グーデンベルグ聖書
校内にある大図書館には数々の書物が保管されていて、一般開放されているものから、予約が必要な史料、貴重な歴史史料が収められている。
「はい、これがグーテンベルグ聖書ですよ」
「わぁ、ありがとうございます《司書》さん」
とても綺麗な装飾がされた立派な本が目の前にあった。
「及びませんわ、でもなんでこんなものにご興味を?」
「ええ、あの先輩がグーテンベルグさんについて語ってたから、その……なんとなく気になったんです」
彼女はほほえむと、
「そうでしたか、ではこれが世界最初の印刷本だというのはすでにご存じですね」
「はい、少し刷ったあと借金とりに印刷機ごと取られたとか」
かわいそうな話だ。
「でも、これは最初の印刷本ですが最高の本なのですよ、装丁も字の美しさも、歴史的意味も、その価値もあらゆる本を超えているでしょう」
本一冊に対してずいぶんと美辞麗句をならべるものだ。
「おお、起源にして頂点ってやつですね」
「300部刷られたとの話ですがもっと少ないかもしれません、現存するのはわずか48部。そのうちのひとつがこちらというわけです」
「へぇ~触ってもいいですか」
「どうぞ」
ペラリ、妙に柔らかい紙ざわり、
「ところでこれっておくらなんです」
「オークションなので変動しますが、おそらく8億円前後のお値段がつくのではないでしょうか」
げっ、そんなにするの。
「はい、なにせ世界一高価な印刷本ですから」
借金に苦しめられていたグーテンベルグさんがいよいよかわいそうになってきた。
まさか死後にここまで評価されているとは、生前夢にも思っていなかっただろう。