「やった…」
「やった…」
少女は部屋の中心でそう言った。理由は何だろうか。
テレビには少女の父が生放送で映っている、司会によって称えられスポットライトが当たるのはまさしく彼だ。
少女の父は年に一度のクイズ番組で最後まで正解を答え、賞金と名声を獲得したのだ。少女の父は俳優なのだ。
少女がやったと言ったその訳は、理由は父が成功を掴み喜んだからだろうか。
いや、まだそうと決まった訳ではない。
テレビの前のテーブルに放置された課題がある、課題用のノートは閉じられシャーペンのクリップがノートに挟まれ、テーブルの隅には消しカスがまとめられている。
少女は課題を既に終わらせたのだ、少女がやったと言った訳は、その場に他にも居た誰かに宿題をやったのかと問われ、返事をしたのかもしれない。
いや、しかし少女の向く先にはいくつもの写真がある。
父の横で緊張する娘の写真、そして看護師のコスプレをして笑顔のどちらも幼い頃の写真だ。
少女は父と共に俳優の道を進んでいた、父もまた娘の為に自身のコネを使い娘を大々的に宣伝していた。そんな甲斐もあって少女は世間に大々的に認知され、少女の出番は少なくともそのキャラクター像は大勢の人の目に留まった。
少女のあの言い方は強い喜びでは無かった、父の成功を喜びつつも同じグループに所属してると同義な父が注目される事で、恥ずかしがり屋の少女自身も注目されることを緊張したのか。
だが、少女の左手にはスマホが握られ耳元のそばにある。
通話しているのだろうか、であれば家族ではない、この時間は父も母も家にいる。若い少女が通話をする先は必然的に友人か恋人になる。
少女に恋人がいる、スマホの通話は専用のアプリによって常に記録されてるからわかるのだ。
少女は通話先の相手に何かを「やった」と伝えたのかもしれない、または相手からナニかをやったと伝えられ、つられてやったとつぶやいたのかもしれない。
だが…少女の右手には血の付いた包丁が握られている。
そうだ、そのナイフで私を刺したんだ。
ダメな父さんですまない、私は君に精一杯尽くしたつもりだったが、尽くしていたのは君自身じゃなく君の俳優活動だ。
私が君に話したことは「ほら、演技はこうするんだ」と「学校の成績をもっと上げろ」と「彼女はもう出来たのか?」だった。
外側だけで中身の無い会話、すべて芸能界で生かしてあげるための一方的な言葉。
思い返すと、君は演技の時いつも恐怖で怯えていたな。父さんが業界で得た知識とコネを使ってのし上げてやろうと思っていたが、君は最初から芸能界には入りたくなかったんだろう。
本当にすまない。
全ては話題の為で目立つならいいと思っていたんだ、若手女優として君の外面も内面もさらけ出させて、唯一の芸能界への恐怖以外の全てを世間に売った。君が幼い頃どうだったか、君がどう躓いてきたのか、君がどんな人を愛するのか。君のプライバシーという物を奪ってしまった。
母さんも見て見ぬふりをしていた、だから殺したんだろう?そして目立ちたくないという理由で別れるしかなかった元恋人に通話で話しているんだろう?
すまない、君の最高のキャリアの為に他全てを犠牲にしてしまって、本当にすまない。
…時間の流れが遅い、死に際のアドレナリンの様な物だろう、さようなら私の娘。
しかし、窓の外は混沌としていた。
家々が燃え、車は事故を起こし、道にはゾンビが歩いている。
そうか世界は終わるのか…!ははは…!そうだよ私の娘!私と君の母さんを殺しても、さらけ出された君の秘密は消えない。消すというのなら、全てが崩壊するしかない。
そのやったは混沌からくる恐怖、しかしそれこそが君にとっての最大の幸福だと理解したが為の言葉だ。口からこぼれる様に吐き言い、恐怖と共に深い安心をえた事による言葉の余韻。その二つが「やった…」を言わせたのか!
…全ては嘘だったんだな、芸能界の様に君と私の関係も。
ただ最後にやっとわかった、良かったよ…君が何を考えているのかわかって。




