雑談
「ああ、私もファンタジーな世界に産まれたかったなぁ。そうすればいろいろ楽しかっただろうに」
《普通》少女は部室でひとりごちた。
「なんだ、またテストで悪い点でもとったのか」
先輩は見透かしたように返した。
《普通》は小さく舌を出し、
「へへ、アタリです。でも、そんな悪くはないですよ、平均点ですから」
「この世界でも平均点だということは、異世界でも平均点なんじゃあないか」
「そんなことありません。私はたまたまこの世界では普通なだけで、他所の世界ではお姫様かもしれませんよ」
自分で言っててもイタイ気がしたが、それを気にしたら負けかと思ったのでおくびにも出さなかった。
「そんなアタリのような世界で産まれるなら、宝くじを買って当たるほうがまだ現実的な確率だと思うがな」
平生通り、彼はリアリストだった。
「違います、この世界にはたまたま魔法がないだけで魔法があれば私だって個性で楽しい生活が送れるようになります」
「ここに魔法はないが科学はある。科学が理解できなければ魔法も理解はできないだろうさ」
「ファンタジーには魔法の武具があります、それをゲットできれば」
「ここには技術製品がある、電気も家電もな。アサルトライフルを持てば誰だって大量殺人者にはやがわりできる」
「ええ~なんで先輩、そんなに冷めてるの。よっぽど現実と折り合い付けてるですね~」
皮肉でいったつもりだが、彼の顔には少し陰りが見えた。
「いっておくがオレはファンタジーは好物だぞ。ただ本質を理解し適応する能力がなければ、人間は成功を勝ち取ることはできない、それだけは言っておきたくてな」
「でも、ファンタジーにしかないものもありますよ。火を防御するサラマンダーの皮とか、火ネズミの羽衣とか」
「石綿。アズベストがある。防火性に優れていて、火にくべると汚れが落ちることから火浣布と名付けられた。日本では平賀源内が発見したことで有名だ」
「かぶれば姿を隠せる隠れ帽子とか、天狗の隠れ蓑とか」
「生物学では虫の保護色、軍人だと迷彩服がある、SFだと攻殻機動隊の光学迷彩があるな」
「なんでも斬れる聖剣とか」
「映画のサムライブレードやSFのライトセイバーとかもあるな。ビームサーベルとかもか」
「ん~不死になる聖杯」
「それこそB級映画のラスボスが遺伝子工学とかでそれを得て、あっさり死ぬ数分前に出てくるじゃあないか」
「ん~ん~では、艱難辛苦を共にする種族を超えた素晴らしい仲間」
「それは……」
「それは?」
「それは確かに物語では容易にいるが現実で見つけることは何よりも難しいかもな」
妙に暗くて重い空気。
確かに伝説の剣より火ネズミの衣より、これを見つけることのほうが骨が折れそうだ。
《普通》は空気に押しつぶされた肩と頭を持ち上げると、
「先輩、私が間違ってました。やっぱりそーいうのは現実でつくろうと思います」
それがあればたぶん
どこでだってやっていけるだろう