潜入
フィナークは「竜の寝床」の前でおろおろするウラドの姿を見つけた。
「ウラド、イミリアはどこに行った?」
「それが……少し離れた隙にいなくなっちまったんだ」
「何だと?」
彼の頭に浮かんだのは、傭兵たちの言っていた懸賞金のことだった。
「どれくらいの間離れていた?」
「ほんの数分のことだった。何せごろつきが集まっているだろうから、姫さまに万一のことがあったらと思って、先に入ってようすを見たんだ。確認をとって、宿屋を出たら――」
まだそんなに遠くには行っていないということか。だが、どっちに行った?
「おそらく懸賞金目当てだろうな。今頃王城に向かっているところだろう」
「そんな……姫さまの身に何かあったら――」
「落ち着けウラド。むしろ好都合だ。このまま奴の城に乗り込むぞ」
ウラドは恐怖を忘れて殺し屋を罵った。
「あんた気が狂ったんじゃないのか? 〈魔術王〉から姫を救出するなんて無理だ!」
フィナークは籠手を嵌めて、ウラドに向き直った。
「誰が救出に行くと言った?」
「何だって?」
ウラドは今にもつかみかかりそうな剣幕でフィナークに歩み寄った。それでも〈死神使い〉は涼しい顔だった。
「わたしは金さえ積めば、どんな〈魔術王〉だって葬る。だが、その何倍の金を積まれようと、護衛と救出の仕事は請けない」
宰相はフィナークの胸ぐらをつかんだ。
「あんたは人殺ししかしないのか?」
「こんな手になったら、他に何が出来るというのだ?」
〈死神使い〉の声は静かなものだったが、その奥にある怒りも宰相は読み取った。彼は胸ぐらから手を離し、自分の怒りを振り払うかのように首を横に振った。
〝よくも我が気高い手を侮辱したな。そなたは何度この手に助けられた?〟
フィナークはエヴィレイの言葉を鼻で笑った。
「おそらく、わたしの苦悩の数だけ」
「すまなかった。つい熱くなってしまったのだ」
〈死神使い〉の顔は、ウラドが会ってから見た中で最も穏やかなものだった。
「この国の姫は家臣に慕われているのだな」
「スレイヴン陛下もかつてはそうだった――こうしてもいられない。それで、どうやって城に入るんだ?」
「そんなの簡単だ。あんたの協力さえあればな。姫のために命をかけるか?」




