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第十一話

例外を除いて親を殺した存在は憎いはずだ。であれば復讐の道に行く可能性は非常に高い。そして復讐であれば適任がいる。


「そうなると動くのは、あの復讐狂きょうじんか」


思わず口に出す。復讐狂。それは蔑称であり敬称でもある。多くの人間はその名を恐れと蔑みを持って呼び、一部の人間は敬意と憧れを持って呼ぶ。妖に対して攻撃的な人間が多い陰においてもっとも妖を憎み、もっとも多く滅した狂人。最狂の名を冠する者。西条も何度かあっただけだがあれはもはや正気じゃない。だが何よりも厄介なのは攻撃性でも狂っていることでも、強さでもない。


(あいつは復讐の道に誘う悪魔だ。高崎では決して抗えないだろう)


復讐狂にあこがれる人間のほとんどが復讐を望む奴等であり、復讐狂に誘われた者だ。そう、復讐狂は復讐を行う動機があるものを引きずり込む。そして高崎には復讐の動機があり、陽はそれを認めない。つまり……。


「陰は妖だけじゃなく陽にも使える駒が手に入るわけだ」


西条はそうつぶやいてキアラをあきらめた。おそらく彼女が陰に来れば待っているのは破滅だろう。しかし、と西条は考える。破滅と引き換えに復讐を遂げられるとしたらそれは本人にとっては幸福かもしれない。だったら俺が何かをする必要はないと。そうやってあきらめた。だって西条の目的にキアラは必要ないのだから。


「さて、じゃあ目下の問題からだな。一つ目、3日以内に中位以上の妖を封じる必要がある」


頭を切り替える意味も含めてやるべきことを声に出す。


「二つ目、孝をもっと鍛えなければいけない」


声に出してから西条は最もいい方法に気付く。両方を一度に済ませる方法。それはとても簡単であるがキアラが聞けば必ず反対する方法。


「孝を餌によってきた妖を封じればいいか。問題は中位が来てくれるかだが」


そう言いつつも西条はそこまで心配していなかった。昨日は新月。妖の多くは新月の日に獲物を定め、半月になる前に仕留める。そして昨日、あんなに弱い妖が孝を襲い、その妖が滅ぼされた。そこまでほかの妖も認識しているはずだ。であれば今後は大群で来るか、己の力に自信がある妖しか来ない。それくらい考える知能は下位の妖でも持っている。そう、今まで知覚できなかったごちそうがいきなりあらわれたのだ。すぐにでも貪りたいはずだ。だから妖が今夜以降、大量に来ることは分かっている。だから3日もあれば中位クラスはほぼ確実にやってくる。そして上位クラスはまだ来ないことも分かっている。


(とはいえ不安要素がないわけじゃないんだよな)


西条の不安は一つ。何故、あの行力で今まで妖に襲われなかったのかということだ。確かに行力を無意識に抑え込むというのは大抵の人間、特にまだ成熟していない子供がよく行うことだ。だから妖より先に陰や陽の人間が発見できる。行力の知覚という点では確実に人間のほうが優れているのだから。さらに言えば行力の大きい人間の血縁者も行力が大きくなる傾向が強い。そのためある程度の数は妖に食われる前に保護できるのだ。


(だがらこそおかしい。俺が最初に孝に会った時から行力は抑えられていなかった。それにあれだけの行力だというのに、あいつの近くに行くまで認識できなかった。あいつの実の両親はそのときすでにいなかったが……何かあるのか?陰もこれに関しては調査を行っているし)


西条はあり得る説を思い浮かべては否定する。それを何度か繰り返して、ふと我に返ると自分がすでに外を歩いていることに気付く。


(これ以上は考えても無駄か。まあ、妖が来ることに関しては心配はいらないはずだ)


考えを打ち切り携帯を取り出す。孝に連絡を入れて合流するためである。今夜から妖が現れるのは間違いない。だったら早めに合流する必要がある。数回のコール音の後孝の声が流れる。


「麒麟か?お前、俺に火鳥をまかせっきりにするんじゃねえよ。というかお前も手伝え」


「はははっ。まあいいじゃねえか。それで?少しは常識を覚えてくれたか?」


そう言いながらもないなとと頭を振る。その程度で覚えるような奴ではないことは西条が一番わかっている。


「おう、少なくともむやみにものを壊さないっていうのは約束してくれたぜ」


「なっ!……いや、それはよかった。この調子で頼むぜ?」


「いやいや、お前も手伝えって。なんか愛たちも不機嫌だしさぁ」


「それはお前が悪い」


「いやいや、なんもしてないけど?」


「そんなことより、どこにいる?合流したいんだが」


「そんなことって……。俺の家にいるよ。さっさと来てくれよ」


「了解。じゃあ少し待ってろよ」


電話を切ると同時に西条は驚愕をあらわにする。


(火鳥が、孝の言うことをきいた?なんでだ?あいつには任務を遂行する以外の思考がないはずなのに。それともまさか)


都合のいい願望が西条の脳裏に浮かぶ。仮に火鳥に少しでも感情が残っているとするならば。


「いや、あり得ないか。感情は必ず封じられる。仮に感情が現れるとすればその封が解けた証拠だ。だが、まだ封は解けていない。ただ単に任務遂行に必要だと判断しただけだろ」


そう呟いてから孝の家に向かう。自分に都合のいい妄想はしない。西条はそれだけは決して破らない。その妄想は現実には決してならないと知っているから。そうして孝の家に着くころには完全に自分の頭からその願望を追い出していた。


「さて」


チャイムを鳴らしドアを開けてもらう。


「入れ入れ。みんないるしあの公園がどうなるか知りたがっているからな」


「ああ、そういえばお前は気になってないのか?」


「ん?お前が何とかするって言ったんだ。大丈夫だろ」


さらりと西条に対して効果的な言葉を吐く孝。


(こいつはまた、心に来る言葉を。これを日頃から無自覚に女どもにやってるんだ。そのうち刺されるんじゃないか?)


「まあな。じゃあそれとこれからについて、両方説明するか」


全員がそろっているリビングに行き、西条も適当な椅子に腰かける。後に続く孝が愛の隣の空いているスペースに座ったのを見てから口を開く。


「さて、気になっているだろう公園だが、後始末専門の部隊が派遣されるそうだから数日で元通りになるだろ。原因も適当にでっち上げてくれるはずだ」


「よかったわ。正直どうしようかと思ってたから」


愛と泉希がほっとしている中、キアラはさらに目に見えて安心する。当然と言えば当然である。公園がああなった間接的な原因は彼女にあるのだから。では直接的な原因はというと。


「火鳥、ちゃんと麒麟に礼を言っとけよ?」


「わかった。ありがと」


無表情だが礼を述べていた。この時、西条が受けた衝撃はとても言い表せるようなものではない。火鳥が言われたからとはいえお礼を述べる。確かに西条と火鳥は出会ってまだ1日だ。だが、西条は妖を自身の体に封ずるとどうなるかは誰よりもよく知っている。だからこそこれがいわゆる奇跡と呼べることも分かるのだ。


(まさか、本当に?だとしたら何故だ?封印が解けているわけじゃない。何故だ?)


「な、麒麟。火鳥もちゃんと常識を覚えてくれてるぜ」


「ああ、そうだな」


西条は何とかそれだけ言う。それだけしか言えないほどの衝撃だったのだ。


「それで?今後の予定も今、教えてくるんだろ?」


孝の言葉で我に返る。


(そうだ、今はほかにやるべきことがあるんだ。いったんこの問題はおいておこう)


「ああ、それで今後の予定だがな。高崎、落ち着いて聞いてくれよ」


「それは私を怒らせるようなことを言うってことでいいのよね?」


「まあまあ、高崎さん落ち着いて。西条君、話を続けて」


キアラが西条に詰め寄ろうとするがその前に泉希が止めて西条に話を促す。


「ああ。と言ってもみんなもうすうす気づいていることだろうが今夜以降、妖が孝を襲いに来るのは確実だ。それをどうするかという話さ」


そういって西条は孝のほうを向く。いや、正確には孝と愛のほうを向く。


(予想通りか)


孝のほうは驚いた様子もない。しかし愛は孝の服の裾を不安そうにつかんでいた。西条はこれ以上愛を不安がらせたくはないと思いながらも続ける。


「さて、妖とっては非常に美味そうな孝だけどどうしようかね。孝自身が昨日言ってたけどこのままじゃ間違いなく周囲の人を巻き込んでしまう。というわけだから孝」


少しばかり疎開しようか。



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