囚われの身
「何のことだ?」
「その渦巻く指輪は、紛れもない魔人イオラスとの契約の証。あんたは罪人を捕らえ、イオラスの魔力でその潜在能力を発揮させた。彼らを今度の魔術戦争の兵士にするつもりではないのかね?」
「だがこの渦巻く指輪は偽物かもしれんぞ? それにわしの指輪は渦巻く指輪だけではない」
たしかに〈獅子王〉は依代に似ている指輪を嵌めていた。魔人バードンの依代である蛾の指輪、魔人ベレティの竜の指輪、魔人ゲゼクルのカラスの指輪……。
「その他の指輪は偽物を作るのは容易だ。実際に自らの依代を隠すために〈魔術王〉が偽物の依代を身に付けるのはよくある話だ。だが、その渦巻く指輪の宝石は再現出来るものではない」
「そこまで分かっているなら、隠す必要もないか……」
〈獅子王〉は腰を上げた。〈死神使い〉もまた立ち上がり、斧槍をかまえた。
「挑むつもりか? 我が契約している魔人のことを知っているのか?」
「ああ、知っているとも。滅んだ魔王エヴィレイであろう?」
〝我は滅んでいない! 今に我の新時代が訪れるのだ〟
フィナークはエヴィレイの声を無視し、スレイヴンに飛びかかった。〈獅子王〉は斧槍を片手で受け止めた。
「やはり、あんた自身も潜在能力を覚醒させていたのか……」
「次はこちらの番だ」
〈獅子王〉はもう片方の手をフィナークの額に押し付けた。魔力が流れ込み、フィナークは激痛を覚えた。眠っていた魔王の力が暴れだす。
「そなたは不安定な均衡状態にある。人間と魔人の狭間にいるそなたの潜在能力を解き放てば制御出来なくなる」
フィナークは倒れ込んだ。身体が引きちぎられるようだ。これが、フィナーク自身も知らなかった――知りたくなかった――魔王の力だというのか?
「地下牢に入れておけ。〈罪人の塔〉の秘密をあえて教える必要はない」
近衛兵に命ずる〈獅子王〉の声がやっと聞こえた。地下牢に入れられるときになってもなお、フィナークは抵抗しなかった。彼はそれどころではなかった。全身に走る激痛、制御出来ない思考、狂う感覚――生命界と魔界が入り混じって正確な認識が出来なかった。地下牢に押し込められるとき、魔界では血の流れる川だった。彼は石の痛みにうめきながら、鉄臭い水の中で溺れた。フィナークは自らの理解を超えた力に、狂気の叫びを上げた。




