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第二話、リシア

寿矢の心は乱れていた。


四階建ての校舎の三階に位置する二年D組、寿矢のクラス。

その教室の窓際最後尾に位置する、自分の席についた時も、脳裏には昨日の出来事が何度も映し出されていた。

そして脳裏で繰り返される光景は、全て同じ場所で止まるのだった。


(良く覚えておけ…)


(我が名は…)


そこまでくると、何も思い出せなくなる。


(なんだろう…とても大事な事のような気がする)


寿矢は、腕組みをして考えながら、喉に魚の骨でも刺さったような、気持ち悪い感覚に苛まれ続けている。


そんな寿矢の様子を見ていた前の席に座っている小柄な青年は、ずっと渋い顔をしている友人を見兼ねて声をかける。


「おい、トシ」


「…」


彼の名前は、田口太一(たぐちたいち)

明るい性格で小柄な体付きの寿矢の中学からの友人である。

そんな彼の目から見ても、寿矢の状況が普通ではない事が一目で分かった。


「トシ!」


「え?あ、いや、何でもない」


急に名前を呼ばれて我に返る寿矢。


「まだ何も聞いてねぇよ。お前、今日変だぞ?」


「そう…かな?」


太一に心配させるのは悪いと思い、笑顔を取り繕う寿矢。

しかし、気の知れた友人の太一には、不器用に笑う寿矢の顔は何よりも不自然に見えた。

そして、何かが寿矢の身に起こった事を確信する。


「お前、何かあったろ?」


ビクッと体を強張らせる寿矢。

 

(やっぱりな…)


ついつい顔と行動に出てしまうのは、太一なりに研究した寿矢の癖である。


(昨日の夜は、特におかしい所は無かった…)


寿矢は昨日、学校の目の前にある田口家で、夜中まで遊んでから帰って行った。

その時には、寿矢はいつもの寿矢だった。


(朝の時間帯に、トシの身に何かが起こるとは考えにくい…)


寿矢は、寝起きが恐ろしい程悪かった。

、何度も田口家に泊まった事がある寿矢だが、その寝起きの悪さを、太一は身をもって知っていた。

更に、いつもは眠そうな顔で遅刻5分前に教室に入ってくる寿矢が、今日は20分以上の余裕をもって自分の席に座っている。

そこから導き出される答えは一つ。


「トシ、昨日の夜に何があった?」


「お前、何で知ってるんだよッ!?」


ガタン!と反射的に立上がる寿矢。


(ビンゴッ!)


自分の名推理に心の中でガッツポーズをする太一。


(しまった)


寿矢がそう思った頃には、もう手遅れだった。


「さぁ、詳しい話を聞かせてもらおうか」


にんまりと笑う太一を見て、観念したかのように、どさりと椅子に腰を落とす。


「実は―」


寿矢は昨日、自分の身に起こった事を話した。


「―って事があってさ、俺もう何がなんだか…」


正直に、自分に分かる事は全て話した。


「うそだろ」


半目になり疑いのまなざしを寿矢に向ける太一。 


「本当なんだって!」


太一なら…とも思ったがこうなる事は、寿矢にも容易に予想できた。だから話すのは嫌だった。


「まぁ、うその割に壮大なスケールだったよ」


まるで信じていない太一。

だが、それも当然の反応という事は理解していた。

でも寿矢は、こうも自分は信用されてないかと思うと、案外ショックだった。


その日、昨日の事で頭がいっぱいで、午前中の授業は少しも耳に入らなかった。 

そして4時限目の授業終了の鐘が鳴る。


「谷崎ー」


太一の横にいる、大柄な体格の青年が寿矢に声を掛ける。

しかし、待ち兼ねた昼休みだというのに、寿矢は教科書を開いたまま動かない。

勿論、友達の寺岡裕紀てらおかゆうきの声も寿矢の耳には届かない。


「谷崎ー?」


もう一度、先程よりも寿矢に近付いて声を掛ける。


「あ、はい!」


突然、教科書を持って立上がる寿矢。


「…どしたのこれ?」 


裕紀は、訳が分からず太一の方に向き直って問う。


「…さぁ?」


裕紀の問いに首を傾げる太一。裕紀の質問の答えは、太一自身も知りたかった。


「おい、トシ!昼飯!」


寿矢の肩を揺さぶる太一。


「あ、うん」


ふらふらと廊下に出て行く寿矢。


「…」


「…」


そんな寿矢の姿を見ると、二人は、心配を通り越して、なんとかしてやらねば、と思うのだった。 


(我が名は―)


その続きをずっと思い出そうとしていた。

何故かその続きを、思い出さなければいけない事だと寿矢は感じた。


「名前…」


「は?」


校舎の屋上で昼食をとっている三人。

屋上といっても、フェンスがあるくらいの殺風景な空間。

そこに寿矢達以外の生徒はいない。

それはというのも、雨ざらしで掃除もされず、床が驚く程汚れているからだ。

しかし、一年生の時から昼休みの度に掃除を続け、今は普通に使えるようになっている。

他の生徒は絶対に来ない三人の秘密の場所。


「あ、いや何でもない…」


先程から寿矢は、昼食のパンを手に持ってはいるものの、一口も食べていない。


「おい、谷崎」


裕紀と太一は、心配だった。


「何?」


食事もままならない程、寿矢を悩ませる物は何なのか。


「俺達にも、言えない事なのか?」


二人は、ただそれが知りたかった。

三人で一緒に解決すれば良いと思った。


寿矢自信、言いたくて仕方なかった。

誰か今の自分の状況を、理解してくれる人が欲しいと思った。

だが、寿矢が本当の事を言っても誰も信じない、友達も。


「本当なんだ…爆発に巻き込まれて―」


「…もういいよ」


そう言って裕紀は立上がり、持っていたパンを床に叩き付け、校舎へと続くドアに向かって歩き出す。


「トシ、お前いい加減にしとけよ」

 

太一も、裕紀の後に続く。


裕紀も太一も、心から寿矢の事を心配していた。だが、当の寿矢は嘘で誤魔化す、そんな水臭い寿矢の行為に、二人は頭にきたのである。


「あ〜あ、安っぽい友情ね」


突然、三人しかいないはずの屋上にそれ以外の声が響く。


どこからか飛んだのか、寿矢の前に人が着地する。


「なんだと?」


太一と裕紀は振り返って、突如現れた者を睨みつける。「何故、友達の言う事を信じてあげられないの?安っぽい証拠じゃない」


それは、この高校の制服を着た女子生徒。

セミロングの栗色の髪を揺らし、太一と裕紀に向き直る。


「…」


突然痛い所を突かれ、二人は言葉を失う。


「彼の名誉の為に言っておくけど、彼の話は真実よ」


謎の女子生徒は続ける。


「ま、あなた達は、こちら側の人間じゃないから仕方ないんだけどね」


いきなり現れた女子生徒は、理解できない事を喋りだす。


「とにかく、あなた達みたいな一般人が出る幕じゃないわ。さっさと失せて」


「いきなりなんなんだよ、お前ッ!」


太一は、女子生徒に掴みかかろうと手を伸ばす。


「―ッ!」


が、太一は宙に舞う。

女子生徒は、太一の手首を掴み、空中に放り投げたのである。

そしてふわりと舞い上がった太一は空中で弧を描き、鈍い音と共にコンクリートの床に落下する。


「ぐっ!」


「太一!?」


寿矢と裕紀は、痛みに悶絶する太一に駆け寄る。


「それくらいで騒いじゃって、情けない」


女子生徒は冷たく言い放つ。


「お前ッ!」


太一を傷付けた女子生徒に、怒りが込み上げる寿矢。


「昨日の事、知りたいんでしょ?」


しかし女子生徒の言葉で、寿矢の怒りは一瞬にして冷める。


「…ごめん寺岡、太一を保健室に…」


「…お前」

 

裕紀は信じられなかった。親友の太一よりも“昨日の事”を知る事を選んだ寿矢が。

同時に“それ”は、寿矢の中でそれほど重大な事だという事も、彼は悟った。


「ごめん」


俯いたまま、掠れた声で謝る寿矢を裕紀は責められなかった。


「…わかった」


裕紀は、太一に肩を貸し、ゆっくりと屋上を後にした。


屋上には、寿矢と女子生徒の二人だけ。


「それで…君は昨日の事を知ってるの?」女子生徒は頷く。


「でもまず、私にも二つ聞きたい事があるんだけど?」


「僕にわかる事なら…」


寿矢は、これ以上自分の理解できない事が増えるのは避けたかった。


「あなたは、ブローターなの?レイサイドなの?答えて」


「知らない、分からない」


(ブローター…昨日も聞いた…)


銀色の生物が、褐色の男を指して使った言葉。


「そ、本当に何も知らないのね」


「ごめん」


寿矢のその態度に女子生徒は、呆れる。


(情けない男)


「ま、いいわ。昨日あなたが出会ったのは、心食獣しんしょくじゅうって呼ばれてる存在」


「心食獣…」


必死で言われる言葉を頭の中で整理する。


「その心食獣を殺しに来たのが、ブローターっていう奴等」


それが褐色の肌の男。


「それで私が、その悪のブローターと敵対してる正義のレイサイドって訳、わかった?」


「な、なんとなく…」

 

(この人は、良い奴なのか…)


「それでもう一つ質問、昨日あなたが出会った心食獣のことなんだけど―」


(―ッ!)


寿矢は急に、女子生徒に違和感を感じた。


「“それ”…どこにいるか知らない?」


褐色の男が現れた時のような、全身に冷水をかけられたような感覚。


「…」


「そっか…知らないんだぁ」


寒気が全身を駆け巡る。


「じゃあ、死んで良いよ」


にんまりと不気味に笑う、女子生徒。寿矢は寒気の正体に気付いた。それは、自分に向けられた殺意。


(嫌だ)


女子生徒は、左腕に付けていた青いブレスレットを引き千切る。


(怖い)


突如、そのブレスレットは光を帯びて形を変える。


「…助けて」


現れたのは、尖端が尖った刺突に優れた細身の剣。


「本当に情けないわねぇ」


そう言うと、腕を引き、寿矢に剣を突き出す。


「…あ」


寿矢は、信じられなかった。肩に女子生徒の突き出した剣が刺さっていた。

じわじわと痛みが体に走りだし、ゆっくりと制服に血が滲んでいく。


「うあああああああッ!」


初めて本当の恐怖を感じた。昨日とは違い、今確実に自分の命が危険をさらされている。

その恐怖と痛みからの絶叫。


「一々うっさいわね!!」


女子生徒は、指をぱちんと鳴らす。

その瞬間、辺りは青色に染まる。


「なっ、何を!?」

 

空も、木々も、学校の校舎も全てが青。


「ふふっ、実像と虚像を入れ替えて空間を作ったの。」


そう言って、寿矢の肩に刺さった剣を勢い良く引き抜く。それと同時に、寿矢の肩から勢い良く血しぶきが舞う。


「がぁッ!」


激痛で、声もまともに出ない。


(嫌だ…)


「誰も入って来れないし、誰も助けてくれない」


女子生徒は再び、床に倒れている寿矢に剣を突き刺す。


「う…」

 

剣は寿矢の横腹を貫通する。


(死にたくない…)


恐怖で痛みを感じる余裕が無いのか、それとも痛みが強過ぎて痛覚が麻痺したのか、寿矢は、腹を貫かれてもさほど痛みを感じなかった。


「あら、もう死んじゃうの?」


反応が無いのがつまらなさそうに、寿矢の横腹に刺さっている剣を上下に動かす女子生徒。


「ぐ、がああああッ!」


横腹の傷は広がり、血が勢い良く流れ出る。


「ふふっ」

 

寿矢の悲鳴を聞き、うっとりと不気味な微笑む女子生徒。


(死にたくない)


(我が名を呼べ…)


突然、どこからか声が聞こえる。


「…名前?」


「かわいそうねぇ、恐怖で幻聴でも聞こえた?」


(そう、名前だ…妾の名を呼ぶのだ)


「俺、知らない…そんなの」


「そうよねぇ、何も知らなかったら死ぬ必要も無かったのよねぇ…」


女子生徒は、ゆっくり寿矢の横腹から剣を引き抜く。そして、痛みと恐怖で歪んでいる寿矢の顔に手を当て妖艶に喋りだす。


(思い出せ)


「ま、説明したの私だけど」


女子生徒は、剣の尖端を寿矢の左胸に当てる。


(寿矢!)


その声で、寿矢の中で何かが急速に繋がる。


(思いだした…)


暗闇で聞いた声の続き。


「最後に言う事ある?」


ゆっくりと、寿矢の心臓に向かって刺さっていく剣。


「名は…」


寿矢の周りに風が巻き起こる。


「ベルデリシア」


瞬間、寿矢の体が銀色の閃光に包まれる。


「くっ、何よこれ!?」


女子生徒は、視界が強烈な閃光に包まれ、よろめきながら後退る。


弾かれたように、空中に飛ぶ寿矢。


更に強い銀色の光が寿矢から溢れ、青色の空間を銀で埋め尽くす。


(あれ、体が動く)


「寿矢…」


光の中で寿矢の目の前に現れた銀の長髪を靡かせる、金色の瞳の少女。

寿矢は、彼女が誰か知っていた。


「お前…生きてたんだな」


「そなたのおかげだ」


寿矢の手を取り、優しく微笑む少女。


「良かった…」


銀色の閃光の中で寿矢は気を失う。

ふわりと屋上へ落ちて行く寿矢を銀髪の少女が優しく抱き留める。


「貴様か、我が主を傷付つけたのは…」


銀髪の少女は、尖った剣を持つ女子生徒に問いながら、ゆっくりと屋上に降りる。


「なんなのよッ!あんた達はぁ!」


女子生徒は、訳が分からず激昂する。先程とは逆の立場。


「随分と痛め付けてくれたようだな…」


銀髪の少女は、悲痛の面持で寿矢の傷を見る。


「いいわッ!あんたも殺しちゃえば良いのよッ!」


女子生徒は、剣を腰に深く構え、銀髪の少女の心臓を貫かんと走り出す。


「哀れな、心を失ったか…」


少女が突き出した剣を、姿勢を低くしてかわし、寿矢をそっと床へ寝かせ、空いた女子生徒のふところに拳を叩き込む。この間、数秒も掛かっていない、流れるような洗練された動き。


「が…はッ」


体の外から中へ響き渡るような衝撃に、女子生徒は意識を失いそうになる。


銀髪の少女は、その隙を見抜ぬき、即座に体の捻りを加えた高速の回し蹴りを放つ。

その蹴りは、女子生徒の側頭部に炸裂し、女子生徒を勢い良く吹き飛ばす。

その速度は衰えぬままフェンスに激突、崩れ落ちるようにその場にへたりこむ女子生徒。 

同時にカランと乾いた金属音と共に、女子生徒の手から剣が滑り落ちた。


「武器など持つから、隙が生まれるのだ」


銀の髪を靡かせながら颯爽と女子生徒に近付く、そして女子生徒持っていた剣を拾う。


「そなたも哀れだな、その様な姿になって」


剣に向かって喋る銀髪の少女。


「わ…私の…玩具…」


女子生徒は、痛みが走る腹部を押さえながら、震える手を伸ばす。


「玩具…か…酷い言われようだな」 

剣を軽く振り、その手応えを確かめる。


「少し使い辛いな…妾の力を与えてやるから、その形状なんとかできぬか?」


再び剣に話し掛ける。


「おお、承知してくれるか!そなた、なかなか話の分かる奴だな」


「私の玩具に触るなッ!」


女子生徒が銀髪の少女に殴りかかる、が一歩身をずらし、その拳を避ける。


「ふむ、それが条件か…良いだろう」


猛スピードで乱雑に繰り出される手足の猛攻を、銀髪の少女は剣と会話しながら、まるでダンスでもしているかのように余裕でかわしていく。

女子生徒の攻撃は、銀髪の少女に当たらず、全て空を切る


「ちょこまかとッ!」


女子生徒が放った頭部狙いの上段蹴りが、銀髪の少女の手前で止まる。


「なかなか筋は良いが、その程度では、妾は倒せんな」


上段蹴りを左手で受け止め、地についている方の女子生徒の足を踏み、体の自由を奪う。


「ナメてんじゃないわよッ!」


そして、至近距離から突き出される左の拳を必要最低限の動きでかわし、女子生徒の後頭部を剣の柄で軽く叩く。


脳を揺さぶる衝撃で気を失い、どさりと倒れる女子生徒。

決着がついた最後の一撃だった。


女子生徒が気を失うと、青色に染まっていた世界が竜巻に巻き込まれたように、ぐちゃぐちゃに掻き回され、元いた学校の屋上に戻る。


「これで交渉成立だな」


再び剣に話し掛ける銀髪の少女。


「うっ…」 

「寿矢!大丈夫か?」


少女は、寿矢が目覚めた事に気付き、銀の髪を揺らしながら駆け寄る。


「え?」


そして寿矢は、有り得ない物を見た、見てしまった。

細身の割に女性らしい体の曲線、銀髪の少女は裸だった。

呆然と銀髪の少女に見とれる寿矢。

そして寿矢は、今自分の目の前にある物がなんなのか理解する。

みるみる赤面していく寿矢。銀髪の少女は、寿矢が自分の姿を見て顔が赤くなったので、何かおかしな所があったのかと自分の姿を確認する。


「あ」


こういう場合、女性は2パターンに分けられるだろう、たまらず悲鳴をあげるタイプと、見てしまった者に問答無用の裁きを下すタイプ。

銀髪の少女は後者のタイプだった。


瞬間、鈍い音と共に寿矢は気を失った。


太陽が沈みかけ全てを橙色に染める頃、寿矢は激しい後頭部の痛みで目を覚ます。


「つっ…」


「む、目を覚ましたか?」

 

声のする方を見ると、黒いワンピースを着た銀髪の少女が立っていた。


「あ…れ、俺生きてる?」


(確か、剣で何度も刺されたような…)


自分の体を見るが、制服には穴があいているものの、体には傷が無かった。


「傷ならだいぶ前に塞がったぞ?」


風に煽られる銀の髪を押さえながら少女は言う。


「塞がった?」


どう考えても一日やそこらで治る傷ではなかった。


「そう、自己治癒能力というやつだ」

 

「そんなんで治る訳ないだろ!」


どんな生き物だってあの傷で放置されれば数時間で死に至るだろう。

自己治癒程度でなんとかなる傷ではなかったはずなのだ。


「何を怒っておるのだ?契約したのだから、身体能力が普通の人間より格段に増しておるに決まっているだろう」


一体何が当然なのか全く理解できない寿矢。


「は?ケーヤク?」


「け・い・や・く・だ、そなたと妾は、契約したのだ」

 

と、まるで当たり前の事のように喋る銀髪の少女。


「え、いつ、どこで?そもそも契約って?」


寿矢は、今生まれた自分では理解不能の事態の答えを、当事者である銀髪の少女に求める。

無論、寿矢は契約などという行為をした覚えは無い。


「そなたが妾の名を呼んだ時、この場所で」


至って真面目に答える銀髪の少女。


「そして契約とは、妾がそなたに力を与える。その代償としてそなたは妾に心を提供する。という関係になる事だ」


「心を提供…」


(全然理解できない…)


そんな会話をしている間に、日は沈み、段々夜になっていく。


「そんな事は明日にでも説明してやるから、早く家に帰ろう、寿矢」



ここで寿矢は思い出す。

迫りくる狂気の刃から、この銀髪の少女が助けてくれた事を。


「あ、そうだ!」


助けてもらったのだから、礼を言わなければならない。

それは常日頃、姉に言われてきた言葉。


「どうかしたのか?」


突然立上がり、自分の方に寄って来る寿矢を見て、彼の身に何かあったのかと不安になる。

何故なら原因は彼女にあるかもしれないからだ。


(まさか…あれを思い出したのか?)


裸を見られて頭に血が登っていたとはいえ、寿矢の頭を思いっきり殴ってしまった事である。


「今日は、助けてくれてありがとう…えっと…」


しかし寿矢は、銀髪の少女に礼を言った。

心の中でホッと胸を撫で下ろし、自分の名前が思い出せずに困っている寿矢に助け船を出す。


「ベルデリシアだ、リシアで良いぞ?」


「ありがとうリシア」


さわやかな感謝を述べられ、リシアはなんだか恥ずかしくなる。


「まぁ、その…何だ…気にするな、主を守るのは当然の事だし…」


凄く照れくさいリシア


「そうなの?」


「そうなの!」


なんだか良く分からない会話がおかしくなり、二人は顔を見合わせて笑い合う。


「でも俺、本当に嬉しかったんだ、あの時リシアが生きてたってわかった時…」


寿矢は、あの銀色の生物が死んでしまったのではないかとずっと不安だった。


「…」


突然の寿矢の言葉に驚くリシア。


「その後、命を助けてくれた事も、今また会えた事も…」


寿矢は、命掛けでリシアを守ろうとしたが、そのせいで逆に寿矢が守られて、リシアは死んでしまったのではないかと思っていた。

でも、リシアは生きていた。それが堪らなく嬉しかったのだ。


「だから、本当にありがとう」


それは、心からの感謝の言葉。


「そなた…妾を口説いておるのか?」


赤面しながらリシアは寿矢に言った。

それは、心からの言葉を誤解した言葉。


「え?」


寿矢は、今自分が言った言葉を頭の中で繰り返す。その結果、自分はとても恥ずかしい事を言っていた事に気付く。


「え!わ!違う!そうじゃなくって!」


そんな寿矢の反応を見て、リシアはくすりと笑う


「ふふっ冗談だ、そなたに出会って妾も命を救われたのだ」


「え?そうなの?」


胸に手を当てて深く頷くリシア。


「だから、ありがとう」


そして二人は、お互いを見てにっこり微笑むのだった。

はい、という訳で第二話でしたがいかがでしたでしょうか?

読んで頂いた方ありがとうございます。

「なんだこれ?意味わかんねぇし」的な部分も多々あると思いますが、その辺は、追々考えるので勘弁して下さい。

もしこの小説を読んで頂いた方で「まぁまぁ面白いかな」なんて方がいましたら評価や感想を頂けると嬉しいです。


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