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第九話

「火鳥、もう終わったからその術をさっさと止めろ」


西条の言葉で火鳥は素直に行使しようとしていた術を消す。だが、もう一方はと言うと……


「あの、キアラ、俺はもう平気だから落ち着いてくれないか?」


「孝は黙ってて」


「あ、はい」


孝の説得にも収まる気配を見せない。いや、それどころか今にも西条と火鳥に向けて彼女が持てる最大の術を放とうとしていた。


「おいおいおい。そんなものここでぶっ放すなよ」


(予想以上に切れてるな。孝の制止も聞かないとはどうするかね)


「西条、あなたは本当は孝を殺すつもりだったんじゃないの?あれを修行なんて言うつもりじゃないでしょうね」


キアラは非常に落ち着いた口調で話す。しかしこの場面ではその口調も恐ろしさを際立たせるのみでありとても安心できるものではない。現に孝は顔を真っ青にして震えており愛と泉希も体が震えている。


「いや、修行だけど?ああ、さすがに今後はもうちょっと安全にやるさ。さっきのは覚悟の確認って意味もあったからな」


「確認ですって?そう、じゃあ仮に覚悟が足りていなかったらどうしてたのかしら」


答えようと西条は口を開く。が、何を言っても彼女を怒らせるだけだろうと気づき何も言わずに口を閉じる。


(とくに、殺すつもりとか言ったら取り返しがつかなそうだ)


西条はそう考えているがおそらくそれは正しい。ただでさえ陰所属ということで警戒されてる上にそんな言葉を吐いたら完全に敵とみなされるだろう。まあ仕方ないことではある。実際西条もお世辞にも陰が信用できるとは思っていない。むしろ犯罪者集団だという自覚がある。法に触れるようなこともしている。というかこの状況がすでに器物損害罪あたりに引っかかっている。そこまで考えていやそんなこと考えてる場合じゃないと意識を戻す。


「答えられないってことはつまりそういうことよね?」


(高崎もそろそろ限界みたいだがどうする?一度逃げるか、ここで闘っておとなしくするか、それとも)


ちらりと火鳥のほうを見る。火鳥は一見静かに立っているだけ。しかし高崎が術を放とうとしたらすぐに対応できるように行力を集中させていた。それを理解して西条はため息をこぼしそうになる。このまま自分が何とかしなければ火鳥の術と高崎の術がぶつかるのだ。属性の相性では高崎のほうが上。しかし術の威力では間違いなく上位の妖の力を利用できる火鳥のほうが上。どっちの術が打ち勝つかはわからないが間違いなく被害は大きい。そんなものを起こされたら非常に面倒なことになる。つまり俺が火鳥より先に術を使用すべきか、そう考えて構えを取ろうとする。その瞬間、


「待って、高崎さん」


意外なところから制止の声があがる。


「泉希さん?」


その意外さに思わずキアラも西条もそちらの方を向く。今まで震えていた、こういうことに慣れていないだろう少女がはっきりと声を出したのだ。予想外にもほどがある。だが一方で西条はなんとなく納得もしていた。さすがにこの中で孝と一番古くから付き合いがあるだけあって如月もちょっと普通じゃないのか、と。


「うん、少し落ち着こう。孝が納得してるんだから大丈夫だよ。だからほら、その術だっけ、それを使うのはやめよう」


「あなた、それでいいの?孝がけがしてるのよ。しかも西条はこれからもきっと孝を危ない目に合わせるわ。陰っていうのはそういう人間の集まりなの。あなたは陰のことを知らないからそんなのんきなことを言えるんだろうけど本当に危険なのよ」


思わず正論だなと西条がつぶやきそうになるほど正しいことをキアラがいうのに対し、泉希は一度それを肯定する。


「そうだね。私は陰っていう組織についてほとんど知らない。」


しかしそれだけでは終わらない。だって自分が陰について知らないように高崎さんが知らないこともあるのだから、そう心の中で呟いて泉希は言葉を続ける。


「でもね、私は西条のことは結構知ってるよ。西条は孝と愛ちゃんには信じられないほど優しいんだよ。だから西条が孝をけがさせるならそれは孝自身を悲しませないためだよ」


そう、キアラよりも泉希のほうが西条との付き合いは長い。だから泉希にはわかる。西条が孝を最も信頼していることくらい。そして孝も西条を信頼していることも。だから大丈夫だとそう告げる。


「そうだよ、俺は納得して修行を麒麟に頼んだんだ。だから大丈夫だよ、キアラ」


「それは……」


キアラは反論しようとするが二の句が継げない。それも仕方ないことではある。泉希の言うとおりキアラは西条と知り合ってから大体4か月程度なのだ。それに孝は納得している。


「わかったわ。でもこれから修行するときは私も手が出せるようにしなさい。じゃなきゃ許さないわよ」


だからキアラも仕方なく納得することにした。しかし条件を付けるあたりさすがに陰をよく知っているだけあって完全には信用していないことがよくわかる。だが西条にはそんなことを気にする余裕はなかった。


(俺が優しい?この俺が?孝を願いのために利用しているこの俺が?俺にそういわれる資格はない)


西条は孝に非常に大きい負い目がある。そして愛にはそれ以上に……。だから泉希の言葉は西条の心を突き刺した。自分はあいつにも愛ちゃんにも優しいなんて言えない。そう自傷する。


「西条?まさかダメっていうつもりじゃないでしょうね?」


キアラの若干危ない響きが入った声で我に返る。


(そうだ、いまさらこんなことで傷んでどうする。俺にはやるべきことがあるはずだろう)


「いや、それぐらいならいいさ。それに孝は万能型だからね、高崎の力も必要になるだろうし」


「そう、ならいいわ」


「ああ、それと孝のけがの治療を頼む。骨折とか大きいけがはさせてないはずだし、陽の力で術で貫かれた部分もだいぶましになってるだろうけど一応頼むよ」


「そうって、え?大きいけがをさせてない?」


キアラが驚く。まあ思い切り吹き飛ばされていたし当然といえば当然である。最後のほうは血もはいていたし大けがしていると誰もが思うであろう。


「まあ、あの結界にけがを抑えるまじないもつけてあるし何より慣れだよ慣れ。致命的なけがを避けて痛めつける方法は陰にいる限りかなり有効だから」


「……少しだけあなたのこと誤解してたみたいね」


キアラが怒っていた理由の一つが孝に大きなけがをさせたことだ。それが誤解だったのでキアラも少しだけ態度が軟化した。とはいえそれでも危険なことをさせようとしている上に陰所属なのでだいぶ警戒しているが。それに、


「でもやっぱり陰って野蛮な集まりね」


致命的なけがを避けて痛めつけるのが有効な組織なんて正直誰も信用したくないだろう。実際西条も何も言い返せないどころかまあそうだなと納得してしまった。だが一方、冷静にキアラの評価も始めていた。


(しかし大けがはないとわかってたから孝を治療せずに術を使おうとしてたと思ったんだが違ったか。こいつ、もしかしてあんまり実戦経験がないのか?)


「まあ、とにかく治療頼んだ。俺はちょっと陰に連絡するから」


キアラが西条の言葉を聞き何か言おうとするがその前に言葉が続く。


「この惨状を何とかしてもらわないとまずいってのはわかるよな」


全員が改めて公園を見回す。遊具がいくつかあったはずだが燃えカスだけしか残っておらずまさに焼け野原というにふさわしい光景。このまま放っておいたら確実に警察の捜査が始まる、そんな状況。さすがのキアラも何も言えず、ほかの面々もやばさに愕然とする。ただし火鳥は全く動じず孝のそばに立っている。


「なあ、火鳥。この光景見てどう思う?」


「?特に何も」


「あ、いいわもう。というわけで俺は陰にこれの後始末頼むからお前らも誰か来る前にここから逃げとけ。あと、火鳥は孝についておけ」


「わかってる。護衛対象だから離れない」


「よし、孝。よろしく。またあとで連絡するからそれまでに火鳥を頼むな」


「あ、おい。何がよろしくだ。お前も火鳥に常識教えるの手伝えよ」


孝の言葉を無視して西条は公園を出る。そんな厄介ごとには関わりたくないのもあるがそれ以上に自分の持っているものの感触が変わってしまったから。自分の秘密が何かの拍子でばれないようにどこかで処分しなければいけない。


(やっぱりこれくらいの時間が限界か)


陰と連絡の取れる会社に向かいながらこっそり自分が回収した水晶の破片を見る。粉々に砕けていたはずの水晶は鎖でつながれており紫色の電気を帯びていた。そう、水晶は自分の属性と型を表すのだからふつうは変わらないはずなのに。そしてすでに水晶の反応は終わっているはずなのに。それでも水晶は西条の本当の型と属性を示していた。すなわち封印師であると。



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