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World Adventure  作者: oyj
1/19

Prologue

神は、全てを見てきた。


遥か昔・・・世界には多くの動物と、モンスター、人間、魔法使いたちがいた。

モンスターと人間たちは対立し、各地で争っていた。

また動物は時には人間と共存し、時にはモンスターと共に行動していた。

そして魔法使いたちは、全ての生物の中立の立場の存在として、各地に村を作り、単独で行動していた。


魔法使いたちの村の一つ、インディス村。

その村長・ゴーゲンのもとに、一人の男がやってきた。

男の名はバンといい、この村から遠く離れた人間たちの村の戦士だった。

「村長、どうかお力を貸していただきたい」

彼はゴーゲンに、魔法使いたちの協力を仰ぎに来たようだった。

「最近のモンスター共は知恵をつけています。中には人間語を話すものや、魔法を使うものまで・・・このままでは我々は、モンスターに皆殺しにされてしまいます!」

遥か昔から、人間とモンスターは争ってきた。

人間はモンスターを危険な敵と見なし、またモンスターも人間を賢い食糧と見なしていた。

「うむ・・・しかし、我々は中立の立場。人間かモンスター、どちらかに味方することはできんのじゃよ」

モンスターは、魔法使いを襲いはしなかった。

魔法使いたちには、神に授かった「魔法」があるからだ。

「・・・そうか」

バンは諦めたように、立ち上がった。

「遠くからわざわざ来てもらって、すまんのぅ」

「・・・あんたらの意思はわかったよ。邪魔したな」

バンは態度を変えて、そう言って去っていった。

「村長」

村長の側近・ダマラが言った。

「少しくらい人間に協力してやっても、良いではないですか」

「いや・・・我々は完全な中立の存在であるべきじゃ。神に授かった力を、むやみに振りかざしてはいかんのじゃ」

「・・・。」


その夜―――

ダマラは家に帰って、妻・デラと息子・ジェノに今日のことを話した。

「まったく村長は頭が堅い。これではせっかくの我々の力も、生かしきれん」

銀髪の青年・ジェノは言った。

「そんな事より。なぜ村長はそのバン、とかいう男を放っておいたんだ」

ダマラは言った。

「というと・・・?」

「そいつは魔法使いをなめている。村に戻って、他の人間共に何を言いふらすかわからない」

彼は天才だった。

幼い頃より高度な魔法を使いこなし、他の魔法使いや人間たち、全ての存在を完全に見下していた。

「まぁ何を言われようが中立を保つ、というのが村長の考えなんだよ・・・我々は、それに従うしかない」

「それだけじゃない。そいつの態度、この村に恨みをもって、いつ襲ってくるかもわからない」

「おいおいそれは考えすぎだ・・・お前の頭がいいのはわかるが、それはさすがにないだろう。思い通りにならなくて、腹が立っただけさ。それに襲われても、我々には魔法があるじゃないか」

「・・・。」


ジェノは外に出て、青い狼型のモンスター・グレイヴの下に歩み寄った。

このモンスターは数年前に、傷だらけでこの村に迷い込んだ。

魔法使いたちは村長の命により、モンスターと戦うこともモンスターを治療することもできず、ただただグレイヴを囲んで見ているだけだった。

そこに少年・ジェノが現れ、グレイヴに向けて火炎弾を放とうとした。

グレイヴは瀕死だったが、ひたすらジェノを睨んでいた。

一歩も退かないグレイヴの誇り高さが気に入って、ジェノは彼を始末するのをやめた。

そしてジェノは村長に許可をもらって、グレイヴと共に生活するようになった。

それ以来グレイヴはジェノの忠実な友として、一緒に生きてきた。

全てのものを見下すジェノにとって、彼はモンスターではあるが唯一尊敬できる仲間だった。


「グレイヴよ・・・この村は滅びるかもしれん」

グレイヴは言葉をもたないが、ジェノの眼をずっと見ていた。

「この村の連中は馬鹿ばかりだ。私以外の誰も、与えられた力を使おうとしない。父もそうだ、村長の言うことを聞くだけだ」

グレイヴはじっと、ジェノの方を向いている。

「今日の男が来るかどうかはわからんが、嫌な予感がする。今回の事で何も起こらないとしても、いつまでもこんな中立の立場でいては・・・いずれこの村には、災いがくるだろう」

「・・・。」


数日後―――

ジェノはあれからグレイヴと共に、より一層魔法の修行に励んでいた。

ジェノは全ての属性の魔法を使いこなし、グレイヴもまた風の魔法を使えるようになった。

能力の高いモンスターは、魔法使いほど強力ではないが、魔法を使える。

それだけに人間たちは、焦っているらしかった。

「フン、お前は賢いな」

グレイヴは、ジェノを見つめている。

「グレイヴよ・・・嫌な予感がする」

先日のジェノの嫌な予感は、どうやら今日が頂点に達しているようだった。

彼の嫌な予感は、よく当たる。

予知というのも、一種の魔法なのである。

彼にはそれだけ、魔法の才能があった。


その夜―――

全ての家が寝静まっているインディス村。

そこに、戦士の集団が足を踏み入れた。

「何か用か?」

だが一人、起きている者がいた。

もちろん、ジェノだった。

その隣には、グレイヴがいる。

「・・・おい、見ろ!こいつらやはり、モンスターと組んでいたんだ!」

戦士の集団のリーダーは、やはり先日のバンだった。

「本当だ!危ねぇ・・・同じ人間のくせに味方しないなんて、おかしいと思っていたんだ!」

「モンスターの味方だったんだな!」

戦士たちは次々と、インディス村を敵と見なしていった。

「・・・フン、それで満足か?バン」

「!」

「先日の腹癒せにしては、随分派手な事をやってくれるな」

「貴様・・・」

ジェノは「グレイヴを隠しておけば良かった」などとは思わなかった。

彼は自分の力には十分自信があったし、実戦で試したかった。

今回の事は、その絶好の機会であった。

「・・・殺せ!皆殺しにするのだ!」

バンがそう言うと、戦士たちは武器を構えた。

「おいおい、馬鹿か貴様ら。魔法使いの力が欲しいなら、少しは残しておいて、無理矢理協力させるべきだろう」

ジェノは魔力を少しずつ解放した。

彼の両目は赤く光り、その周囲の空気は震え始めた。

「だ、黙れ!この村を滅ぼせば、他の村の魔法使いたちは我々を恐れて従うだろう!なめるな、小僧!」

バンはジェノに斬りかかった。

ジェノは左手を前に出し、氷の魔法を使った。

バンの右手は凍りついてしまった。

そこでグレイヴが風の魔法を使うと、バンの右手は粉々になって吹き飛んでしまった・・・


「う、うわあああっ!悪魔だ、悪魔の力だ!」

「フン、言ってくれるな・・・悪魔か。だが悪くない」

ジェノは妖しく笑った。

「来い雑魚共!」

ジェノは両手を広げ、雷の魔法を使った。

青紫の雷が走り、戦士達の命を次々に奪っていく。

「ぐあああっ」

「ぎゃあああっ」

「フン、そんなものか?」

「死ね、小僧ー!」

後ろから、片手のバンが襲い掛かる。

ジェノは後ろを見向きもせずに、地の魔法を使った。

地震でバンはよろけて倒れ、グレイヴに噛み殺されてしまった。

戦士たちは、早くも全滅した。

しかしジェノは気付いた。

「(死骸が一つ足りない・・・一人、逃げたな)」


次の朝―――

「父よ、見ろ」

ジェノは昨日の事をダマラに話した。

「これは・・・」

ダマラは驚愕した。

我が息子の力が、これほどだったとは。

二人は村長の下へ向かった。

「村長、大変です!やはり先日の人間たちは、我々を恨んでいたのです!」

ゴーゲンは、静かに言った。

「グレイヴを見て、勘違いしたのじゃろう。無駄な争いはやめなさい」

「!?」

ジェノもダマラも、驚いた。

「村長!次はいつ、あの村の戦士が襲ってくるかわかりませんよ!」

「昨日この村で死んだ戦士は八人・・・どれも格は高そうじゃ。もうこれ以上、戦士はやっては来んじゃろう」

「・・・。」


「ジェノ、まだ嫌な予感はするのか?」

「・・・ああ」

その日からダマラとデラも共に、魔法の修行に励んだ。

ダマラは火の魔法、デラは氷の魔法を使う。

そしてジェノは左利きだったが、右手を使う練習もした。

いざという時、小さな事でも全てが役に立つ。

「(私は土壇場で、後悔したくはない・・・。)」

彼は天才だが、努力もする男だった。


数日後――

やはり、人間たちはやって来た。

前とは違う戦士たちだった。

しかも数十人もいる。

「この村の魔法使いどもは、モンスターの味方をしているらしいな!」

前の戦士よりも、随分強そうだ。

そのリーダー・ガインの傍らには、先日の村の戦士がいた。

「(やはりあいつ・・・逃げて他の人間に伝えていたか)」

ジェノは言った。

「おい貴様、そいつに何か吹き込まれたんだろう。勘違いの為に命を落とすとは、馬鹿らしい事になるぞ」

「ふん、この村にモンスターがいて、そいつが貴様らの味方をしているのは事実!皆殺しにしてくれるわ!」

「村長!」

「うむ・・・仕方あるまい」

ゴーゲンは遂に、人間と戦う許可を出した。


インディス村の魔法使いたち十数人は、長く戦っていなかった。

その為魔法という力を持っていても、戦闘に上手く使えはしなかった。

向こうはまさに戦闘のプロである。

魔法は無くともその力・武器で、次々と魔法使いを殺していった。

あっという間に、残りは四人と一匹だけになってしまった。

「こいつら・・・前の戦士とは格が違う」

ジェノは焦った。

今まで誰かに負けた事などない。

親にでさえもだ。

「はぁっ!」

ダマラは火炎壁を作ったが、戦士たちは上手く防具で防いだ。

向こうはまだ二十人はいる。

ジェノは左手で光球を放ち、爆発させた。

その瞬間一人の戦士に、左腕を捕まれた。

「見た所お前は左利きらしいな・・・へし折ってやろう!」

ジェノは素早く右手で重力波を撃ち出し、その戦士を防具ごと破壊した。

「あいにく私は両利きだ」


「ぬんっ」

ゴーゲンは雷の魔法を放った。

村長だけあってその力は強大だったが・・・

「村長!」

全ての魔力を使い果たし、ゴーゲンは倒れてしまった。

ガインは言った。

「『サンダーストーム』・・・それが最後の魔法か」

人間たちは、魔法使いやモンスターの使う魔法を研究していた。

「喰らえ!」

その時一人の戦士の刃が、デラを襲った。

「デラ!」

「母さん!」

「あなた・・・ジェノ・・・」

デラは最後の力を振り絞って、氷の魔法を使った。

「ダイヤモンドダスト」。

それは多くの戦士を倒したが、まだ十数人残っていた。

「人類の敵め、滅びよ!」

「・・・許さん」

ジェノは怒った。

彼は母の事も見下してはいたが、好きだった。

初めて家族を傷付けられ、彼は怒った。

「死ね!」

ジェノの闇と、グレイヴの風が混ざり合う。

「ぐはっ」

「ぎゃっ」

「ダークストリーム」は、戦士を半分にまで減らした。

「はっ!」

ダマラは火の魔法「エクスプロージョン」を放った。

大爆発が戦士たちを襲い、残る戦士はガインと他四名となった。


「決着をつけるぞ!」

ガインたちは一気に襲って来た。

戦士の鉄球により、ジェノは弾き飛ばされた。

「(しまった!)」

魔法では防げなかった。

魔法は発動に、多少時間がかかるからだ。

グレイヴは、ジェノを守る為走った。

グレイヴの起こした「ハリケーン」は、ジェノを狙う戦士の首を落とした。

しかしグレイヴが離れたその隙に、ダマラはやられてしまった。

「父さん!」

「ぐあっ・・・ジェノ、すまん・・・」

ダマラは倒れた。

残る戦士は、ガインと他三人。

ジェノは怒った。

全ての魔力を解放して、大地震を起こした。

「うおっ」

「何っ!?こいつ・・・まだこんな力を」

グレイヴも大風を起こし、戦士たちは全て刻まれた。

「ぎゃあああーっ!」

「おのれ、小僧ー!」

そして村には、多くの死骸とジェノ、グレイヴだけが残った。


「父さん、母さん、村長、みんな・・・」

見下してはいたし、そう親しくもしてはいなかった。

それでも、思う所はあった。

「・・・グレイヴ」

グレイヴは、じっとジェノを見ていた。

「私が武器を持っていれば、父は助かった」

「・・・。」

「私は己の魔力を過信していた」

「・・・。」

「グレイヴ、私と共に来てくれ。私はもっと強くなる」

グレイヴは頷いた。

「そして・・・人間共を皆殺しにしてやる!」

こうして彼の精神は、更に歪んでしまった。


遥か昔、ジェノはグレイヴと共に、世界へと旅立った。

それがこの先、この世界全体の運命を変える事になるのだった。


神は、全てを見ていた。

だが何も、できなかった。

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