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ルッキズム死ね。でも美少女にはなりたい。  作者: :)
第一章(2/28に全話投稿予定)

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5/25

そうか、この体なら百合が出来るのか

その後、彼女は僕をショッピングモールの婦人服売り場に連れた。


「一応言っとくけど、悠長に選ぶ余裕なんてないからね」


そうは言いつつ、彼女の選んだ『ソレ』はちゃんと可愛いかった。


「ほら、そこでチャチャっと着けてくる」


僕は、ティーンズ向けの、黒色で、真ん中に赤い小さなリボンが付いた、ありがたいことにホックなしのブラと、同じデザインのパンティーを手渡された後、試着室に押し込まれた。


「…」


女性用下着に初めて触れた。


下着購入イベント。それは、全TSスキーが今か今かと待ちわびる一大イベントで、主人公が葛藤しながらもメスであることを自覚していく様子を愛でることができる性の極地。これに心を燻られない野郎なんていない。いたらソイツはインポだ。殺せ。


けど…。


あんな話を聞かされた後に、そんなお茶らけた気持ちにはなれない。そんなことよりも、一刻も早くこの無防備な体を守りたい。

今はただ、このションベン臭い上下がありがたい…。


「…」

「あぁ…」


初めての女性用下着の着心地は、別になんてことなかった。


ちょっとキツめの布だよ。



 …



 「ちゃんと着てきた?」


試着室を出た後、彼女が僕に尋ねた。


「はい…」


「ふぅん」


弱々しく返事する僕の、起伏のない体をジロジロ見る彼女。


「な、なんスか…?」


「え?いや…」


彼女は意味深に咳払いをした。少しの沈黙が流れた。

後、彼女は改めて僕に尋ねた。


「で?この後、どうすんの?」


「どう、って…」


…もうこの街に用事は無いしなぁ。母さんに連絡の一つも入れずに(というか、メインスマホが無いから出来なかったんだけど)外出してるから、早めに帰りたいってのもあるし…。


「帰宅…、ですかね…」そう答えた。彼女は「そう…」と呟いた後、僕に手を振ろうとした。


が、直前、僕ははたと気づいた。


財布軽くね?


「は、80円しかない…」


手のひらに全財産を出して見せる。彼女は「…えっ?帰り、電車?」と尋ねた後、僕にほとほと呆れた顔を見せた。


「…アンタ、どこまでバカなの?」


返す言葉もない。


「世話が焼けるわねぇ、もう。じゃあ、それも立て替えてあげるかぁ…」


「…すみません。僕なんかのために、こんな…」


「…『なんかのために』って言葉、嫌いだから訂正しな?私は別に、『なんか』で片付くような人間を相手にするほど暇じゃないのよ。私が相手してやってる以上、アンタにはそれ相応の価値があるんだから、もっと堂々と…、えっ、僕?」


彼女の口からスラスラ出ていた小言がピタッと止まった。


僕、僕、その単語に反応したのだ。

僕、僕、僕


彼女がキョトンとして尋ねる。


「アンタ、僕っ娘なの?」


「…あっ」


やべっ。

完全に素だった。慌てて両手で口を塞ぐ。


そっか。おかしいよな。今の姿なら『私』が正解だよな。やっべぇ、男の片鱗見せた。

彼女が僕をガン見している。冷汗かいて目をそらしている僕をガン見ている。いやまぁ、一人称がおかしいくらいのこと、世の中にはそこそこある事案なのかもしれないけど。僕っ娘どころか俺っ娘だっているわけだし。


しかし


それはキャラだ。


僕の『僕』は、生まれついての『僕』だ。


…瞬間、一気に湧き上がる防御機構。僕が僕であることはバレたくない。当たり前だろう?だって、想像してみろよ。さっきまでの、反省して女々しく泣いていた様子や、ブラとショーツをつけている様子に、元の姿の僕を当てはめた絵面を。ちなみに僕は、1000円カットで切った前髪に、デカい鼻と顔に、身長と体重だけはやたらとある、汗っかきのニキビ野郎だ。想像できたか?キモいだろ?一気に距離を置きたくなるだろ?だからだよ。


だから、怖かったんだよ。彼女の次の一言が。嫌われたくなかった。幻滅してほしくなかった。会ってまだ30分も経ってないのに?それでも怖い。なんというか、誰かの期待を裏切ることが怖いんだ。僕は張り裂けそうな胸に命を押し潰されようとした。


…が、次の瞬間に聞こえたのは、舌打ちでも、嫌悪の悲鳴でもなく、


生唾を飲む音…、


「その顔で…、僕っ娘…」


そして、彼女は予想外の一言を口にした。


「めっちゃいいじゃん…」


「…へっ?」


よく見ると、彼女はゾクゾクしていた。それは僕が恐怖していたキモさ故の反応ってワケじゃなくて、


多分、興奮したからで…。


彼女は矢継ぎ早に言った。


「ね、ね、僕って、もっかい言ってみて?」


「えっ?」


「いいから、僕、僕って言って?ほら」


「え…、あ…、ぼ、僕…?」


「もっと、もっと」


「ぼ、僕…、僕です…、僕、だよー…?」


直後、彼女は僕を全力で抱きしめた。

いや、抱きしめたどころじゃない。思いっきり抱き潰した。僕は使い古された抱き枕のようにヘタったし、もちろん、顔は真っ赤になった。情欲を理由に女の人に抱きしめられるのはこれが初めてだった。


戸惑う僕に彼女は囁く。


「ごめんね…?いやマジで、こんなつもりでアンタを助けたわけじゃないのに…。でも、それもこれもアンタが可愛い過ぎるのがいけないのよ…?」


次いで、彼女は「付いてきなさい」と、それだけ言ったら、僕の腕をグッと引っ張って歩き出した。


「お金欲しいんでしょ?なら稼がせてあげる」


「えっ!?稼ぐ!?稼ぐって何!?お金はその…、くれるんじゃ…?」


「あげるわよ?対価さえ払ってくれればね」


対価?!


何?!何なの?!この人、良い人じゃなかったの?!何で僕を握る手が汗まみれなの?!こっちをチラチラ見て「かわいい…」って呟き続けてるの?!そして僕、どこに連れてかれるの?!


怒涛。それに見舞われている内に辿り着いたのは、並木通りの一角にある、ファンシーな風貌をしているカフェ、『ドビュッシー de パラダイス』だった。『準備中』の札がドアにかかっていた。


稼ぐって、もしかしてココで?


「そう、ココでね。…あっ、大丈夫。ココ、友達がやってる店だから、怪しいお店とかじゃないから」


「は、はぁ…」


別に聞いてないけど…。それともアレか?場合によっては怪しいお店に連れ込むこともあるってのか?いやまぁ、この人に限って、そんな騙し討ちみたいなことはしないだろうけど…。


「…まぁ、カフェっても、コンカフェだけどね」


「!?コンっ、カッ…!?」


前言撤回。瞬時、僕はその単語を中心に色んなことを連想した。コンカフェ。コンカフェ。検索候補。次いで僕は彼女の体験談を思い返す。ちーん。

そうして怯え出した僕は、今に扉をくぐった彼女を綱引きみたいに引っ張り返した。


「うわっ、ちょっ、力強っ…!えっ、急に何!?」


「何って…、それはこっちのセリフですよ!カフェでお金稼ぎって言うから、給仕のバイトでもするのかと思いきや…。こっ、コンカフェってアレですよね!?行ったことないからよく知らないけど、女の子がいかがわしい格好をして、男の人にご奉仕する場所ですよね…!?水商売…、性奉仕…、肉欲の園…!そっ、そういうことはシちゃダメだって教えるために、さっきは僕を救ってくれたんじゃなかったんですか!?それなのに、どうして…!」


コンカフェで働く自分の姿を想像する。

怖い。嫌だ。自分からケツを振りにいくなんて無理だ。僕はもう、男性のアレをオス様のチンポだなんて思えない。アレは、僕の人生をぶち壊せる凶器なんだ。


チラッと背後を見る。道をまたいだ歩道に、僕達の喧騒を眺めているおじさんがいる。アイツだって、果たしてどこを見ているか分かったもんじゃない。もしかしたら、荒ぶってはだけたナイトドレスから見える僕の鎖骨や脇を視姦してるのかもしれない。

あぁ、体躯。無くなってしまった僕にはもはや夜道を一人で歩く勇気なんてない。


怯える僕に彼女は弁明する。


「たっ、確かにココは割とアングラなコンカフェだけど…!本当に大丈夫なのよ!」


「はぁっ!?大丈夫って…、何を根拠に!?」


「何って、そんなの決まってるじゃない!」


彼女は一呼吸おいた後、決定打のように言った。


「だって私は、ここでバイトしろとは一言も言ってない!」


「…!」


その発言で、僕はようやく抵抗を止める。


「…しないの?」


「しない!」


「…本当?」


「本当!」


「キモいおっさんとか来ない…?」


「来ない!」


「ベタベタ触られたりしない…?お持ち帰りされない…?パコパコされて、いつの間にか孕まされたりしない…?」


「されない!何もならない!お金稼ぎって言うのも、単にこの店でちょっと私のお願いを聞いて欲しいだけだから!」


真剣な目でそう言う彼女。いつの間にか奥から出てきた店主らしき女性が「いつからココはアンタの店になった?」と横から突っ込む。

しかし、彼女は店主さんに中指を立てた後、諦めず僕を口説く。


「…絶対!絶対に危害は加えない!本当に大丈夫だから!お願いだから!ね?」


「…うぅ。そ、そこまで言うなら…」


僕は渋々頷いた。

まぁ、何だかんだ変な人ではあるけど、あの過去からして、本当に変なことはしない人だってのは、何となく分かるし…、

信用しても、まぁ…、いいよね…?


だが、彼女は僕の両足が店内に着地した瞬間、確かに悪魔的にほくそ笑んだ。


「…とりあえず、お代は10万円くらいでいいわよね?」


んぁ?何が?


僕がそう言葉にするよりも先に、彼女は懐から出した、5000円まじりの10万を僕の頭の上にのせた。


「はい交渉成立~。ってことで今からアンタは私専属のキャストさんだから、どんな命令も逆らっちゃダメだからね?」


直後、店の扉がガチャンと閉まった。


「へっ?」


開店前の暗い店内。僕の腕を掴んで離さない彼女の目だけが光る。


慄く僕に、店主さんが神妙な顔して尋ねた。


「ねぇ、貴女本当に大丈夫?アイツ、拗らせまくって、今じゃ生粋のレズだってこと、ちゃんと知ってる?」


「えっ」

「えっ、ちょっ」

「まって?えっ?えっ?」


間もなく、僕は更衣室に閉じ込められた。


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