第11話
ラークの町・「テレネ」に着いた。
「・・・着いたは良いが、さて」
まずは自分の事より、メイの事だ。
「メイ、本当に何も覚えてないんだな」
「うん・・・」
「よし」
ガルドは、町中の人間にメイの事を尋ねたが、誰も知っている人はいなかった。
「チッ・・・」
「ガルド、つかれた」
「ああ、そうか」
ガルドはメイを連れ、宿に入った。
「・・・記憶喪失の子供、か」
さて、どうしたものだろう。
ガルドは風呂で、考えた。
孤児院などめったにない。
ドスン、と音がした。
ガルドは急いで風呂を出た。
「メイ、大丈夫か」
メイが「斬鬼」を落として、泣いていた。
「ガルド・・・」
「メイ、これは危ないんだ。触るんじゃない」
ガルドは乱暴に、床から刀を取り上げた。
「刃が出てなかったから、良かったものの・・・まったく」
「ふええ」
メイは、まだ泣いていた。
ガルドは思った。
「(メイは子供だ・・・それに俺が管理していれば良かった事)」
そう言えば父ガルムは、風呂に入る時も、すぐ近くに刀を置いていた。
ガルドは反省した。
「すまん、メイ。俺はまたお前に、大事な事を教えてもらった」
メイは泣き止んだ。
「ガルド・・・ねむい」
「・・・ああ、寝よう。明日はお前の好きなものを買ってやる」
「えへへ、ありがとう。ガルド」
そして二人は、一緒に寝た。
ガルドが他人と一緒に寝たのも、もちろん生まれて初めての事だった。
メイはリーンやシオン以上に、ガルドを変えた存在だった・・・
翌朝。
大きな飴を持っておとなしくなったメイを連れ、ガルドは里親を探した。
もちろん飴は、ガルドが買ったものである。
里親など、やはりそう簡単には見付からなかった。
「すまんメイ、お前の親がなかなか見付からん」
「メイ、ガルドといっしょにいく」
「・・・。」
まあしばらくは、仕方無い。
女を連れて来れない旅を、子供連れでしているとは。
リーンが見たら何と言うだろう。
ガルドは町で刀を買って、歩き始めた。
そこにまた、昨日とは違う盗賊が・・・
「おいオマエ」
ガルドはすぐに刀を抜いた。
「聞き飽きた。来い」
盗賊が襲いかかる。
ガルドは左手の刀でそれを止め、右手の斬鬼で斬る。
しかし。
「(重いッ)」
剣の達人であるガルドといえど、二つの刀を扱うのは容易ではなかった。
動きにスキが生じて、その間にメイを人質に取られてしまった。
「(しまった!)」
「へへへ・・・どうする?」
「・・・そんなクソガキ一匹ごときで、この俺を殺れるとでも?俺はそんな奴、何とも思ってない。たまたま出会った、うるさいだけのただの子供だ」
だが盗賊は、退かなかった。
「ハッタリはやめろ。こいつの顔に傷が付くぞ」
「(チッ)・・・好きにしろ」
そう言って刀を収めたガルドは、それから数十分、殴られ蹴られた。
「なんだこいつ・・・超ビンボーじゃねえか!やられたぜクソ」
ガルドの少ない持ち物を漁った盗賊たちは、腹が立っていた。
「くそっ!」
横を向いて石を蹴飛ばした盗賊。
今日の人数は三人・・・いける!
ガルドは素早く立ち上がり、蹴りを入れた。
そして両手を広げ、残りの二人を同時に斬った。
「二天斬」の完成だった。
「てめっ・・・覚えてろ!」
今逃がしては、後で危ない。
全員仕留めるのだ!
「メイ、さっきは酷い事を言ってすまなかった」
「ううん。ガルドはいつもたすけてくれるからだいすき」
ガルドはメイを抱え、盗賊を追って走った。
パレス宮殿―――
荒野の宮殿に、盗賊たちは巣食っていた。
ガルドは傷付いた体で、両手にしっかり刀を握った。
「メイ、ここにいるんだ」
「うん、わかった。きをつけてね」
入り口に、メイを置いた。
つまり一人足りとも、逃せない。
「俺は鬼だ・・・参る!」
ガルドは流れるように、踊るように。
人を、斬っていった。
盗賊たちは声を上げ、血しぶきを上げ、死んでいく。
「うぎゃあー」
「ぐわー」
それは奇妙な楽器のような、低音のメロディーだった。
奏でるのは、天才剣士ガルド。
そして奥に、辿り着く。
「久しぶりだな」
「うわっ」
尾けられた盗賊と、頭らしき人物。
盗賊は刀を持っていた。
「こいつは名刀『紫電』だ!あのテッサイの作品よ」
頭も刀を持っていた。
「これは『疾風』。同じくテッサイの作品だ」
二人は当然武器の説明をしてガルドの恐怖を煽ったのだが、ガルドには鴨がネギを背負っているようにしか見えなかった・・・
「これは『斬鬼』。同じくテッサイの作品だ」
「ほう。しかし二対一だ」
「能力的には、俺が二でお前たちが一だな」
「・・・殺すぞ」
「へい」
盗賊と頭はガルドを囲んだ。
「『兄弟』が痛んでいるのだ。それを貰うぞ」
斬鬼は、もう随分と使った。
それに普通の刀と組ませるのは、重さが違って難しい。
ここで「紫電」と「疾風」を頂いて、二刀流を完成させるのだ。
盗賊と頭は、同時に襲いかかる。
ガルドは両手で「大車輪」を繰り出した。
盗賊も頭も、仲良く倒れた。
ガルドは「フン」と鼻で笑い、紫電と疾風を手に入れた。
辺りには幾つもの死体が転がった・・・
この血塗れの凄惨な所を、ガルドはメイには見せたくなかったのだ。
「無事だったか」
「うん!ガルドつよいね」
ガルドはメイと共に、ゴビ山へとこもった。
しばやく休むと共に、二刀を扱う修行をするのだ。
そして、リーンは―――
「ここがティグリ村ね」
メビウスの勧め通り、ヴィオラの下へ来た。
「ごめんください」
「人間・・・か」
リーンは、光のオーラに満ちていた。
「・・・。」
ヴィオラは言った。
「もしやシオンの、仲間か?」
会った事はないが、リーンははっきり答えた。
「ええ、そうです」
リーンとヴィオラは、全てを語り合った。
そしてヴィオラは、リーンに新たな魔法「ビッグバン」と「ダークストリーム」を伝授した。
リーンもゼットと同じく、一人でこの闇魔法を使えるのである。
ヴィオラもである。
彼女はまさに、最強の魔法使いであった。
「世界の危機に、魔法使いの協力は必要不可欠じゃ」
ヴィオラは言った。
「リーンよ、北に行きなさい。北の魔法使いに、協力を仰ぐのじゃ」
そして彼女は、首に下げていた緑色の石を、リーンに与えた。
「これをやろう、『クリスタル』じゃ。我ら魔法使いに認められた証じゃ」
「ありがとうございます」
「世界の危機が迫っているようじゃ。遂に魔法使いが、人間と協力する時が来たのじゃな」
ヴィオラはリーンに『ワープ』をかけた。
リーンは北の地、グレーデルに立った。
その北の地、グレーデルでは―――
ゼット軍は、三方に分かれていた。
ゼットは中央、ジェノ・ダークは西、シルヴィス・グレイヴは東。
そしてジェノはモンスターたちを、次々に洗脳していった。
更に魔法使いたちに、「今こそモンスターと協力し、世界の悪である人間共を滅ぼすべきだ」と促した。
だが魔法使いたちは、従わなかった。
従わない魔法使いは、モンスターと同じく洗脳した。
それでも従わない、強力な魔法使い。
ダークはその全てを、いとも簡単に処刑していった・・・
「後の魔王に逆らう者は許さん」
不必要な他者の命など、少しも惜しいとは思わなかった。
ジェノはそう言って、銀髪と黒マントをなびかせて歩いて行った。
シルヴィスは言った。
「グレイヴ殿、我々も長い付き合いとなりましたね」
グレイヴは「そうだな」と言ったが、やはりまだシルヴィスにそれは伝わらなかった。
グレイヴはモンスターだけに、モンスターとの交渉はできるようだった。
彼の交渉によって、こちらでもまたモンスターが次々と彼らの仲間になっていった。
そして魔法使いの説得には物腰の柔らかいシルヴィスが当たったが、やはり頑固な魔法使いは従わない。
シルヴィスもまた洗脳を用い、効かなければそれらを皆殺しにしていった・・・
そしてある時、シルヴィスは死体を一つ、持ち上げた。
「・・・私もそろそろ、ボディを持ちましょう」
シルヴィス本体(仮面)は、ある美しい魔法使いの死体の顔についた。
そして白いマントをつけて、言った。
「似合いますか?グレイヴ殿」
「ガウッ」
「今のはわかりましたよ。似合うと仰られたのでしょう」
「・・・。」
答えは「悪趣味だ」だった。
こうして彼らは北の地グレーデルで、モンスターと一部の魔法使いを仲間とした帝国を作り上げた。
遂にゼットはジェノに促され、「魔王」を名乗った。
ここグレーデルから、世界は大きく変わってゆく。
「古代人」と「古代獣」で分けられたかつての世界。
「人間」「魔法使い」「モンスター」「動物」で分けられていた今までの世界。
これからはゼット率いる「魔族」と、そうでない者とに分けられる。
ジェノは世界中の人間・魔法使い・モンスター・動物までも、自分たちの味方に引き入れようとしていた。
ここグレーデルには、既に洗脳されモンスターと化した魔法使いもいる。
世界の闇「魔族」は、既に世界の五分の一ほどを支配しようとしていた。
一方、シオンたち―――
北の国で修行を続け、彼らはどんどん強くなっていった。
特にシオンの成長は、目を見張るものだった。
やはり彼も勇者の資質を持つ、選ばれた人間なのだ。
きっかけはステージアの魔法使いであったが、彼の才能は自らの手によってどんどん開花された。
いくつもの強力な魔法を、彼は覚えた。
「『サンダーボルト』!」
氷の鳥型モンスター「アイスバード」を、シオンは仕留めた。
「おいおいそりゃあ、俺のワザじゃねーのかよ・・・」
とジョー。
「だって見てたら覚えたんだよ」
シオンはとにかく、強くなっていた。
コガ村―――
そこには既に、魔法使いの影はなかった。
「おい、この村おかしいぜ」
「何か妙だ」
数人の魔法使いたちは、洗脳されていた。
「『ファイヤーストーム』!」
「『クリスタルダスト』!」
「『トルネード』!」
魔法を撃ってくる魔法使い。
いや、それはすでにもう「魔族」であった・・・
シオンたちは防ぎつつ、言う。
「やられるなら、やるしかない」
「ああ!」
「了解」
シオンの青い鎧は、魔法から身を守ってくれた。
この「魔法の鎧」は、後に「勇者の鎧」として有名になるのだった。
ちなみにゼットの鎧とマントは「魔王の鎧」「魔王のマント」、ジェノの鎌とマントもまた「死神の鎌」「死神のマント」と呼ばれる。
シオンは爆発魔法「エクスプロージョン」、ジョーは稲妻魔法「サンダーストーム」、ドランは地震魔法「アースクエイク」を繰り出す。
三人の魔法は、一つの大きな破壊魔法「ハルマゲドン」となった。
魔族たちは、皆倒れた。
「『マジシャン』『ピエロ』『メイジ』『モンク』を倒すとは・・・やるな」
そこに現れたのは、実に数週間ぶりに見た男だった。
「・・・ジェノ!」
「ほう、私の名前を覚えてくれたのか。私も知っているぞ、お前はシオンだな」
黒マントの男・ジェノは、ゆっくりこちらに歩いて来る。
「新たなモンスターは強いだろう、魔法が使えるのだ。我々はこれらを魔族と称し、これから世界中で仲間を作る。そして世界を手にするのだ」
「お前の思い通りにはさせんぞ!」
ドランが、前へ出た。
「む、お前はドランではないか。懐かしい。そうかそちら側に付いたのか。惜しいな・・・君に会わせたい者がいるのだが」
ドランは、嫌な予感がした。
「何!?ま、まさか・・・」
「我々の仲間、『ダーク』だ」
黒い鎧の騎士が、そこにはいた。
ドランには、すぐにわかった。
顔も見えないが、彼は兄のディランだ・・・
「兄に、何をした!」
「何も。彼は我々の味方になったのだ」
ジョーは言った。
「あの黒い鎧、ダークストーンじゃねえのか?」
「お前・・・なかなかの観察力そして知識だ。名は?」
「ジョーだ。覚えときな腐れ野郎。冷静ぶってるが、お前からの内面は腐臭がするぜゲロ野郎!」
ジェノは顔をしかめた。
「面白い男だ、恐怖心が無いとは素晴らしい・・・ダーク!」
呼ばれた黒騎士は前へ出て、赤き剣「ブラッドソード」を抜いた。
「やるのか?シオン!」
「仕方無い・・・だろう」
「待ってくれ」
ドランが、更に前へ出た。
「俺がやる。やらせてくれ」
シオンとジョーは、止められなかった。
「・・・わかった」
「がんばれよ!」
ジェノは妖しく笑った。
「フフフ・・・お前も『がんばれよ』ダーク」
ダークはただ黙って、剣を構えている。
「行くぞ!」
「・・・覚悟」
そして哀しき、兄弟対決が始まった。