対決
スレイヴンは罪人の塔の中の狂乱の中にいた。さまざまな罪人が立ち向かってくるが、今や彼の敵ではなかった。
準備は最後の段階に入った。ラウドゥーンのことなど知るか。もう、我の勝利は見えている。
彼は真夜中だというのに、眠気は感じなかった。我はもはや眠りを必要としない。
戦いに狂う戦士どもが発する興奮の入り交じった血の魔力はスレイヴンの身体に心地よく吸収された。ああ、永遠でもここにいたい。
「へえ、ここが罪人の塔か。みんな気が狂っているねえ」
スレイヴンは声に振り返った。そこには黒い死神がいた。やみくもに立ち向かう狂戦士を気絶させて剣をもぎ取ると、剣先をスレイヴンに向けた。
「だけど、一番狂っているのはあんただ」
「やはり、死神は容易に捕まえられないということか」
フィナークは復讐に喜ぶ者にしか浮かばない危険な笑みを浮かべた。
「あんたの魂を奪うまで、甦ってやる」
〝魔力だ。濃度が高いぞ。ついでに魔王に生まれ変わらないか〟
スレイヴンは静かに鼻で笑った。彼の手には獅子を象った仮面があった。
「この仮面を着けるのは、反乱軍と戦うときと思っていたが……まずは先にそなたを地獄界に送ってやろう」
スレイヴンは仮面を身につけた。そこにいたのはまさに〈獅子王〉だった。彼はかぎ爪を出し、フィナークに向かってきた。電光石火の動きにフィナークは避けるのがやっとだった。〈獅子王〉はすぐさま方向転換をし、跳び上がった。フィナークは籠手で防いだ。左手の剣を振るうが、かぎ爪で止められてしまった。膠着状態が続いた。
スレイヴンが敵を押し出した。筋力も上がっている。
「死神が死んだらどこに行くか試してやろう」
スレイヴンがふっと離れた。次の瞬間フィナークの視界から消えてしまった。〈死神使い〉は剣をかまえ、辺りを見渡した。彼は右の太腿に激痛を感じ、片膝をついた。見ると、獣に引っかかれたような傷があった。これは――。
〝魔人ゲゼクルの能力、擬態だ〟
魔人ゲゼクルの依代であるカラスの指輪はたしかに身につけていた。だが、複数の魔人との契約は相当身体を蝕むはずだ。
「あれが本物だとしたら――」
〝他の依代も本物とみて間違いないだろう〟
「やれやれ、骨が折れそうだな」
フィナークは籠手を外した。中から黄金色の魔王の手が露わになった。彼は〈罪人の塔〉から魔力を拝借し、傷口を塞いだ。
羽音が聞こえだした。それは獲物を小さな牙で蝕む魔物の声だった。
「バードンの虫……」
彼が気がついたときには遅かった。すでに視界は羽虫で埋まっていた。さらに狂戦士たちが隙を見て攻撃を仕掛けてくる。複数人の〈魔術王〉と戦っている気分だった。




