戦神ドゥマリナス
「よくものこのこと姿を現せたな、ラウドゥーン」
「久し振りだな、あのサウハード帝国の城以来だったかな?」
フィナークは歯ぎしりをして、舌なめずりをした。
「あんたを倒したくて、多くの〈魔術王〉を道連れにしてやった。最後はあんただと思っていたが、ここで倒して、新しい獲物を見つけるのも悪くはない」
ラウドゥーンは溜め息をついた。
「きみは復讐しか考えられないのかね? 〈罪人の塔〉を止めた方がいいんじゃないのかね?」
「〈罪人の塔〉はもう終わりだ。ここの狂戦士からイオラスの魔力を抜き取れば片が――」
ラウドゥーンはうつむき、忍び笑いをこぼした。
「まさかこんな狂戦士を作るために塔を建てさせたと? 彼らでは力不足。〈魔術師〉に資源にされるのがオチだろう。てっぺんを見てみろ。よく目を凝らしてな」
フィナークは塔を見上げた。目を凝らしてもおぼろげだったが、天井に何か魔法陣が書かれていることに気づいた。彼は自分の顔から血の気が引くのを感じた。
「まさか……」
「そう、長期間大量の魔力をあの一点に集める必要があったのだ。より高濃度になるために狂戦士どもを争わせてな」
「何を召喚する気だ? まさか、魔王か?」
「魔王! きみを見て魔王と契約したがるほど愚かではない。きみの中の魔王に聞いてごらん。戦神のことを」
〝戦神だと!〟
「何なんだ、それは?」
〝闘争本能しかない巨人だ。奴らは常に好敵手を捜し、争い続ける。その傷口から溢れる血が魔界の魔力を保っているのだ〟
「つまり……」
〝戦神を召喚すれば、生命界は魔界と同じになるだろう。だが、魔導書にも載っていないはずだ。魔法陣も……〟
ラウドゥーンは魔導書を開いた。
「戦神ドゥマリナスよ! 今こそ赤き世界から現れよ! ドゥマリナス! ドゥマリナス……」
天井から赤い光が漏れた。フィナークは塔内にある魔力が吸い上げているのを感じていた。彼はとっさに魔王の手を壁につけ、外へ繋がる門を作り上げた。
「逃げろ!」
戦神に魔力を吸われ正気を取り戻した罪人たちは傷ついた身体を引きずりながら門を目指した。だが、生命を維持する魔力すら奪われ、倒れていく者がほとんどだった。
「フィナーク!」
殺し屋は自分を呼ぶ声に振り返った。
「貴様はわしを最後の獲物だと言ったな? だが、そなたは戦神の最初の獲物だ!」
ラウドゥーンは黒雲と化し、出口からいなくなった。フィナークも自分でこしらえた門から出て行った。
〈罪人の塔〉はひびが入り、ついには崩れだした。中にいたのは見上げるような巨人だった。柱くらいの太さがある髪は逆立ち、城門くらいに開いた口から夜の静けさを切り裂く雄叫びを上げた。その剣は細長い塔のように鋭く伸びていた。




