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偽善悪  作者: 傘花
2.虚実
7/211

2(1)

2025/11/14 ▶全体の流れの調整、読みやすさ改善のため、一部改編を行なっております。



  ※  ※  ※



 逃げるようにビルの中に入っていく酒井の後ろ姿を見ながら、城宮愛美は溜息をつく。


 どうせ彼から事件の情報が訊けるとは思っていない。ただ、忙しいと言いながらも何だかんだ自分の我儘に付き合ってくれる酒井に甘えてしまっているだけなのだ。


 携帯電話に目をやる。


 時刻は午前9時過ぎ。今から中学校に行ったところで、校門は閉まっているし、嫌な顔をされるのが目に見えている。


 踵を返す。学校なんてもうしばらく真面目に行っていない。あんな場所、行く価値もない。


 こうなった時、行く場所はいつも同じ。電車を乗り継いで30分。駅のトイレで制服を脱いで、鞄に入れていた私服に着替える。


 昼間に制服でうろうろするのは、夜中にうろうろするのと同じくらい面倒臭い。


 改札を出て少し歩く。辿り着いたのは、一般開放している大学図書館。


 大勢の学生が行き来するその場所は、自分のような人間がいてもあまり目立たない。すぐ隣にある学生食堂も一般開放されており、学校をサボるにはうってつけの場所なのだ。


 図書館の隅の席に座る。窓際の勉強机。愛美のいつもの定位置だ。鞄から小説を取り出して読む。この本も、ここで借りている物だ。


 《《生みの親》》のおかげか、どうやら自分は一度教科書に目を通せばおおよその内容は理解できるようだ。理解ができれば、覚えるのも早くなる。


 それに、自分には学校でなくても勉強を教えてくれる先生がいる。その人のおかげで、学校に行く意味などとうとう無くなってしまった。


 試験では学年トップ。それと親の権力もあって、自分は学校をサボり続けていることを大目に見てもらっている。それが余計に周囲の反感を買っていることは、勿論理解している。


 本から目を逸らし、窓から空を見上げる。


 集中できない。事件が気になる。


 学校に向かっていた時、何やら街中が騒がしいことに気付いた。いつもは散り散りな人混みがどこか1箇所に流れていて、皆、携帯電話を片手に少し興奮しているような様子だった。


 愛美も気になって人混みの流れに乗ってみると、どうやら矢野崇という有名弁護士が殺されたとの噂が耳に入ってきた。


 矢野崇と言えば、愛美もよくテレビで目にしていた。過激な発言が多いが、変革を求める若者には特に人気が高い。比較的容姿が整っていて、ダンディなおじ様雰囲気が女性人気を呼んでいた。


 有名人が殺害されたという点では、少し前に起きた益枝事件が引っ掛かった。


 益枝宗之。彼は確か、大学教授。益枝宗之もテレビ露出が多い有名人で、殺害されたというニュースは、先週からかなり話題になっていた。


 普通、こんな立て続けに有名人が殺されるだろうか。これには何か、陰謀のようなものが関わっているのではないだろうか。


 鞄の中から、ノートと新聞の原稿を取り出す。ノートに矢野崇の名前を付け加える。そして、もともと「益枝事件、闇の中か」と書いていた原稿のタイトルに、二重線を引く。


 新しいタイトルは「著名人、またも死す」だろうか。


 自然と顔に笑みが浮かぶ。こうして新聞記事を作り上げているこの瞬間が、愛美にとって何よりも楽しい時間なのだ。


 この新聞記事は、すべて愛美が作ったもの。今の中学校に入学した時に自分で新聞部を立ち上げ、それから定期的に新聞を学校に掲示している。


 手が止まる。シャーペンを投げ捨てて、溜息をつく。


 入学した時は、確かに皆興味をもって新聞を読んでくれた。反応が楽しくて、嬉しくて、だから沢山の記事を書いていた。


 でも、今は…。


「まーなーみっ」


 聞き馴染みのある声がして、顔を上げる。


 少女がこちらを見下ろしていた。満面の笑顔を浮かべて、彼女は愛美の隣の席に座る。「今日は来るの早いね」


詩乃しの

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