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偽善悪  作者: 傘花
2.虚実
8/211

2(2)

2025/11/13 ▶全体の流れの調整、読みやすさ改善のため、一部改編を行なっております。

2024/2/9 ▶誤字脱字等を微修正しております。


_____


小説紹介PVをInstagramにて公開中!

Instagram:kasahana_tosho

 肩まで伸びた詩乃の茶色い髪が揺れる。おしとやかさの中に男らしさのような雰囲気を醸し出す彼女は、愛美の唯一の友人だ。


「詩乃も今日早くない?」

「そうかな。あんまり気にしてなかった」


 詩乃とは1年ほど前にこの図書館で出会った時からの友人だ。司書と親しげに話す詩乃に目が止まり、気付けば司書に声をかけていたことがきっかけだった。


 詩乃のことはあまり多くは知らないが、彼女も愛美と同じ不登校生だ。読書が好きで、大学生が読む難しい書籍を彼女はよく読んでいる。同じような年齢の子どもが学校に行かずに大学の図書館に通っていることで、2人は意気投合したのだ。


「愛美、また新聞記事書いてんの?」


 机に放置していた紙を詩乃が手に取る。


 学校では誰も読んでくれなくなった新聞。今の読者は詩乃くらいだ。


 詩乃の独特な感性が引き出す面白い感想が聞きたくて、愛美は読者が1人しかいない新聞を書き続けている。


「著名人、またも死す?益枝事件に引き続きってことか」

「うん。今度の被害者は矢野崇弁護士。この人もよくテレビに出てたから」

「この2つの事件、関係あるの?」


 勿論、2つの事件に関係性があるかどうかはわからない。だが、関係があると考えて記事を作る方が読者の興味を引く。


「警察は関係ないって見てるみたいだけど、どう考えてもこんな短い期間に有名人が2人も殺されるのはおかしいでしょ」

「まぁ、まだそんなことが言えるほど捜査が進んでないのかもね。死んだの今日なんでしょ?」


 当たり前のことのように、詩乃はそう言う。


「確かに。もうちょっと捜査が進んだら、宇月さんにカマ掛けてみるつもり」

「あぁ、あのチョロQ刑事」


 詩乃のあだ名の付け方に、愛美は思わずくすりと笑う。ミニカーで遊んでいた世代でもないだろうに、よくすんなりその言葉が出てくるものだ。


 勿論、宇月が愛美の言葉に簡単に騙されて捜査情報を漏洩してくれるおかげでついたあだ名だ。


「お二人さん。図書館では静かに」


 端の席で盛り上がっていると、どこからか声が聞こえてくる。2人で辺りを見回すと、本棚の陰に隠れていた女性が頬を膨らませてこちらを見ていた。


「小春さん」


 そう彼女を呼んだ詩乃の声も大きくて、佐藤小春さとうこはるは眉をひそめて人差し指を口の前で立てる。


 彼女はこの図書館の司書で、詩乃と仲良くなるきっかけになった人だ。そして、学校にも行かずにふらふらとこの図書館に通う愛美に勉強を教えてくれる人でもある。


「ごめんなさい。ちょっと盛り上がっちゃって」


 愛美が小声で言うと、小春はにっこり笑う。


 小春は笑顔がとても可愛い人だ。愛美たちより干支が一回り以上離れた大人なはずなのに、そうは見えない。ゆるく1つにまとめたおしゃれな三つ編みや、出るところは出て締まるべきところは締まったボディラインは、二十代のお姉さんという方がしっくりくる。


「積もる話があるなら食堂にしたら?まだ朝だから学生はあんまりいないけど、ここだと若い2人の声が響くわよ」


 そんな話を以前に彼女にしたら、「ありがとう。でも、実はおばさんなのよ」と小春が笑っていたことを思い出す。


 何にせよ、自分が大人になったらこうなりたいと思う部分を凝縮した女性のように、愛美には思えるのだ。

 

「じゃあ小春さんも一緒にどう?」


 詩乃が冗談めかして言う。


「私は仕事だもの」


 じゃあね、と小春は背を向ける。


 後ろ姿まで美しい。というかエロい。


 小春はまだ明らかに若い2人がこうして大学図書館に通っていることを言及したりはしない。それが愛美にはとても有り難く、嬉しく感じる。


 何か事情があるのだろうと勘付いてはいるのだろうが、見て見ぬふりをしていてくれる。


 彼女は出会った時からそうだった。だから余計、小春という人間に惹かれるのだろう。


「愛美、食堂行こう。実は朝ごはん食べてないからお腹ペコペコで」


 荷物をまとめて、詩乃と図書館の隣の食堂に向かう。この食堂はご飯物だけではなくてカフェの種類も豊富なのだ。


 食堂に入ると、目の前に大きなテレビモニターが現れる。


 今日の天気は晴れ。明日は曇のち雨で、今週は雨が続くと、スーツを着た男性が淡々と話している。


 矢野崇が殺害された事件は、まだ報道されていない。


 だが、それももう時間の問題だろう。現場にはあれだけの報道陣と野次馬が集まっていた。


 店頭で愛美はカフェオレを、詩乃はホットコーヒーとサンドイッチとサラダを注文する。そんな詩乃を見ていたら何だか自分もお腹が空いてきて、追加でホットドックを注文した。


 間もなく料理が出てきて、2人はトレーを持って近くの席に座る。


 味は可もなく不可もなく。不味くはないし学生食堂という名であるだけに安いから、結局いつもここでご飯を食べている気がする。

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