孤独の悪魔
華やいだ都会の寂れたビルの屋上に、その男はいた。
フェンスごしに、白々と明け始めた仄暗く冷たい世界を見ながら、栄華を極めた過去振り返る。
なあに、自分で築き上げた栄華ではない。人、もの、金、権力、全て父親からの遺産だ。人を妬み、蔑み、蹴落とすことだけが男にとっての至福だった。
それでも人は男に群がった。媚びた。そして男を楽しませた。
毎日のように人を呼び、金を使い、女を侍らせ、そして男は孤独を消した。
やがて栄華をむさぼり尽くした時、人は離れ、金はなくなり、権力も失った。何も誰も残らなかった。ひとりもだ――。たったのひとりも――。
仄暗く冷たい世界を、恨みと共に見ていた男の耳に聞こえる。
“栄華を取り戻さんと欲するなら飛べ。さすれば栄華は永遠になろう。
人を取り戻さんと欲するなら――己が分かっておろう”
聞こえていた声が止んだとき、迷わず男は飛んだ――。
仄暗い世界に“ククッ”と微かに声がした。




