第9話
ガルドの身長は高めで、リーンは普通。
ガルドは強張った顔をしていて、リーンは少女のようだ。
ガルドの髪は黒く、リーンは緑と水色の間のような髪の色。
二人は兄弟にもカップルにも見にくい、不思議な感じだった。
「おい、『リーン』」
ガルドはやっと、名前で呼んだ。
「なあに?」
「西の国は遠いのか?」
マザーにもらった地図を見て、言った。
「かなり遠いみたいね」
この後彼らは、お互いにその人間離れした能力で助け合う事となる。
数日後―――
「・・・やっと着いたな」
「疲れたわねえ」
ガルドの斬撃は、多くのモンスターを斬ってきた。
「バジリスク」、「ファイアフォックス」、「ナーガ」。
強力なモンスターを、どんどん倒してきた。
それでもさすがに、ガルドもケガをする。
そこでリーンの「ヒーリング」。
彼女の魔力は凄まじく、魔法使いのようだった。
ガルドはリーンを守り切り、リーンもまたガルドに傷一つ残さなかった。
二人は、良いコンビだった。
リーンの白く美しい肌・大きくて澄んだ目を、通り過ぎるステージアの男たちは、振り返ってまで見た。
女までもが振り返った。
それほどリーンは美しかった。
ちなみにここにはつい二日前までシオンがいたのだが、惜しくも彼らは擦れ違った・・・
「魔法修行所・マジカリア」。
「ふむ・・・」
魔法使いの女の子は、二人を見た。
「あなたは闇属性ね。最も扱いの難しい属性よ、気を付けてね」
「・・・気を付けろと、言われてもな」
ガルドの次、リーンを見る。
「あなたは光属性ね。っていうか既に、聖なる魔法が使えるのね」
女の子は、驚いていた。
「ここで数日間、簡単な修行をしてもらいます。いいですか?」
リーンはマザーにもらったお金を払った。
ガルドは、気付いた。
彼はほとんど、金を持っていなかった。
リーンは鞄から更に5000G出して、払った。
「・・・借りは返す」
「ふふっ」
二人の修行が始まった。
修行とは、魔法使いに「きっかけ」を与えられ、精神を集中して魔法を起こすこと。
たっぷり休んで、しっかり集中して、魔力をいつでもどこでも、思い通りに発揮する事ができるようになる修行。
「(金を払って、こんな事をやらされるとはな)」
ガルドに魔法の才能は無かった。
「おい」
「何ですか?」
「俺に魔法は合わんようだな」
「そのようですね・・・武器を使っても、良いですよ」
事務的な魔法使いは、そう言った。
「何?」
「武器に精神を集中し、魔力を与えるのです。魔力は私が軽く注入しました。後はあなた次第です」
「・・・。」
ガルドは「斬鬼」に精神を集中して、斬った。
刀から、黒いオーラが放たれた。
「『絶影剣』ですね。やりましたね」
「・・・。」
ガルドは修行を続けた。
そして「火炎斬」「氷斬り」「雷神剣」「風神剣」「大地斬り」「瞬殺剣」を覚えた。
「ここまでの技を身に付けるとは、驚きました。あなたはまだまだ強くなる。魔法が無くとも、これだけあれば十分です」
「・・・。」
また彼は魔法を防御する修行もした。
ここまで彼がモンスターに受けたダメージは、全て魔力によるものだったからだ。
そして彼はそれを防御する術をも得た。
ガルドは黙って、マジカリアを出た。
一方、リーンは元々物凄い魔法の才能があった。
担当の魔法使いも驚くほどであった。
そしてリーンは「エクスプロージョン」「ビッグウェーブ」「サンダーストーム」「ハリケーン」「アースクエイク」など、多くの魔法を得た。
リーンはにっこり笑って、満足げにマジカリアを出た。
「・・・終わったか」
ガルドとリーンは合流した。
「これで私たちは、かなりの魔力を得たはず・・・あとは自分たち次第ね」
「で、これからどうする」
「ガルドに付いて行くわ」
「駄目だ」
「ええっ、どうして」
「俺は魔力だけではなく、剣技も更に磨かねばならん。しばらく武者修行をする。女は邪魔だ」
「・・・。」
「・・・わかってくれ」
ガルドは以前より、優しい目をしていた。
シオンと会って明るく、リーンと接して優しくなったのだろうか。
「・・・わかった。わたしは、大賢者メビウスさまを探すわ」
賢者とは、精霊と心を通わせ召喚する者。
大賢者メビウスとは、多くの精霊と心を通わせ召喚できる者だ。
ここマジカリアで、そんな話を聞いた。
「そうか。精霊とは、本当にいるのだな」
「精霊の力があれば、ガルドたちにももっと協力できるし」
ガルドは無口な男だが、リーンにはこれまでの事を話していた。
つまりリーンもまた、「シオンの仲間」になったのだ。
本人の知らない所で。
「・・・いずれまた会おう」
「ええ、必ず!気を付けてね」
「ああ。お前もな」
こうして二人は、それぞれの道へと旅立った。
ガルドは武者修行の旅に。
リーンは大賢者メビウスを求めて。
一方、ゼット一行は―――
北の地域・グレーデルに足を踏み入れていた。
「ジェノよ」
「は」
「ここで一番の大国は?」
シルヴィスは、分析魔法「アナライズ」を使った。
彼は古代獣の分類になるのだろうか。
その出生は本人でさえ記憶に無くわからないが、彼もまた並の魔法使い以上の魔法が使える。
「『バトロイド』にございます」
「そこへ行くぞ」
「は」
そして彼らは、バトロイドに来た。
途中、何匹ものモンスターに襲われた。
ジェノは思い出した。
もう随分前になるが、我々はここから来た・・・
苦労しつつ、南へ行ったものだった。
まあ今は、こんなモンスターに苦労する事などない強さを得たが。
しかし驚くべきは、このゼットという男の成長速度。
魔法も勿論の事、新技の「V斬り」の威力も凄まじい。
今はまだ、絶対にこの男と決別する事はできない。
この男の力は、このジェノが利用するに値する・・・!
何十という精鋭兵が守る門。
「何者だ」
さすが最強の地域・最強の国の、最強の兵。
落ち着いている。
「この国を頂きに来た」
黄金の鎧・赤のマントに、緑の髪。
紫の眼を光らせるゼットというこの男も、負けていない。
落ち着いている。
「ほう、どうやって?」
「力尽くで」
ゼットは剣を抜き、ジェノはマントからデスシックルを出す。
ちなみにゼットの剣とジェノのマントは新調された。
シルヴィスは杖を持つようになった。
グレイヴ・ダークも、どんどん力を付けた。
最強の兵たちと、最強の悪魔軍団の戦いが始まる。
ゼットは物凄いスピードで、どんどん奥に進んでいく。
バトロイドの城には、モンスターもいた。
「ケルベロス」。
城の門番は三つの首を持つ巨大な魔物だった。
ゼットはケルベロスを麻痺させ、素早く中へ入る。
ケルベロスの麻痺が治ると同時に、ダークがその前へ出る。
残りの三人は、門兵とまだ戦っていた。
「所でジェノ様」
「何だ」
「何故ジェノ様は、人間に従っているのです?」
「・・・ゼットの事か?」
「そうです」
「奴はもう人間ではない」
「元・人間です」
「強い者には、従うべきだ。それは私の理念だ」
「では一生?」
「まさか。今は奴の方が強い。それだけだ」
「反乱とは、恐ろしいものでございますね」
「頂点に立ち油断した時、それに気付く」
三人は喋りながら、門兵を全滅させた。
ゼットが城に入ると、奥から多くの兵とモンスターが攻めてきた。
ゼットは闇魔法「ダークストリーム」を放った。
ジェノとグレイヴがかつて協力して出した技を、一人で出す。
そして素早く走り、石像に「V斬り」を放った。
石像に化けていたモンスター「ガーゴイル」は、静かに崩れた。
ゼットは奥へ進んでいく。
ケルベロスの三つの頭は、それぞれ違う攻撃を仕掛ける。
ダークはそれを上手く防ぎ、反撃する。
ダークの「フレイムブレード」は、ケルベロスの頭を一つ斬り落とした。
続いて「ナパームストライク」を放ち、また一つ破壊する。
さらに大斬り「キリングブレード」で、ケルベロスを消滅させた。
ジェノは笑った。
やはりこいつは強い。
いずれゼットを倒す時、最高の切り札となるだろう!
城下町の人間を、グレイヴは「いつもの様に」絶滅させた。
ジェノの尻拭い(?)は、彼の役。
シルヴィスは良き参謀。
ジェノは仲間に恵まれている。
最強の軍団の前では、最強の兵たちも赤子の手をひねる様なものだった。
あっという間に、ゼットは王の下へ辿り着いた。
「お前が王か」
王・バルドーは言った。
「貴様・・・ただで帰れると思うなよ」
ゼットはV斬りを放った。
構えるのを待つのも阿呆らしかった。
ゼットは思った。
こいつは負けても、強くならない。
「負けて強くなる」人間は、奴らだ。
ゼットはシオン・ガルドとの再会を楽しみにしていた。
奇妙な事だが、彼はシオンたちが生きていると確信していた。
こうして何と僅か一日で、世界最大の国・バトロイドは全滅する事になる。
ゼットはここを居城とし・・・世界の闇はもうかなり、大きくなりつつあった。
その頃、シオンは―――
ジョーと共に、かつてのドラナグ帝国に向かっていた。
そしてその道中、竜型の鎧を着た少年に出会う。
「もし旅の方。この先に行っても、無駄だと思うが?」
「!?」
いきなり話しかけられて、戸惑う二人。
「ドラナグに行くつもりだろう?あそこはもう潰れたのだ。おっと」
少年は植物モンスター「妖樹」を倒しつつ、話した。
「俺はあの国の生き残り、ドラン。情けない事に、俺が眠っている間に国は潰れたのだ」
「え!?」
「詳しく話してやってくんねーか」
こうしてシオンは、また運命の出会いを遂げた。
ドランは二人に全てを語った。
「・・・ジェノだ」
「話を聞いたところ、ゼットじゃあねえな」
「ジェノ?ゼット?」
混乱するドランに、シオンもまた全てを語った。
「・・・なるほど。ドラナグがやられていた頃に、シオン殿はそのゼット、という男に」
「ああ」
「・・・俺も、一緒に行きたい」
「もちろん、歓迎するよ。なっジョー」
「ああ、いいぜ」
「では、よろしくシオン殿、ジョー殿!」
「シオンでいいよ。あと、ジョーでいい」
「・・・何で俺の分までお前が言うんだ」
こうしてドランが、シオンの仲間となった。
ちなみにこの時、彼はまだ僅か15歳であった。
―――ガルドはしばらく、西を旅していた。
「(俺はやはり、剣で生きるしかない。俺の剣に足りないものは・・・)」
そして、悩んでいた。
「だれかたすけてー!」
少女の声がした。
ここは荒野だ。
何故?
とにかく、ガルドは走った。
「きゃー!」
7歳ほどの少女が、悪魔モンスター「アークデーモン」に襲われていた。
「・・・。」
ガルドは素早く飛び込み、「大斬り」を放った。
ダークの使う「キリングブレード」と同じ、一か八かの大振り技である。
アークデーモンは一撃で倒れた。
「(どうも最近、強いモンスターが多いな)」
「ありがとう!」
「お前は?」
「わたしはメイ!なんでここにいるのか、わからないの・・・」
記憶喪失?
ガルドは尋ねた。
「親は?」
「わからない・・・」
捨て子?
ガルドはあまり、子供は好きではない。
それでもやはり、人間の心はある。
「・・・ここは危ない、一緒に来い。近くの町までな」
「うん!」
こうしてピンクの服の少女が、ガルドの仲間(?)になった。
「やれやれ、また子守りか」
ガルドは呟き、歩き始めた。