00・プロローグ(改)
連載放置して書いてしまいました。今は公開している。短くてすみません。
異世界トリップというものを、オタクな皆さんだったらよくご存じのことだろう。オタクじゃなくても小説で普通にそういうジャンルがあるし、小説好きな人間なら絶対に一度は目にしたことがあるはずだ。だが、俺の言いたいのはナルニア国物語とか果てしない物語のような異世界トリップじゃない。いわゆる転生トリップ――「死んだと思ったら異世界で生を受けていました」系のアレだ。
『○$#×!』
『▽*&!』
やけにはっきり見える小さな両手と男女の顔、ぼんやりと滲む周囲の視界。意味が分らない言語を使うその男女は俺を取り囲んでいて、その格好はお世辞にも清潔とは言い難く、というよりもぼろだった。ずだ袋のほうがまだしっかりしているんじゃないかと思うほどのぼろ布をまとった少年と少女――としか言えない年齢の二人――に見下ろされ、俺は嫌な想像をしてしまった。俺は昔から想像力だけは逞しいと言われ続けてきたのだ。高校あたりからは妄想力と言われたが。
もしかして、俺、最下層に生まれたのか? ここがどんな世界かは知らないが、もしかして俺、ストリートで寝起きする方々の子供として生を受けたのだろうか。そりゃないわ神様……せめて一般市民だろ、何で根なし草の子供なわけさ。
「絶望」と言う程の悲しみはないが、顔を両手で覆って部屋の隅で泣きたいくらいには辛いし悲しい。何より俺はまだ二十四でこれから脂の乗る年齢だったし、結婚もまだだ。人間として以前に動物の雄として何もできないまま命を終えてしまったなんて寂しすぎる。
両手を握ったり開いたりしようとして力を込めるが人差し指がピクリと動いただけだった。紅葉のようなこの手は見るからにかよわくて、そんな手が付いているオレの腕は女子供でも簡単に折ってしまえるだろう。人間が未熟児で子供を生むというのは本当なんだな……手足を自分で動かせないし、もし手足が動かせたとしても頭を支え切れずに倒れるのは明らかだ。
悲しくて目が潤み、気が付けば俺はわんわんと泣いていた。