第15話
数日前、トーデ丘―――
「大剣豪ガルムよ・・・」
ジェノはガルムの墓に向け、魔力を送っていた。
「貴様の息子ガルドは、今や最強の剣豪となったぞ」
ガルムの霊魂が、墓の前に現れた。
「うぬは誰ぞ?」
「私はジェノ。貴様に力を与えよう。息子と・・・戦ってみたいだろう」
「・・・。」
ジェノは刀を墓の前に置いた。
「使うが良い。妖刀『豪鬼』だ」
「・・・。」
そしてジェノは、ゆっくり北へと帰って行った。
青い狼と共に。
そして現在、トーデ丘―――
三人は、ここへ来た。
「・・・ガルド!」
墓の前に、刀が置いてある。
刀からは大きな闇の波動が流れ出ていた。
「・・・ガルドよ」
声が聞こえた。
と同時に、目の前に父の亡霊が現れた。
「お、親父・・・」
父ガルムの亡霊は墓の前の刀を取った。
その瞬間、闇がガルドを包み、彼は気を失った。
「ガルド!ガルド!―――」
シオンとリーンは、呼びかけ続けた・・・
異世界―――
闇に包まれたその空間で、亡霊とガルドは対峙する。
「強くなったか、見てやる・・・」
「親父、なのか・・・?」
ガルドはためらいもしなかった。
今目の前にある敵と戦う事だけが、父と自分の生き方だった。
近日多くの仲間と出会い心優しくなりはしても、それは変わらなかった。
敵は敵。
今目の前にいるのは・・・敵だ。
ガルドは「陽炎」と「氷雨」を抜いた。
「ぬんんっ!」
ガルムの亡霊は、「大斬り」を繰り出した。
ガルドは氷雨でそれを受け、陽炎で突く。
ガルムは体をひねって避けた。
「腕が落ちたな、親父」
「むううっ」
ガルムは「斬激」を繰り出した。
ガルドは奥義「三流激」を繰り出した。
「むおおっ」
衝撃刃を受け、ガルムは一歩退く。
「・・・いくぞ親父!」
ガルドは両手を広げ、「二天斬」を繰り出した。
ガルムも刃を横にし、走って向かって来た。
一瞬の内に、激しく刃と刃はぶつかり合った。
そして・・・抜ける。
「ぐううっ!」
勝った。
ガルドは父の横を通り抜け、かすめ取った。
「・・・親父」
父はもう、魔族と化していた。
しかし。
「ガル・・・ド・・・」
「!?」
「強く・・・なっ・・・た・・・な・・・」
「親父!?親父!」
ガルドは父の下に寄り、叫んだ。
薄れ逝く父の影は、言った。
「幼いうぬに、われは修行をさせてばかりだった。愛情を与えられなかった父親を、許してくれ」
「親父!」
「今のうぬには、仲間がいるのだな。わしのようにならなくて良かった。もう心残りは無い」
そして魂は消え・・・ガルドもまた、現実世界へ戻った。
「―――ガルド!」
「はっ」
ガルドは墓の前で、目覚めた。
「よかった!」
リーンが抱き付いた。
「よそでやれよそで!」
シオンは怒った。
「・・・俺は」
「ガルド、父親を超えたんだろう。わかるよ」
「・・・俺はもっと、強くなるぞ」
ガルドは目の前の刀「豪鬼」を持ち、しまった。
「おい」
後ろから、声がした。
「ん?」
それはかつて逃がした剣士、ダッジだった。
「ガルドよ、久しぶりだな。俺もここに戻って来たぜ」
「・・・フン。噂は聞いた」
二人は互いにニヤリと微笑した。
剣豪同士の、奇妙な友情があるのだろうか。
妙な挨拶だった。
河原―――
「手を出すなシオン」
「わかってるよ。しかし相変らずモテるねガルドは」
「・・・リーンもだ」
「はいはい」
アルカディアの河原で、ガルドとダッジは決着をつける事にした。
「豪鬼は使わないのか?」
「それはとても重い。陽炎や氷雨とは重さが合わない」
「どーでもいいけどよぉ!」
ダッジは言った。
「二刀で戦うとは、なめてんのか?二兎を追う者は一兎をも得ず、って知らねーのか?」
「・・・。」
リーンは、シオンに尋ねた。
「あれって遣い方合ってるの?」
「さ、さあ・・・」
シオンも勉強は、嫌いだった。
ガルドはダッジの言いたい事を悟って、言った。
「二刀でも、俺も力に変わりは無い。鍛えたからな。油断しない方が良いぞ」
「俺も随分修行したが、一度負けた相手に油断などするかよッ!」
二人はそれぞれ、刀を抜いた。
「テッサイの最高傑作『残月』!喰らいな!」
ガルドは思った。
妖刀・豪鬼を手に入れてすぐ、テッサイの最高傑作。
どうやら神は、よほど俺に二刀流を完成させたいらしいな・・・と。
ちなみにまさにその通りだったのだが、彼がそれを知る由は無い。
「ダアッ!」
「ム」
ダッジの「風神剣」は、ガルドを軽く宙へ浮かせた。
「フン」
ガルドはその勢いで、氷雨で袈裟斬りした。
「ッ!」
ダッジの右腕が、一瞬凍る。
ガルドはもう一撃入れようとするが、ダッジは左足でガルドを蹴飛ばした。
吹っ飛ばされたガルドは踏ん張り、突進した。
そして「残月」を縦(盾)にして守るダッジの虚を突き、足下で「大車輪」を繰り出した。
「チイイッ!」
足を斬られたダッジは、真下に刀を振り落とす。
ガルドはそれを斜めに避け、後ろ向きに陽炎を振った。
ダッジの背中は斬られ、倒れた。
「・・・チクショウッ!」
「リーン、治してやれ」
「はーい」
リーンはヒーリングをかけて、ダッジの傷を癒した。
「俺はもっと、強くなる!」
ダッジはそう言って、「残月」を置いて去ろうとする。
負けたら刀を渡すというのが、剣士の暗黙の掟のようなものらしい。
「・・・ダッジ」
「あんだよ?」
「西に、ドラナグという国があるはずだ。そこでお前の力を役立てろ。お前は強い」
「・・・チッ」
ダッジは去って行った。
そしてガルドは、豪鬼と残月、二刀の名刀をまた手に入れた。
「待たせたな。行こう」
ガルドはまた一つ、強くなった。
リーンに声が、聞こえた。
「・・・『精霊の力を与える』って!」
「え!?」
遂にこの時が来た。
「『世界中の精霊の住む地に赴き、精霊の試練を受けよ』って」
「精霊の試練?」
「とにかくまずは、このアルカディアで風の精霊に会えば良いらしいわ」
「どこにいるんだ?」
「『風神谷』」
「どこだそこ?」
ガルドが、口を開いた。
「・・・アルカディアの北東の端に、年中風が吹いている谷があるそうだが。そこか」
三人は目を合わせ、頷き合って歩き出した。
風神谷―――
誰もいない。
北に近いだけあって、寒かった。
「あらガルド、わたしには布をくれないの?」
リーンはメイに、北で布を貰った事を聞いていた。
「・・・。」
ガルドはまさか、未だにメイの事で嫌味を言われるとは思っていなかった。
『ようこそ』
「!」
風が集まって、一つの影ができた。
それは何か、騎士のような姿をした緑色の影だった。
『我は風の精霊・セヴィル。人間たちよ、よく来ました』
「初めて・・・見た」
『あなたが賢者・リーンですね?』
「ええ、そうです」
『あなたの力が、再び我らと人間を繋いだのです』
「ふふっ」
『人間たちよ、私の試練を受けなさい』
三人は、風に包まれた。
風の世界―――
上も下も右も左も風に包まれた、不思議な世界。
そこで強力な風属性のモンスター、「スカイドラゴン」や「デビルサイクロン」が迫ってきた。
シオンは「サンダーストーム」を繰り出し、それらを一層した。
『さすがですね』
そしてセヴィルが、再び目の前に現れた。
『では・・・私を倒してみせなさい!』
セヴィルは強力な風の魔法を使ってきたが、リーンはバリアでそれを防いだ。
そのスキにガルドが一撃入れる。
シオンは状況を見て、攻撃や守りに転じた。
しばらくすると、セヴィルは戦うのをやめた。
そして再び、三人は風に包まれた。
『なるほど、試練の必要はなさそうです』
「え?」
『我が力を与えます』
シオンたちを、優しい風が包んだ。
「おお」
「力がみなぎる」
「ありがとうございます、セヴィル様」
『人間たちよ、あなたたちはこれから世界を巡り、精霊たちの力を得なさい』
「はい!」
『そして我の力が必要なときは、我を呼ぶと良いでしょう』
こうしてリーンは、風の精霊・セヴィルを召喚する力を得た!
『炎の精霊は、ロマスの炎王山にいます。急ぎなさい』
「はい!」
そして彼らは、次の精霊・炎の精霊の下へと向かった。
ロマス・炎王山―――
『ようこそ人間たち。俺は炎の精霊・ギガドラン』
「(ドランが強くなったみたいな名前だ・・・)」
炎の精霊は、大蛇のような姿だった。
そしてシオンたちを、優しい炎が包んだ。
「(あつっ!あつっ!)」
「(む・・・!)」
「(あっつ〜い!)」
三人は炎の精霊の力を得た。
その後も彼らは、次々に精霊の力を得る。
西の地域・ラークの「雷神洞」では、雷の精霊「オズマ」の力を。
その姿は球体で、一人称は「わたくし」だった。
北の地域・グレーデルの「地底城」では、地の精霊「ゴア」の力を。
その姿は巨人のようで、一人称は「オラ」だった。
シオンは思った。
「何か精霊って、案外親しみやすい感じなんだな・・・」
ガルドもリーンも、同感だった。
「・・・。」
「あんまり強そうじゃないよね」
グレーデルにはもう一体、精霊がいた。
「黒き塔」の、闇の精霊「ラグナ」。
その姿は獅子のようで、一人称は「私」だった。
シオンたちは、それぞれ思った。
「(かっこいー!)」
「(モンスターみたいだ・・・)」
「(やっと、精霊らしいのが出てきたわね)」
『お前たちに力を与えよう』
こうしてリーンは、多くの精霊を召喚できる「大賢者」となっていった。
南の地域・トッポの精霊海では、水の精霊「シトゥーラ」の力を得た。
その姿は人魚のようで、一人称は「あたし」だった。
『あんたたちが精霊に認められた人間ね?あたしも見てみたかったのよ』
シオン・ガルド・リーンは、それぞれ思った。
「(威厳ないなー)」
「(本当にこいつら精霊なのか・・・?)」
「(頭の出来とか、わたしと大して変わらないんじゃないの!?)」
精霊の住む地は、普通の人間には何もないただの地形だった。
「黒き塔」は、彼らが訪れると共に現れ、驚いたものだった。
所で北の地域のモンスターは、ますます強くなっていた。
魔法使い型のモンスター「ネクロマンサー」などもよく現れた。
魔族は、どんどん勢力を拡大していた。
三人は、スズ修道院へ来た。
「ガルドー!」
メイが飛び付いて来た。
「良い子にしているか?」
「うん!」
リーンはムッとして、マザーの下へ行った。
シトゥーラは言った。
『光の精霊がいるのは、ここトッポの北東・光の神殿よ』
「光の神殿?地図にはないけど、黒き塔と同じように、わたしたちが行けば現れますか?」
『スズ修道院って建物があるでしょう。あそこは元々、光の神殿だったのよ』
三人は顔を見合わせた。
「おかあさん」
「あらリーン、どうしたの?」
「ここって元々、神殿だったの?」
「ええそうよ。良い建物だったから、ちょっと内装を変えて修道院にしたのよ」
何て事を。
シオンたちは、笑ってしまった。
『やあ人間たち・・・僕が光の精霊・スバル』
「これが・・・光の精霊さま!そう、私が昔聞いたのはあなたの声だった」
『大賢者リーンのお陰で、再び接する事ができたね。僕はずっと、ここにいる。あなたは世界の為、孤児たちに光を与える素晴らしい人だ』
「あ、ありがとうございますっ」
感動するマザーと会話した後、蛸型の光の精霊・スバルは力を与えてくれた。
「しかし・・・たくさん精霊がいたんだな」
「確かに。賢者無しでは一生、会う事もできなかっただろう。リーンの力だな」
「えへっ」
『人間たちよ、次は神に会いなさい』
三人は硬直した。
まあこんなに精霊がいるんだから、神がいても不思議じゃないけども・・・
何か最近、彼らは自分たちが人間ではなくなっていくような気がしていた。
神はそれを、ずっと見ていた。