第二章、プロローグ
第二章でございやす
第二章、プロローグ
目が覚めたら、白い部屋で寝ていた。
妙に痛む頭に手を当てて、身を起こす。
(あれ、私…どうしたんだろう…?)
思い出せない。
何も…。
自分の名前さえも。
灰色に染まった街で、金属同士が衝突する高い音が鳴り響く。
「ぇぇいッ!」
青年の目の前を、一筋の銀が風のように薙ぐ。
その手にあるのは、戦慄を醸し出す大鎌。
湾曲した刃はすんでのところで標的を逃す。
変わりに、灯りの灯っていない街灯が、切断された部分から滑るようにして倒れる。
青年は、自分身の丈より長い大鎌を軽々と振り回し、逃した標的を追うべく、その場を力強く踏み切った。
人間とは思えないような跳躍力で、青年はビルの間をじぐざぐに飛ぶ。
(くそッ!見失った!)
軽々とビルの屋上に到達すると、青年は給水タンクの裏手に身を隠す。
尋常ではない運動量だが、彼の呼吸は乱れていない。
精神を集中させ、゛それ″の感覚を探す。
(どこだ…どこに――)
その瞬間、彼の背を覆っている給水タンクが、轟音の後に破裂する。
咄嗟に前に飛び、その衝撃から身を庇う。
しかし、彼が移動したその場所に、更に上から銀の光が一つ落ちる。
その光は、青年の体を掠めると、コンクリートを弾き飛ばす。
「くッ!」
体制を崩した青年を目標に、銀の長髪を靡かせる少女が落ちてくる。
落下の速度を乗せ、銀の槍を青年に振り下ろす。
再び灰色に染まった街に、金属の衝突する音が鳴り響く。
「その程度か?」
覚めた金色の瞳で、自分の一撃を見事な反応速度で受け止めた青年を見やる。
たらりと青年の額から、汗が垂れ落ちる。
「…まだまだ!」
槍の切っ先を受け止めている大鎌の柄を、力強く振り抜く。
その力で、少女の体は、宙に舞う。しかし、その程度でどうにかできる相手では無い事は青年も理解していた。
(ここは、引くか…。いや、いける!!)
宙に浮いた少女は、その勢いを殺すように体を一回転させると、屋上の隅に着地する。
(――ッ!!)
着地したばかりの少女の目に映ったのは、目の前で大鎌を振りかぶる青年の姿。
青年は、渾身の力を込めて、大鎌を振る。
しかし、目標は銀髪の少女ではなく、少女が着地したその場所。
しゃんという、想像していたより軽い音と共に、刃が硬いコンクリートをすり抜ける。
少女を残したまま、崩れ落ちる屋上の一部。
ほどなくして、それはアスファルトに激突する。
鼓膜を破るような凄まじい音の後に、灰色の街に煙が立ち昇る。
視界を覆われた少女は危険を察知し、動き出そうとするが、自分の目の前で、死の旋律を奏でる銀に動きを止めた。
「寿矢、中々やるじゃないか…」
その幼い顔の横には、銀の刃が不気味に輝いている。
「今日は、引き分けってところだろ?」
少女の背後で、大鎌の刃を突きつけている寿矢と呼ばれた青年は、そう言った。
土煙が晴れる。
いつの間にか、逆手に持ち帰られた槍の先端が、青年の首の寸前で止められていた。
「そうだな」
少女の、戦闘終了を意味する言葉で、お互いに武器を引いた。