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2025/11/15 ▶現在一部内容改編中にて、本話と次話の話が繋がっておりません。この修正は本日中に完了する予定です。
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女性の声に気付いたのか、マスクの男は慌てて胸ポケットから取り出したサングラスをかける。しかし思い直したのか、すぐにサングラスを取り、彼女らに笑顔で手を降る。
さすが人気絶頂の俳優。ファンへの対応も抜かりない。そして、そんな彼の態度で確信する。彼は本当に相良田正臣なのだ。
店内が相良田正臣への熱い視線で溢れる。その視線に一人一人丁寧に笑顔を向けながら、相良田正臣は席を立ち、足早に喫茶店を後にする。そんな中で百瀬武志は顔を隠すように、ずっと窓の外を見つめていた。
相良田正臣がいなくなると、店内は一気に静かになる。共にコーヒーを飲んでいた百瀬武志を皆はちらりと見るが、ただの初老の親父であるとわかるとすぐに興味を無くす。
四方に視線を送り、酒井は席を立つ。相良田正臣の背中を密かに追いかける。
彼を追い掛けていたのは酒井だけではなかった。相良田正臣の熱狂的なファンなのか、彼の前に立ちはだかり、サインを求めている女性が数名。相良田正臣はそんな迷惑極まりない女性達に対しても、真摯に対応している。
サインと握手が終わると、相良田正臣はホテルのフロントに声を掛ける。そのまますぐにホテルを出ると、目の前に止まっていたタクシーに彼は乗り込もうとする。
このまま行かせてはいけない。
「すみません。相良田正臣さんですか」
タクシーの扉に手をかけた彼を酒井は呼び止める。
「すみません。これから撮影があるんで」
酒井をちらりと横目で見て、彼は応える。
「少しで構いませんので、お話聞かせてもらえますか」
「記者さんか何かですか?すみませんが、事務所を通してもらってもいいですか」
「いえ、私、こういう者でして」
警察手帳を取り出し、相良田正臣に見せる。
彼の瞳が動揺したように見えた。けれどそれも一瞬だ。仮面を被ったかのように、すぐに笑顔に戻る。
「警察が一体何の用ですか?まさか、薬でもやってるって疑われてる?」
「先程、百瀬武志さんとお会いになってましたよね。彼とはどのような関係で?」
さすがベテラン俳優だ。敢えて百瀬武志の名前を出しても、被った仮面は一切外れない。
「古い友人です」
「何のお話をされていたんですか?」
「今度またゆっくり呑みましょうとか、そんな話を」
「それにしては、随分と動揺されていたようですが」
「これ、何の取り調べですか?何にせよ、私からお話できることはありませんよ。私に何か用があるなら、まず事務所を通してください」
半ば強引に、相良田正臣はタクシーに乗り込む。
これ以上聞き込みをするのは難しいか。
どの道、相良田正臣は面が割れている。必要があれば、彼が所属している事務所に声を掛ければ良い。
踵を返す。百瀬武志はどうなっただろうか。
喫茶店に戻ろうとすると、四方から着信が入る。どうやら百瀬武志は駐車場に向かっているらしい。
酒井もすぐに駐車場に向かう。車の近くで待っていると、間もなく四方がやってくる。
「百瀬は車に乗り込みました」
駐車場を出て行こうとする百瀬武志の車を横目に見ながら、酒井達も車に乗り込む。
行き先は自分の病院だった。来た道を戻った百瀬武志は、病院に辿り着くやいなや逃げるように院長室の方に向かっていく。
その様子はどこかずっと何かに怯えているようで、秘書の怒鳴り声には目もくれていなかった。
そのまま四方と病院で少し張り込んでいたが、百瀬武志が病院から出てくる気配はなく、これ以上の追跡は厳しいだろうと判断する。
一度、捜査本部に戻ったほうが良いだろう。緊急招集の内容も気になる。それに、百瀬武志が相良田正臣と会っていたこと、彼らがおそらく矢野崇の話をしていたことは、大きな収穫だ。
四方を引き連れて捜査本部に戻ると、何やら慌ただしい雰囲気に覆われていた。管理官が頭を抱えていて、立っては座って、そしてまた立ってを繰り返している。
会議室の入り口で宇月と朝倉が話しているのを見つけて、酒井は声を掛ける。
「何だ、どうなってる」
「係長。マジでヤバいことになってます」
「やばいこと?」
「それが…」
「こういうことだ」
宇月の言葉を遮るようにして、背後から聞き覚えのある声が聞こえてくる。
酒井は後ろを振り返る。目に入ったのは、数年ぶりに見た先輩の姿だ。
「岡崎さん」
岡崎洋介警部。背が高く、反社会的勢力のような風貌の彼は、長野県警の刑事だ。
そんな彼がここにいるということは、つまり…。
「益枝事件と今回の事件は、本当に連続殺人なんですか」
次回投稿は7/30(日)を予定しております。




