第12話
「アースブレード」。
ドランの放つ剣の衝撃が、地面を進む。
「ショックバースト」。
ダークは剣を両手で持ち、衝撃を分散した。
「・・・兄上」
「・・・。」
ドランは考えるのを、やめた。
「うおおおっ!」
ドランは空高く跳び上がり、斬りつけた。
ドラナグに伝わる剣技「ドラゴンダイブ」だった。
ダークは一薙ぎして、防いだ。
続いてドランは大きく何度も回転して、斬りつけた。
同じくドラナグの剣技「ドラゴンストーム」だった。
ダークは何も、感じなかった。
彼はドラナグの戦士ディランであり、ディランではなかった。
ダークは剣に炎の力を込めて、斬った。
シオンよりも強力な剣技、「フレイムブレード」だった。
「ぐあっ」
ドランはそれを受け、倒れた。
「ドラン!」
シオンたちが駆け寄るが、ダークはその前に一撃を与えた。
兄の剣技「キリングブレード」によって、ドランは瀕死の状態となった。
「うう・・・」
「ドラン、しっかりしろ!」
シオンは後悔した。
やはりドランに、一人で戦わせるべきではなかった!
「ダーク、下がれ」
ジェノはそう言って、前に出た。
「私にも戦わせてくれ」
「・・・。」
ダークは下がった。
ジェノは左手を前に出した。
「この・・・ヤロー!」
ジョーがジェノに向かって、走って行った。
「ま、待てジョー!」
シオンは言ったが、間に合わなかった。
ジョーの剣がジェノに到達する直前に、至近距離での一撃を、ジョーは受けた。
「『ゴッドバスター』!」
ジェノの左手から発せられた巨大な光線が、ジョーをシオンの遥か後ろにまで吹っ飛ばした。
神をも砕くとして名付けられたその魔法は、絶大な威力だった。
「両翼をもがれた気分はどうだ、シオン」
「ジェノ・・・許さん!」
「お前が許さずとも、私には何の関係も無い事だ」
ジェノはデスシックルを取り出した。
「来いシオン、お前とは鎌でやってやる」
シオンとジェノは、遂にここで初めて戦う事となった。
激しくぶつかり合う、刃と刃。
シオンの剣技は、旅立った頃の数十倍にも増して磨かれていた。
ジェノは驚いた。
鎌だけで戦っては、この私よりも強いかもしれん。
やはりこの男、侮れない・・・
しかしジェノは、シオンを始末する気は無かった。
この男が存在するからこそ、ゼットは修行を怠らない。
そこに、その当人が現れた。
「お前の負けだジェノ」
「!?・・・ゼット様」
黄金の鎧を着た「魔王」が、そこにはいた。
「やはり生きていたのだな、シオン。私と戦え」
「ゼット・・・!」
シオンはもう、躊躇はしなかった。
そんな事をする余裕も無い。
目の前にいるのはかつての親友だが、今の魔王だ。
ゼットは静かに剣を抜いた。
ジェノは下がった。
ダークも見ていた。
シオンは一歩前へ出た。
勝てる気はしなかったが、全力で戦おう。
シオンは三連続で大打撃を与える奥義「Tスラッシュ」を放った。
「シオン、負けて強く・・・なったな」
ゼットは敢えてそれを受けた。
「だが私も、修行したのだ。私は魔王だ。負ける訳にはいかない」
ゼットは大きく、二度袈裟斬りをした。
「X斬り」は、シオンの体に大ダメージを与え、気絶させた。
ゼットの力は、前よりも更に上がっている・・・
「・・・行くぞ」
「は」
「・・・。」
そしてゼット・ジェノ・ダークは、「魔王城」、バトロイド城へと戻った。
数時間後―――
シオンは目覚めた。
魔法の鎧に傷は無い。
どうやらこの鎧、かなりの良物らしい。
「・・・ジョー!」
「うう・・・」
シオンはジョーに駆け寄った。
ひどい怪我だ・・・
「ドラン、しっかりしてくれ」
「・・・。」
ドランも意識を、失っている。
シオンは近くの魔法使いの村まで、二人を運んだ。
「・・・わかりました」
魔法使いは、遂に理解した。
世界の危機。
同族の魔法使いたちは、次々に「魔族」となっている。
「これからは人間に協力します」
遂にシオンは、魔法使いたちの協力を得た。
こうして世界の生物は完全に、「魔族」とそれ以外に分断された。
魔法使いの「ワープ」によって、シオンはロマスのある町まで戻った。
二人を医者に見せた。
医者は深刻な顔だった・・・
しかし数日後、何とか二人は回復した。
気を取り戻したドランは言った。
「俺は力不足だ・・・もう、シオンには付いて行けない」
「そんな!」
「もっと強くなって、いつか力になる・・・すまん」
確かにドランは、シオンほど強くはない。
「兄を頼む」
「・・・。」
ドランは悔しかった。
だがこのままでは、シオンの邪魔になる。
ドランはドラナグへと戻り、人間たちに団結するよう呼びかけた。
ドラナグはこの後、少しずつ復興してゆく事となる。
「・・・シオン」
ジョーの怪我が治る事は、もう無かった。
「この剣、お前が使ってくれ。俺はもうダメだ」
「ジョー、しっかりしてくれ!」
「お前と会えて、楽しかったぜ・・・」
「ジョー!」
ジョーは静かに、眠った・・・
「ぐおー、ぐおー」
「・・・。」
医者は言った。
「命に別状はありません」
「・・・。」
「ただもう戦ったり旅をする事は、できないでしょう」
「そうか・・・」
シオンはジョーの「魔法の剣」を受け取り、身に付けた。
シオンはまさにジェノの言った通り、「両翼をもがれた気分」だった。
シオンは仲間を失い、また独りになった。
防御を疎かにした事を悔やんだ彼は町で盾を買い、酒場に行った。
彼はめげなかった。
ドランはいつかきっと、力を付けてまた仲間になる。
ジョーには絶対に、平和な世界を見せてやる。
シオンは情報を集め始めた・・・
「南の地トッポに、修道院がある」
そんな噂を聞いたシオンは、南へ向かった。
魔法使いの協力は、とりあえず得た。
ドランは西で、人間たちの協力を仰いでいる。
自分もまた、一人でも多くの人間の協力を得なければ。
世界の闇は、どんどん南下してきているのだ。
シオンはスズ修道院に向けて、歩き始めた。
その数日前、ガルドたちは―――
ゴビ山で何日か過ごし、修行した。
自然の中でメイとの絆も更に深まっていった。
メイはもうとっくに、ガルドに本当の親よりもなついていた。
ガルドもまた、メイに対して親のような気持ちが芽生えていた。
そしてそれを守る為、そのメイが住む世界を守る為、彼は剣技に磨きをかけた。
そして遂に、彼は二刀を扱う事ができるようになった。
「メイ、お前には助けられてばかりだ」
「メイはガルドにいっぱいたすけてもらったよ!」
ガルドはメイを連れ、山を出た。
「紫電」と「疾風」は軽かった。
二刀を練習するのには丁度良かったが、ガルドは新しい刀を求めていた。
「北にテッサイの作品がある」
そんな噂を聞いたガルドは、少しずつ北へ向かった。
メイの里親の事は、もう考えていなかった。
俺が守ってやれば良い。
それだけの事だ。
北の地・グレーデル―――
シオンたちの少し後に、ガルドもここに来た。
ここグレーデルは人口は少ないが、強者ばかりがいる。
剣豪の集う町・「ハヤブサ」へと、ガルドは向かった。
「ガルド・・・さむい」
「もっとこっちへ来い」
「うん!」
焚き火の前で、二人は肉を食べていた。
「すまんなメイ、こんな所に連れて来て」
「ううん」
思えばガルドが他人に謝ったのも、メイが初めての事だった。
初めから、謝る事などしない。
誰に何と思われようが、後悔しないように生きる。
それがガルドの考えだった。
そもそも他人とこんなに関わる事すら、今まで無かったが。
ガルドはふと思った。
そう言えば、もう長い間シオンに会っていない・・・
奴はどこに流れ着いたのだろうか。
生きているのか?
リーンも冷たく置いて来てしまった。
メイもこんな危険な所に連れて来て・・・
俺は自分の事しか、考えていない。
「(俺は・・・まさに鬼だ)」
だが皮肉にも、そう思う心こそが人間だった。
ガルドはもう、他人よりも心優しい人間となっていた。
ハヤブサ―――
「ここで一番強いのは誰だ」
町の入り口に立っていた男に、ガルドは尋ねた。
「ホッ。子連れの剣士さんかい?余裕だね」
「ここで一番強いのは誰だ」
「・・・あんた、我々をなめてるのかい?」
ガルドは目にも止まらぬ早さで剣を抜き、男の服を切った。
男は一瞬にして、丸裸になった。
その時ガルドはもう既に、両刀とも鞘に収めていた。
メイはにこにこ笑っていた。
「ま・・・参りました」
男はガルドを町で最強の剣士・ダイの下へと案内した。
「俺は剣豪ダッジの弟子、ダイだ」
「(ダッジ?どこかで聞いた名だな。・・・あの時の!)」
思い出した。
かつて自分が生かした、盗賊エッジの息子だ。
そうか、奴は強くなったのだな・・・
「刀を賭けてくれないか」
ガルドは紫電と疾風を差し出した。
「・・・いいだろう」
ダイは同じくテッサイの作品「陽炎」と「氷雨」を差し出した。
そして二人は、刀を抜いた。
勝負は一瞬だった。
数十秒の沈黙の後、ダイは動いた。
同時にガルドは、彼の肩に「斬撃」を喰らわせた。
「紫電」の持つ雷の魔力が、ガルドの放つ一撃に込められた。
「ぐう・・・」
「悪いな。加減はした」
ハヤブサの剣士たちは、どれも普通の人間の数十倍は強い。
北の地域に住んでいるのだ、当然だろう。
それでもガルドは、その更に上をいっていた。
ガルドは新たな剣、「陽炎」と「氷雨」を得た。
「ガルドつよいね!」
メイは言った。
ガルドはそれが、嬉しかった。
「テッサイの作品・・・やはり良品ばかりだ」
ガルドは剣を片手で二度振り、更に両手で振った。
炎と氷の衝撃が、三つの衝撃「刃」を作り出した。
ガルドの奥義「三流激」の完成だった。
ハヤブサの人間は、皆誇り高かった。
皆がガルドを認めた。
「嬢ちゃん、強い『彼氏』だなあ」
「えへへ」
町の男と、メイの会話である。
「だがダッジはもっと強いぜ」
ダイはそう言って、肩を抑えながらガルドを見送った。
町を出てしばらく歩いたそこに、黒い騎士が現れた。
ジェノと離れ、単独行動している・・・ダークだった。
ガルドとダーク。
魔剣を使いこなす闇剣士二人が、相見えた。
「・・・私と、戦え」
ガルドはメイを下がらせた。
「(こいつは、強い・・・)」
ガルドは陽炎と、氷雨を抜いた。
ガルドの「氷斬り」と、ダークの「フレイムブレード」がぶつかり合った。
「クッ!」
強い!
ガルドは肩の防具で体当たりした。
ダークがよろける。
そこにガルドは、奥義「三流激」を喰らわせた。
ダークは完全に技を喰らい、大ダメージを負った。
しかしガルドはそこで、戦士がやってはならない事をした。
この強敵に、持ったばかりの刀で、奥義がまともに入った。
「油断」、した。
ガルドらしからぬ事だった。
その一瞬のスキに、ダークは「キリングブレード」を放った。
ガルドは胸に大きな傷を作り、仰向けに倒れた。
ダークはゆっくりと、メイに向かって歩く。
「やめろ!やめてくれ」
ガルドは動けず、叫んだ。
「・・・。」
「ガルド、こわい・・・」
ガルドの目には、数年ぶりの涙が浮かんでいた。
数年前、父に剣技を習った時には、よく静かに涙を流したものだったが。
「待ってくれ!」
しかしダークは、メイに興味は無さそうだった。
そのまま「ハヤブサ」の方に、向かって行った。
「ハッ、ハッ・・・よ、良かった・・・」
「ガルド!」
ガルドはゆっくり、目を閉じた。
ガルドが目を覚ますと、ハヤブサの町だった。
「はっ!ここは?」
「ガルドー!」
メイが、飛び付いて来た。
「痛ッ」
「ああっ!ごめん」
胸の傷が痛む。
包帯を巻かれている。
そうか俺は、ここに運ばれ助かったんだな。
「気が付いたか」
数時間前に戦った相手・ダイが部屋に入って来た。
「あの後謎の黒騎士が現れ、何とか町中の剣豪が出て戦って、追い返したんだ。奴は化物だ、あんたより、ダッジよりも強かったぜ!」
「(だが奴は、騎士道を重んじる様だ。本当に良かった・・・)」
その誇りはかつてダークが人間だった頃、「ディラン」の心に基づくものだが、彼がそれを知る由は無い。
「所でこの剣な、気に入ったよ。俺にはこっちが合ってるみたいだ」
ガルドはダイに、「紫電」と「疾風」を手渡していた。
「そうか、良かったな」
自分が損しなければ、他人に利益があっても問題無いからな。
翌日ガルドは、ハヤブサを出た。
「じゃあ今度こそ、またな」
ダイたちは、彼を見送った。
「メイ、危険な目に逢わせて本当に済まなかった」
「ううん、ガルドがだいじょうぶでよかった!」
「俺はお前の事を、一番に考えるべきだった。思い出したんだ」
「なにを?」
「南の地域・トッポに、修道院がある」
「しゅうどういん?」
「・・・行こう」
「うん!」
ガルドはしばらく、前の様には戦えない。
今メイの事を何とかしよう。
俺にはこの子を守れなかった・・・甘かった。
「(修道院で、マザーに引き取ってもらおう・・・)」
それは二人の別れを意味していたが、ガルドはまだメイに何も言わなかった。
ガルドもスズ修道院へ向けて、歩き始めた。