〈罪人の塔〉
ホーキンは〈罪人の塔〉の中まで目隠しをされて連れてこられた。彼は怒りと恐怖に震えていた。フィナークの裏切りによって、彼は〈罪人の塔〉へ運ばれた。〈罪人の塔〉の中で何がされているのか、宰相を務めていたときでさえ知りえなかった。未知に対する恐怖で彼は吐き気すら覚えた。
目隠しが外された。罪人は息を飲んだ。自分がいるのは塔の一階だった。一階は闘技場になっていた。そこで戦っているのは、血に狂った人間たちだった。彼らは獣のように争い、飽きることなく血を流していた。
宰相は背後に手を置かれたのを感じた。
「目覚めよ、眠りし力を」
彼は聞き覚えがあった。それはかつて仕えていたヴァルティン王スレイヴンだった。ホーキンは魔力を流され、力がみなぎってくるのを感じた。それは理性に抑えられるものではなかった。彼もまた闘技場の狂戦士の中に飛び込んだ。
「いつまでもこの塔の中に押さえ込めるものではないと思うがな」
スレイヴンは背後から姿を現した男に目を向けた。彼は薄黄色の外套を羽織り、白いひげをたくわえていた。老人ながらも彼の背はしっかりと伸びていて、壁に沿って作られた螺旋階段の先を見上げていた。
「あなたの望みが叶うまでには達していないのですよ」
「やれやれ、あと何人くらい必要なんだ?」
「反乱軍がいればって思っていたのですが……」
スレイヴンは老人に耳打ちした。老人は驚きに目を見開いた。
「何? フィナークが?」
「彼の中にある魔王エヴィレイの潜在能力を引き出せば、目的は達せられ――」
「いや、彼はだめだ」
「なぜ?」
老人は懐かしむようにまた見上げた。
「彼は死んではいけない」
〈獅子王〉には彼の言うことが理解できなかった。
「仲間だと言いたいのか?」
老人は〈獅子王〉に赤い目を向けた。
「いや、宿敵だよ」
スレイヴンは自分に向けられた言葉ではないと分かっていたが、それでも思わず震えた。〈死神使い〉は何者なんだ? 彼は敵にするにはあまりにも恐ろしい男を捕らえてしまったことを後悔した。
「となると、やはり反乱軍から……」
「反乱軍は集まっているというが、しばらくは手出ししないだろうな。彼らをいきり立てさせる必要がある……」
「まさか、またわたしに不祥事を起こせ、というのか?」
「最終的に勝利することは決まっているのだ。この覚醒した軍団に敵うはずがない。反乱軍が攻めさえすれば、究極の力を得られ、ヴァルティンはそなた一人のために動くことになるぞ! 無能だと言った奴を見返すのはその時でもよかろう?」
〈獅子王〉は何も言わなかった。屈辱だ。自分はこの男に勝てないのだ。この男が認める〈死神使い〉を捕らえたとしても、無能扱いされなければならぬのか? 彼は渦巻く指輪を見つめた。わたしに眠っている力はこれほどしかないのか?
「では、期待しているぞ」
老人は塔から姿を消した。〈獅子王〉は渦巻く指輪を額に押し付けた。
〝何の用だ?〟
〈獅子王〉の頭の中にイオラスの声が響いた。
「わたしの潜在能力を引き出してほしい」
〝十分な力だよ。これ以上引き出してみろ。能力だけの化物になるんだぞ? ちょうど〈罪人の塔〉の狂戦士のようにな〟
「わたしは誰にも負けたくないんだ! これ以上大帝国に尻尾を振るのはこりごりだ! 〈雷帝王〉ラウドゥーンを倒せるほどの力を!」
〝いいだろう。解き放つがよい〟
渦巻く指輪が毒々しい赤色に輝きだした。その光が消え去ったあとに現れた〈魔術王〉はイオラスの言った通り、能力だけの化物だった。




