きっかけ
この人は何を言っているのだろう?突然現れて、僕の入社試験を断っただって?
「信じられないって顔してるね。嘘だと思うなら聞いてみなよ。」
彼女は相変わらず笑顔で言った。冗談だろうか?嫌な予感しかしない。どちらにせよ、本部で確認するのが1番早そうだ。本部へ行き名前を言うと、
「152番だな?」
「はい」
なんだ、やっぱり冗談だったのか。なんて悪質な冗談だ。委員会に入れなかったら、と心配してしまった。安心して試験会場へ入ろうとする僕を受付の人が止めた。
「ちょっと待ってくれ。152番は病欠のためキャンセルしてあるぞ。」
「冗談でしょう?」
「間違いないな。キャンセルした以上試験は受けさせられない。悪いな。」
「受けられなかったでしょう?」
戻ってきた僕に彼女は言う。
何がしたいんだ彼女は。というか、何者なんだ?他人の試験の申し込みをキャンセルできるなんて。
そんなことを考えていると、彼女は僕の手を取って、
「じゃあ、行こうか」
なんて言い出すのだから。
「待ってください。何なんですかあなたは。何がしたいんですか?」
少し怒鳴ってしまった。女性相手に何をしているんだ僕は、反省しなければ。
しかし、彼女は笑顔を崩さず、
「私は2年4組珠川 美香です。情報部に所属しています。部長があなたを呼んでいるので部室まで来てください。これでいいかな?」
珠川先輩は他に質問は?と目で言っている。
僕は頭を掻きながら、
「なぜ僕が呼ばれているのですか?」
「知らない、部長に聞いてみなよ。」
質問したら、即答された。
「僕は教育委員会に入らなければ生活できなかったのですが。」
とても大事なことだ、僕は運動の才能も芸術の才能も無い、ここでは部活に入っても役に立たない部員は解雇される。すなわちそれは、ここで生活できなくなることだ。才能の要らない部活もあるが、それだけでは、とてもではないけれど生活できない。よって英語が少しだけできる僕が生活するためには、教育委員会に入るしかなかったのだが.....
「なら情報部に入りなよ。給料は教育委員会よりは高いよ。」
そんなバカな、部活の1年間の売り上げランキングでは情報部は最下位だったぞ。それを聞いてみると、
「部員が全部で2人だから、全員が生活できるだけの売り上げで良いんだよ。」
ということは、あの額を2人で分けるのか。
確かにとんでもない値段だ。売り上げランキング最下位といっても、一つの企業が出す売り上げに匹敵する。僕が生活するためには、情報部に入部するしかなさそうだ。
しかし、そんなところなら入部希望者が相当でてくるだろう。気になったので質問してみる。
「なぜ2人なんですか?入部希望者はたくさんいるでしょう?」
「部長が気に入らない人は入部できないからだよ。」
また、即答だった。
なんて気まぐれな部長と部活だ。でも、僕が生活するためには、この情報部に入るしかなさそうだ。仕方ない、ここにいても始まらない。とりあえず、話を聞きに行こう。
「わかりました。案内してください。」
そう言うと、彼女は今日見せた中で1番の笑顔で頷き、僕の手を引いて歩き出した。
.....見惚れてしまった。