第14話
かつて内気な少年だった現「魔王」の、恐ろしい程の変貌を垣間見て、恐怖するシルフ島の父と幼なじみ。
それを知らず、シオンは仲間と共に、今までの旅の事を話していた。
「そっかー、じゃあ俺たちみんな西や北で、擦れ違ってたんだなー」
「そういう事だな。まぁ互いにしぶといものだ、崖から落ちてこうして生きているのだからな」
「しかしまた会えて良かった!所でさ、西の国の『肉まん』って知ってる?」
「あたし知ってるわ!おいしかった!」
「だよなー。リーンとは何か仲良くできそうだよ!」
シオンもリーンも、明るくて社交的。
二人はとても、性格が合った。
「でも西の国と言えば、盗賊が多いんでしょ?だけどわたし、一度も狙われなかったわ。やっぱりこの可愛い少女を傷つけようって人間はいないのねー」
ガルドは思った。
全く、俺はさんざんラークで苦労したというのに。
「・・・偶然だ」
「もうっ!ねえシオン、ガルドったら仲が良いわたしたちにヤキモチ妬いちゃって・・・ひどい事言うのよ!やっぱり冷たいガルドなんかより、優しいシオンと仲良くしたいわー」
シオンは先程リーンに聞いた、北でハナが出るのに困った話を面白がっていた。
「いやあ、リーンは『ハナも恥らう』乙女だろ?」
「もうっ!シオンまで!」
「ねー、メイもはなしにいれてー!」
「あんたはあっち行ってなさいっ!」
「ははは、ヤキモチ妬きはどっちだよ」
シオンはリーンの、ガルドに対する恋心に気付いていた。
ガルドはそんな事、全く気付いてなかったが・・・
とにかくこの空間は、とても平和だった。
「所でガルドは、この旅が終わったらどこに行くんだ?やっぱりジゲン村に帰るの?」
「いや、あそこはもう俺の故郷ではない。俺の旅は・・・終わらないのかもしれないな」
「だったらシルフ島に―――」
「ずっとこの修道院にいればいいのよ!」
「・・・。」
リーンはまだ少女だからか、独占欲があるらしかった。
「ねえガルド、そうしましょうよっ」
「・・・まだ気が早い」
ガルドはこれからの事を、考えていた。
まずメイの事を・・・何とかしなければ。
「メイ、よく聞くんだ」
「なあにー?」
「お前はここに残るんだ」
「えー!?」
メイの目に、みるみる涙が溜まっていった・・・
ガルドは辛かった。
「わかってくれ、メイ」
「あたしガルドといっしょにいきたい!ずっといっしょにいたい!」
「メイ・・・」
シオンとリーンも、哀しい顔をしていた。
「あたし、ガルドとけっこんする!」
リーンの顔が、凍結した。
その一言は、あの北の国の寒さ以上の威力だった。
やはりこの娘・・・!
「メイ!・・・全てが終わったら、必ず迎えに来る。結婚はそれからでも、遅くないだろう?」
リーンの顔は、更に凍結した。
今にもヒビが入って、割れそうだった・・・
シオンは少し、面白がってそれを見ていた。
「ガルド・・・」
「メイ、マザーの言う事をよく聞くんだ。俺は必ず戻る。待っていてくれ」
かつての鬼は、もうそこにはいなかった。
いるのはただ優しい、最強の戦士だった。
「・・・わかった。あたし、ずっとガルドをまってる」
「メイ・・・良い子だ」
ガルドはそっとメイをなでた。
リーンはずっと、凍結していた・・・
「マザー、メイを宜しく頼む」
「任せてください。メイ、よろしくね」
「うん、おばさん!」
「おば・・・!」
シオンはひたすら、笑っていた。
「・・・じゃあ、お世話になりました」
「またね、おかあさん!」
「きっとあなたたちなら、世界を救えるわ」
シオンとリーンも挨拶を済ませ、三人は修道院を出た。
「ガルド・・・」
「ん?」
メイはガルドに、キスをした。
もちろんそれは、互いのファーストキスだった。
リーンは頭が爆発しそうになった。
シオンもさすがに、驚いていた。
それから歩き出す三人。
いつまでも手を振るメイに、ガルドはそっと手を振り返した・・・
「・・・それにしても」
リーンは、怒っていた。
「ガルドがまさか、本当のロリコンだったなんて知らなかったわ」
「・・・。」
ガルドは何も言えなかった。
当然、彼がメイに恋している訳ではないが・・・
なにしろこの男、女性や子供関係無しに、他人に上手く想いを伝えた事など無い。
純粋に相手を想うこの気持ちが、愛なのか何なのかさえわからない。
「・・・メイは俺の、恩人だ」
ガルドはそれだけ言って、黙ってしまった。
「で、これからどうするの?シオン」
結局、スズ修道院では劇的な出逢い・再会を果たした彼らであったが・・・
マザーが賢者である事以外、特に情報は得られていない。
「とりあえず、リーンのヒーリングを使ってほしい人がいるんだ」
「わかったわ」
三人は、ロマスのジョーのいる町へと向かった。
もうトッポのモンスターなど、この三人の相手ではなかった・・・
その頃、ティグリ村―――
ここでも夜に、ドラマがあった。
黒いマントと銀色の長髪をなびかせて、男は来た。
青い狼を連れているその姿は、どこか懐かしかった。
「何者じゃ」
最強の魔女は、それを迎えた。
「聞いた事がある。我が村の村長ゴーゲンの、かつての恋人は最強の魔女であると」
ジェノとヴィオラは、激しく睨み合った。
「魔女の誇りを捨てたか?人間に味方しているのだろう」
「クリスタルの噂を聞いたか?情報が早いのう」
「魔法使い共は、我々に力を貸し魔族となるべきだ」
「ふん。馬鹿な事をお言いでないよ」
「最強の魔女か・・・手応えがありそうだ!」
ジェノのマントが、夜風で大きくなびいた。
グレイヴは、それに合わせて遠吠えした。
月明かりの下、最強の魔法使いと最強の魔女の戦いが始まろうとしていた。
激しい火炎、飛び交う氷柱、巻き起こる竜巻!
「フン!フハハハッ」
「ふぬうっ!はあっ!」
雷鳴は空間を裂き、地面には衝撃が走る!
「『ビッグバン』!」
「『ダークストリーム』!」
光と闇が、激しくぶつかった。
ジェノももう、この闇魔法を一人で使えるようになっていた。
ちなみにヴィオラは、光属性である。
グレイヴは、他の魔法使いたちと戦っていた。
いや、戦いにすらなっていなかった。
この村の魔法使いも、ヴィオラ以外は弱い・・・
それだけにヴィオラは、ずっとここを離れられなかった。
「終わりにしてやろう、老いぼれよ」
「何じゃと?」
ジェノは鎌を出し、放った。
「デスブラスト」は、ヴィオラの全身を切り刻んだ。
「ぐはっ!・・・無念」
ヴィオラは、死を覚悟した。
すまぬ皆。
わしはもう、戦えぬ。
しかしその頃、村人は既にグレイヴによってほとんど殺されていたのだが・・・
「安心しろヴィオラ。貴様は強く洗脳できんが、他の魔法使いは皆我らの仲間としてやる」
「・・・。」
ヴィオラは決心した。
皆、どうせやられるならば・・・
せめてこの男の命と、引き換えに死ぬのじゃ!
「すまぬ皆!」
「!?」
ヴィオラは最後の力を振り絞り、光の最大攻撃魔法「アルティメットエネルギーレイン」を繰り出した。
空に月が・・・二つ。
超巨大な白い塊。
エネルギー弾が、そこから降り注いだ。
「何ィッ!?」
ジェノは急いでグレイヴを呼び寄せ、共にマントで防いだ。
その衝撃は、凄まじかった。
このままでは、この魔力を持った「死神のマント」も破れるな・・・
「『マジックバリア』!」
ジェノは全魔力を使って、防御魔法で防いだ。
激しいエネルギー弾の雨は、村中を破壊した。
この時村の近くでは、大地震が起きていた。
そして最大魔法を出し尽くし、魔女ヴィオラは・・・息絶えた。
74歳、最後の命の灯火であった。
こうして最強の魔女は、燃え尽きた。
「・・・。」
荒野と化した村の中、立っているのは銀髪の男と青い狼。
彼らは生きていた。
「・・・ム」
しかしマジックバリアに全ての魔力を使い果たし、テレポートする魔力も残っていなかった。
「グレイヴ、東へ行くぞ」
そして彼らは、ゆっくりとアルカディアへ向けて歩き始めた。
この時シオンたちがここに到着していれば、倒せるチャンスはあったかもしれない。
だが彼らがここティグリに来るのは、この数日後だった。
シオンたちは、ジョーの所へ来ていた。
「いやーシオン、可愛いネーチャン連れてるなあ!そんでその横のおっかないのが斬鬼ガルドか!」
「・・・叩き殺すぞ」
「うっひゃー!」
リーンはヒーリングをかけた。
シオンもガルドも、その効果に驚いた。
ジョーの傷はすぐに完治した。
「ありがとよネーチャン!」
「いいえ。それからこのおっかないの、顔はこんなだけどただのロリコンですから」
「プッ!」
「・・・。」
ガルドはまだ、責められていた。
「ほらジョー、剣を返すよ。また一緒に―――」
「いや」
ジョーは剣を、受け取らなかった。
「お前もわかるだろう。もう俺の力じゃあ、お前の役に立てないんだ。一緒には行けない、戦えない」
「そんな!」
ガルドが口を挟んだ。
「力無い者は、邪魔なだけだ。だから俺も、メイを置いて来た。そいつの気持ちを汲んでやれシオン」
リーンも口を挟んだ。
「相変らず口悪いなこいつはー!それにいつまでもメイメイメイメイって、ヤギかこのロリコンヤロー!」
「・・・。」
「ジョー・・・」
「俺はドラナグへ行って、ドランと共に人間を集めるよ」
「・・・わかった」
己の力不足を悟ったジョーは、そう決心したのだった。
「ガルドよ、シオンを頼むぜ」
「・・・ああ」
こうして三人はジョーと別れ、ジョーは西へと旅立った。
シオンの冒険の序盤から支援し、力となってくれたジョー。
彼はまた、新たな自分の道を歩み始める。
唐突に、リーンは言った。
「ねえ、たまにはシオンの故郷に行ってみようよ」
「でもまだ旅は終わってないし、皆に会わせる顔がないよ」
「いいじゃない別に」
そこに、ガルドが口を挟んだ。
「・・・それより、賢者の修行はどうなっているんだ?」
「だって全然まだ、声なんて聞こえないんだもん」
丁度その時、リーンの頭に何かが響いたようだった。
「あっ・・・き、聞こえた」
「え!?」
「今のは多分、炎の精霊?かな・・・」
「な、何て!?」
「『魔女の村へ向かえ』、って」
「魔女?ヴィオラさんの事か。ティグリ村だ!」
「何か嫌な予感がするわ・・・」
「・・・急ごう」
三人は、ティグリ村へと急いだ。
ティグリ村跡地―――
「な、何だこれは!?」
地面は穴だらけだった。
「一体、何が・・・?」
かつての姿を知るリーンも驚いていた。
ガルドはここに来た事は無いが、この惨状を見て只事ではないと感じていた。
「・・・ヴィオラさん!」
倒れた魔女を見て、シオンとリーンが走って行った。
ガルドは辺りを見回した。
青く、硬い毛がある。
獣だろうか?
まだ三人とも、グレイヴの存在は知らなかった。
いくつもの霊魂のようなものが、宙に浮いていた。
「気を付けるのじゃ、勇者たちよ」
その一つが、ヴィオラの形となった。
「ヴィオラさん!」
「わしは死んだ・・・だがこうして、まだ魂はこの世にある」
「一体誰に!?」
「黒いマントの男と、青い狼・・・魔族じゃ」
「ジェノだ!」
「よく聞くのじゃ、勇者シオン。おぬしはこれから、戦士ガルドと賢者リーンと共に旅をするのじゃ」
「そのつもりだよヴィオラさん」
「うむ。精霊の力を得るのだ。リーンはもう、精霊の声を聞ける頃だろう」
「ヴィオラさん・・・」
「魔法使いを、世界を頼む。もう多くの村では魔法使いは魔族となっているじゃろう。霊魂も、『ゴースト』や『ウィスプ』などのモンスターとなっている」
ヴィオラの魂は、消えかけていた。
「時間じゃ。勇者シオンよ、世界を任せたぞ」
「はいヴィオラさん!」
「賢者リーン!精霊の声を、よく聞くのだ」
「・・・はい、おばあちゃん」
「戦士ガルドよ、やはりおぬしもシオンに魅かれたか。奴を頼むぞ」
「・・・ああ」
そしてヴィオラは、消えた。
「クソッ・・・ジェノめ」
「シオン、声が聞こえるわ」
「今度はなんて!?」
「『東に向かえ』と・・・トーデ丘に、何かがあるらしいわ」
「!」
ガルドとシオンは、顔を見合わせた。
「行こう!」
三人は、走り出した。
東の地・アルカディア―――
「久々だな」
「・・・ああ」
シオンとガルドは、懐かしんでいた。
しかしそんな余裕は無い。
「ねえシオン!わたし気付いたの!」
「どうした?」
「わたし・・・『テレポート』、使えるわ」
「・・・。」
リーン程の魔力があれば、不思議ではない。
彼女はジェノたちと同じように、魔力を応用し移動魔法を使えるようになっていた。
「もっと早く言ってくれよ」
「う、うんゴメン。てへ」
「・・・。」
リーンは他に、マジックバリアやエスケープ、アナライズも使えるようになっていた。
ヴィオラが死んだ今、最強の魔女は人間である彼女だった・・・
その首には、クリスタルが光っている。
「こうすればいいのね・・・」
「な、何を」
リーンはシオンとガルドと、手を繋いだ。
「えいっ」
そしてテレポートした。
シオンとガルドが知っている地なので、リーンはテレポートできた。
三人は一緒に、トーデ丘へと瞬間移動した。