情報屋ラグム
フィナークは上の階に上がり、酒場まで来ると、カウンター席に座りクウド金貨十枚を差し出した。
「これからしばらく留守にするのでね。先に宿賃を払っておこう」
ゼジムは低い声で穏やかに言った。
「……気を遣わなくてもいいんですよ。帰る場所を失ったらまた来てください」
殺し屋は帽子を深く被った。
「たしかに渡したからな」
彼はそそくさと酒場を後にした。斧槍を肩に背負って歩く姿はまさに死神のようだった。ゼジムはしばらく魂を奪われたように動かなかった。呪縛が解けると、カウンターの上に置かれたクウド金貨に目を落とした。
あの人は友情や愛情を感じても、その感情を金で偽る。自分と相手は単なる契約相手だと、距離を置く。命を奪い続けてきた彼にとって、命は脆く崩れやすいものだった。
フィナークは闇夜を黒い馬を引いて歩いていた。彼の目的は、この闇の中に住む人間だった。
彼は路地裏を見つけると、ゼク銀貨一枚を放り込んだ。路地裏から両眼が煌き、その住人は姿を現した。蒼白い手で、月の光を受けて輝く銀貨を取り、溜め息をついた。
「何だ、ゼク銀貨一枚か。ケチったらまともな情報をやらないぞ?」
「お前にとっては大金だろ? 欲しくなければ返してもいいんだぞ?」
路地裏の情報屋ラグムはぶつぶつ言いながら自分の小袋の中にしまった。
「それで今度の仕事は誰を殺しに行くんだね?」
〈死神使い〉は周りを伺ってから、小声で話した。
「そんなに大きな声で訊かないでくれ。〈獅子王〉スレイヴンという〈魔術王〉だ」
ラグムは大して驚いていないようだった。
「ああ、奴は小物だっていう噂が流れているよ。血の精製にあんな大袈裟な塔を使うくらいだから、それほど優れた〈魔術師〉ではないってね」
「そんなことは知っている。銀貨を返してもらうぞ」
ラグムはせっかくの収入を奪われたくなくて、目を泳がせながら続けた。
「それに奴はヴァルティン王から成り上がった〈魔術王〉だ。国中でも問題視されて、暗殺の声が上がっているくらいだから治世も長くないって話だ」
「やはり」
ラグムはうろたえた。このままじゃ本当に収入を奪われる。だが、フィナークはさっき自分が言ったことを忘れたかのように質問した。
「それで、スレイヴンはこれまでに魔術戦争を行ったのだろうか?」
ラグムは必死に首を横に振った。
「ただでさえ〈魔術王〉として名乗りを上げて文句言われているくらいなのに、魔術戦争なんか起こしたら反乱が起こるよ」
「武力で黙らせるのが〈魔術王〉のやり方だろう」
「たしかにな。あんた〈魔術王〉を殺しすぎて、考えも似てきたんじゃないのか?」
〈死神使い〉はいつもだったらここで笑うはずだった。だが、今日の彼は切なげな顔になった。
「……今日は何て皮肉な日なんだろうな」
「え、何だって?」
「いや、何でもない」
彼は礼を言って、黒い馬に乗った。
「野垂れ死ぬなよ」
「あんたのような顧客がいる限り、おれは死なないよ」
〈死神使い〉は拍車をかけて夜の町を駆けた。その背後を白い外套を羽織った男が追いかけていた。




