。
ゼットがそれを見ている隙に、シオンは飛び込んだ。
「『レジェンドクロス』!」
「むううっ」
ゼットはダメージを受け、ひるんだ。
そしてシオンは叫んだ。
「ガルド、リーン!君たちの力は、これからの世界で役に立つ・・・」
「何を言っている、シオン!?」
「早くこっちに!」
シオンは聖剣スペリオンを高く掲げ、精霊たちに呼びかけた。
「全ての精霊よ、俺に力を!魔王ゼットを封印する力を、俺に与えて下さい!」
『封印だと?』
「無駄だシオンッ!」
ゼットが突っ込んでくる。
ガルドはそれを、「二天斬」で受け止めた。
「シオン、お前にやりたい事があるのなら・・・俺は止めん・・・!」
「ガルド、貴様ァー!」
ゼットの激しい猛攻を、ガルドは一人で受けた。
後ろから、リーンが回復させている。
シオンは再び叫んだ。
「魔王ゼットは強すぎる!ならば滅ぼすのではなく、封印するしかない・・・俺の体と、この剣と!精霊たちの力を使って、奴を封印する!」
ガルドは言った。
「シオン、お前もこいつと一緒に封印されるつもりか!?」
「ゼットは親友なんだ・・・」
リーンは、泣いていた。
『シオンよ、本当にいいのか?』
「迷っている暇はない!」
『うむ・・・わかった!』
『私たちも協力するしかなかろう』
七体の精霊たちは、皆大きな光となって、聖剣スペリオンに込められた。
「俺は『仲間』を信じてる。後の世界は、任せたよ」
「シオン・・・!」
そして七色の光を放つ聖剣を構え、シオンはガルドを薙ぎ払い向かって来る悪魔に向けて、叫んだ。
「ゼットーッ!」
「シオン・・・ッ!」
そしてシオンは高く飛び上がり、一気にスペリオンを突き刺した。
「ぐおおおーっ!」
ゼットは叫び、封印された。
シオンとゼットの体は消滅し、そこには地に刺さる聖剣が残った。
この時、世界の平和は取り戻されたのだった。
「シオン・・・シオン・・・」
リーンは泣き崩れていた。
「・・・行くぞ、リーン。奴が残した、世界を見届けなければ」
ガルドはそう言って、リーンを連れて外に出た。
外の世界には、人々が集まっていた。
「やったんですね!」
「勇者ばんざい!」
ガルドとリーンは、ゆっくり城の外へ出た。
「・・・。」
「シオン・・・」
こうして彼らの冒険は、幕を閉じた。
神は、全てを見てきた。