表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

第一話、突き付けられた非現実

マジメな話は初めて書きます。

読んで頂けると光栄です。

プロローグ



とっぷりと日の暮れた坂道を歩く青年。

緑豊かな木々が並ぶその坂道を、谷崎寿矢(たにざき としや)は歩いていた。


ごく普通の青年、寿矢は今年で高校2年生。

これまた普通の高校の普通科に通い、人気も普通、ルックスも普通、彼女もいない。

だが、これだけ普通の条件が揃っていながら彼の成績は学年で5本の指に入る程優秀だった。


その要因は寿矢の家庭にあった。

寿矢は年の離れた姉、里美(さとみ)と二人暮らしをしている。

寿矢が生まれてすぐに両親は他界、幼い寿矢を育てる為に姉は親戚の援助を受けて獣医師になり、一戸建ての谷崎家を改装し町獣医を営んでいる。


寿矢は、こんなヘヴィー級の家庭に生まれながらも、自分を育てた姉に恥を掻かせない為に、グレる事も無く、勉学に励みながら人生もそれなりに楽しむという結構タフな性格だった。

姉の里美は、寿矢を親のような溺愛っぷりで育てたが、過保護ではなく、愛のある放任主義だったので、谷崎家には門限などの堅苦しい決まり事は無い家庭だった。


そんな理由で、この日のように部活もしていない寿矢が夜に家路につく事は珍しくはなかった。


普通の高校の、普通の高校二年生。


彼の普通の人生はこの日、終わりを告げた。



第一話



等間隔に並ぶ街灯に照らされる歩道を歩いて行く、静かな夜の通学路。

時間が時間なので、歩いている人影は寿矢くらいしかいない。

真っ直ぐ自宅に向かって歩いて行く寿矢。


突如、轟音が鳴り響く。


「え」


寿矢は突然の出来事に言葉を失う。


轟音の後に視界が巻き上がる土埃に覆われる。


(な、なんだ!?)


視界が閉ざされ、パニックに陥る寿矢。


(何が起こったんだ?)


姿勢を低くし目を閉じ、手で口を覆う。


昔、避難訓練の時に教わった、非常時の最善策をとる。


そして、風が吹き、土埃が晴れる。


無惨にもヒビ割れたアスファルトの中心に、この事態の原因を見つける。


クレーターのように抉れた地面に、巨大な銀色の犬のらしき生き物が横たわっていた。


「なんだ…この犬…」


その瞬間、銀色の生物はよろよろと身を起こす。


「…良い香りだ…」


ゆっくりと開いた金色の瞳で、寿矢を見据える銀色の生物。


「…巨大な隙間を感じる」


「は?」


どう考えても普通の状況ではなかった、突然落下してきた謎の生物が喋り出したのだから。


「力が…欲しいか?」


銀色の生物は口を開く、体は傷付き、見るからに虫の息だった。


「力?」


突然投げ付けられた質問に意味が分からず聞き返す。


「そう…力だ」


突然の事態に乱れきっていた寿矢の心は、何故か銀色の生物を見た時から平静を取り戻しつつあった。


「腕力とか筋肉とかの力?」



寿矢の問いに銀色の生物は首を横に振る。


「そうではない…力とは―」


そう口を開きかけると、銀色の生物と寿矢の間に緑色の炎が燃え上がる。


「!」


突如、爆発が巻き起こる。

寿矢は、その衝撃で吹き飛ばされ、地面に体を打ち付けられる。

が、不思議と熱くはなかった。


「がはッ!」


打ち付けられた衝で肺の中の空気が抜け、体に激痛が走る。


「がはッ、ごほッごほッ!」


急速に空気を吸い込んだ為、むせる。


「人間、無事か?」


目を開くと、寿矢の体を銀色の生物が庇うようにして覆っていた。


「あ、ありがとう」


「気にするな…巻き込んだのは(わらわ)の方だ」


寿矢の顔に何が落ちる。


(…水?)


手で拭い、確認する。


(血だ!)


顔を拭った寿矢の手の平には、真紅の液体が付着していた、自分の体をあちこち触ってみるが、それはどうやら自分の血ではないようだった。



咄嗟に立ち上がり、自分を庇った銀色の生物を見ると、体が所々裂け、アスファルトの破片が突き刺さり、銀色の毛皮が朱に染まっていた。


「お前、体が!!」


「…だ…大丈夫だ」


おびただしい量の出血。


「大丈夫な訳ないだろッ!!」


素人が見ても危険な状態だと分かる。


(なんとかっ、なんとかしなきゃ!!)


辺りを見渡す寿矢。


「来たか…」


銀色の生物がそう言うと、前方で再び緑色の炎が燃え上がる。


「ついに…ついに追い詰めましたよ」


緑色に燃え上がる炎から、辺りに低い声が響く。


「な、なんだこの声!?」


「ブローター…だ」


全身の毛を逆立て、前方の怪奇現象に敵意をむき出しにする銀色の生物。


「ぶろうたあ?」


緑色の炎が消え、炎が燃えていた場所に人が現れる。


「やっと捕まえましたよ、心食獣さん」


 

褐色の肌、ウェーブのかかった黒髪、そして手には大きな斧を携えた、スーツを着込んだ長身の男。


「グウウゥッ!!」


喉を鳴らして威嚇する、銀色の生物。


(なんだよ、わけわかんないよ!)


数々の非現実に襲われ、その上、命を危険に曝されるという理不尽な状況。

恐怖で脚がすくみ、心臓の鼓動が速くなる。

今、自分が巻き込まれた状況が、危険である事を理解せずにはいられない。



「おやぁ?いけませんねぇ、一般人を巻き込んではぁ」


褐色の肌の男は嘲笑うように言うと、寿矢を見る。


(なんだ、なんだ!?)


再び寿矢はパニックに陥いり、目まぐるしく変化していく状況について行けない。


「まぁ、良いでしょう。貴方にも死んで頂きましょう」


(は、死ぬ?)


有り得ない事態に巻き込まれ、有り得ない言葉を宣告される。


「ぐっ…」


痛みに耐えるような呻き声を出し、後ろ足を引きずりながら、寿矢の前に出る銀色の生物。


「おっ、おい!何やってんだよ!?」


銀色の生物から流れ続ける赤い血液。


「おやぁ、その体で戦うつもりですかぁ?」


くつくつと笑い出す褐色の男。


どう考えてもおかしかった、いきなり現れた傷だらけ喋る犬を、いきなり現れた男が殺すというのだから。

ただ、獣医の弟である寿矢にとって、動物を傷付けるという行為は、殊更人間がやってはいけない行為だった。


「おい、そこのお前!」


「ん〜?」


半目で声の主を見やる褐色の男。


「動物苛めて楽しんでんじゃねぇよッ!」


この状態で寿矢が言えるのは精々これくらいだった。


(ど…動物)


「くっ…くくっ…はははっ!」


笑い出す褐色の男。


「はっはっは!傑作だ!かの心食獣も、一般人に掛かれば動物呼ばわりだなんて!」


「何がおかしい!」

寿矢を無視して、腹を抱えて笑い続ける褐色の男。


「よいか、人間」


傷だらけの銀色の生物は、褐色の男に聞こえないよう、小声で喋りだす。


「妾が、奴を引き付ける、その間になんじは逃げろ」


「何言ってんだよ!その傷で動いたら死んじゃうぞ!?」


傷付いた動物を放って逃げるなんて事は、寿矢の性格上不可能だった。

ましてや寿矢の家は動物病院である、そんな事をしたら姉に申し訳が立たない。


 

「俺ん家、動物病院なんだ!そこで治してやるから!なんとかしてやるから!」


銀色の生物は金色の目を閉じる。


「…汝は面白い男だ…妾は汝を気に入ったぞ」


優しい、心の安らぐ声で喋る銀色の生物。


「汝、名は?」


瞳を開き、寿矢を見る銀色の生物。


「と…寿矢だけど」


銀色の生物の場違いな質問に少し動揺する。


だがその声を聞いた途端、何故か激しく波打っていた心が落ち着いていく。


 

「寿矢か…良い名だ…」


銀色の生物は、寿矢の名を心に刻むかのように静かに金色の瞳を閉じる、そして再び強い意志を込めたその瞳を寿矢に向ける。


「よいか寿矢、妾が奴を食い止める間に必ず逃げるのだぞ」


そう言うと、その決意のまなざしを褐色の男に向ける。


「お話は終わりましたかぁ?そろそろ殺しますよぉ」


「…」


アスファルトが砕ける程の力で踏み出し、銀色の生物に向かって走り出す褐色の男。

 

「我等の大義の為に死ねぇえええ!!」


そして銀色の生物に巨大な斧を振り下ろす。


「うわあああああぁッ!!」


我慢できなかった、いつの間にか走り出していた。


「なっ!?」


寿矢は気付いたら、勢いに任せて褐色の男に体をぶつけていた。


褐色の男は、バランスを崩す。

振り下ろした斧の軌道がずれて、寿矢の足すれすれの所に巨大な斧の刃が突き刺さる。


「馬鹿者!逃げろと言ったではないか!?」


銀色の生物が寿矢に吠える。


褐色の男は、地面に突き刺さった斧を、力ずくで抜き、それを振り上げる。


「そんなに死にたいならお前から死ねぇえええ!!」


寿矢は、銀色の生物を庇うように立ち、銀色の生物に向き直る。


後ろからは、褐色の男が振り下ろす斧。


寿矢は一言。


「ごめん、無理だった」


自分を逃がそうとしてくれた、銀色の生物に謝った。



そして、寿矢の目の前が闇に包まれる。


 

(あれ、俺…死んだのか?)


暗闇に漂う寿矢。


目が閉じているから暗いのか、それともその場所に光が無いので暗いのか、それすらも分からない。


(そうか、死んじゃったのか…)


急に、涙が溢れる。

自分の人生が終わりを告げた事が唯悲しかった。


(まだ、やり残した事もあったのに…姉さんゴメン…)


自分を愛し、育ててくれた姉に心から謝る。

涙がとめどなく溢れ続ける。


 

(あいつ、上手く逃げれてたら良いなぁ)


ふと、最後に出会った謎の生物を思い浮かべる。


悪足掻きで、あれは夢ではないのか、と疑ってみるが、それでは自分の死に説明がつかない。

その事を理解すると、また悲しさが溢れ出してくる。



「…寿矢…」



暗闇に響く優しい声


「誰?」


「良く覚えておけ…」


(なんだ?、急に体が軽く…)


鉄になったかのように、動かなかった手足が動かせるようになる。


「我が名は―」


急に、眩い光に包まれる。


「……」



・・・・・・・



(夢?)


辺りを見回す。

間違い無く自分の部屋のベッドで寝ていた。



勉強机、テレビ、目覚し時計、フローリングの床、カレンダー、全てが自分の部屋である証。

寿矢は、悪い夢でも見たのだと自分に言い聞かす。


(夢にしては…)


銀色の生物が頭をよぎる。


 

(リアルだったような…)


ゆっくりと体を起こし、テレビのスイッチを入れる。


「○×銀行に入った強盗は―」


殺伐とした内容の朝のニュース番組、だがそれは、いつもとなんら変わりない日常の一部。


(なんだったんだろう…)


夢の内容を思い返しながら、さっと窓のカーテンを開ける。


視界に入ってくるのは、見慣れた住宅街の景色。

やはりそこにも何も変わりは無かった。


 

「寿くーん、そろそろ起きなさいよー!」


下の階から姉の声が響く。

時計を見ると七時近かった。


「あ、もうそんな時間か」


クローゼットの中にある制服を着る為、ベッドから降りてクローゼットの戸を開ける。


(あれ、制服が無い?)


部屋を見回すが、帰って来て脱ぎ捨てた形跡は無い。


(おっかしいなぁ〜)


「寿君、起きなさいってば!」


ばん!と部屋のドアを力強く開けて、白衣姿の姉が入ってくる。


「姉ちゃん、俺の制服知ら―」


「あら、ちゃんと起きてるじゃない。着替えも済ませちゃって、いつもこうだと私も楽だわ」


寿矢は、姉の言葉で自分が今着ている服を確認する。


「あ」


その身には、探していたはずの制服が着込まれている。


「朝ご飯できたから、ちゃんと顔洗ってから来るのよ?」


そう言い残し、姉は部屋から出て行く。


(変だ…)


体中に戦慄が走る。


 

寿矢は、制服のまま寝るなどという事は、今までしたことが無かった。


(とりあえず…)


いつも部屋に帰って来たら、まず着替えるのに、今の自分の状況は絶対におかしかった。


(シャツだけ替えておこう)


だが、今解決できない事を深く考えない所が彼の長所だった。


そそくさとブレザーを脱ぎ、中のシャツを替えて再びブレザーを羽織る。

ネクタイの結び目を綺麗に整えたのを鏡で確認し、鞄を片手に部屋を後にする。


「おはよう、姉さん」


「おはよう、早くご飯食べなさい」


コーヒーを啜る、白衣の姉、里美。

何故朝から白衣を着ているのかと言うと、里美が谷崎家で動物病院を開いている、獣医だからである。


「姉さん、白衣汚れるよ?」


「いつもの事じゃない」


姉、里美はいつもエプロンの代わりに白衣を着ている。

寿矢としては、コーヒーの染みなどが付いたままの白衣で、患者の前に出て欲しくないのだが、何度言っても里美はそんな事は気にしない。


姉と二人の静かな食卓。


「寿君、そろそろ時間じゃないの?」


時計を見ると七時半を過ぎている。


「うん、そろそろ行ってくるよ。ご馳走さま」


流しに、自分の使った食器を片付ける。


「お粗末さまでした。あぁ、帰りに牛乳買って来て欲しいんだけど?」


「わかったよ。じゃあ、行って来るね」


「ええ、行ってらっしゃい」


 

そんな普通の会話をして家を出る。


(何も変わらない…やっぱり夢だったのかな?)


制服の件を考慮しつつも、やはり昨日の晩の出来事が、現実ととれる内容ではなかった。

そんな事を考えながら、いつもの通学路を歩いて行く。


だが現実は彼を打ちのめす。


(そんな…)


いつもの通学路の途中、昨日までは無かった立ち入り禁止の立て看板。


そこは昨日の夢だと思っていた舞台だった。

 

銀色の生物が現れた時にできたアスファルトのひび割れ。

緑の炎が爆発した時の地面の傷跡。褐色の男が振り下ろした斧が、寿矢の足下に突き刺さった時の裂け目。


全てがそこに存在していた。


(現実…なの…か?)


立ち入り禁止と安全第一の立て看板で囲まれた場所を見て、寿矢は呆然と立ち尽くす。

一般人にとっては、唯の何かの事故現場か、工事中の道路にしか見えないだろう。

しかし寿矢は、“これ”が何を意味しているか知っていた。


昨日の出来事が夢ではないという物的証拠。


それからしばらく、寿矢はその場所から動く事ができなかった。

はい、という訳で第一話だったんですが、いかがでしたでしょうか?(汗)

初ファンタジー投稿ですが、もっとこうしろよ、とか、とりあえずさっさとキャラに名前つけろ、などの意見があればガンガン言って下さい(笑)

この小説読んで楽しめたという方が、もしいれば、感想や評価を頂けると幸いです。


次回は、一話の大体の謎が解ける内容になるかと思います。

また良ければ読んでやって下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ