条件
フィナークは手の甲の赤い目で魔界を見透かした。いた。バードンの虫が大好きな愚鈍な蛙が。
彼が手を離すと、すでに空鬼は粘着力の高い舌でバードンの虫を絡め取っている所だった。狂戦士たちも空鬼に立ち向かうが、相手にされていなかった。
だが、しばらくすると突然空鬼の身体から血が溢れ出した。
「そこか!」
フィナークは剣で突いたが、手応えは空鬼に刺さったものだけだった。空鬼は攻撃してきたのがフィナークだと勘違いし、飛びかかってきた。エヴィレイの手が空鬼の膨らんだ身体に触れた。
〝戻れ!〟
空鬼の身体が空気に溶け、ほどけていった。蛙の魔物は姿を消した。
「仲間に敵と間違われるなど、きみは空鬼以上に間抜けだな!」
「黙っていた方が身のためだぞ。声で場所が分かるぞ」
「この塔は音が響く仕掛けになっているのだ。声の方角など分かるまい」
フィナークは狂戦士を見渡した。一人の狂戦士が立ち向かってくる。〈死神使い〉は右手をかまえ、相手に突きをいれた。相手は断末魔のような甲高い悲鳴を上げた。さらにみぞおちに突きを入れても倒れなかった。今度は狂戦士の顔に手を置き、そこから魔力を吸った。すると力が抜けたように倒れ込んだ。
「何をしている? 狂戦士の相手で精一杯なのか?」
フィナークはにっと笑ってスレイヴンに向き直った。
「ちょっとした奇術をお見せしようと思ってね」
フィナークは持っている剣を掲げ、魔王の白い爪を研いだ。火花が飛び散り、それは波紋のように周囲に広がった。
スレイヴンが悲鳴を上げて地面に転がった姿で現れた。
「やはり痛覚も常人以上になっていたか。しかも気絶しない。急所を攻撃しても気を失わなければ、死ぬこともない。だからここの狂戦士たちは永遠に戦い続けられるんだ。だが、それはいくら苦しめても気絶せずに苦しみ続けるということだ!」
〈死神使い〉は迫ってきた狂戦士の一人から魔力を吸い上げると、今度は火花の雨を〈獅子王〉に降り注いだ。スレイヴンは苦痛にあえぎ、その場にうずくまった。
「さて、と――」
フィナークは近づき、スレイヴンの背中から魔力を吸い上げた。彼は狂気はその赤い目から消え、そこには弱々しく震える王の姿があった。
「わたしは全ての〈魔術王〉を滅ぼすことを誓った身。だが、もしミレイシア王女の要求を飲めば、生かしてやる。その条件は――」




