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ルッキズム死ね。でも美少女にはなりたい。  作者: :)
第三章(一日2話ペースで投稿予定)

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17/25

何を期待されているか分からないって状態が一番怖い

期待通りの働きをしたいという奴隷願望だけが人間の価値基準なのです。

思えば、僕は何も知らなかった。

知る余地が無かった。この姿になってからがあまりにも怒涛過ぎて、僕にはゆっくり考える時間がなかった。


でも、今なら問える。


この姿になった理由。


なんで僕は、吸血姫に選ばれたんだ?

なんでコイツはこんなにも僕のことを好いているんだ?

なんで僕なんだ?

僕になにか、主人公らしい特別な要素があるのか?

あるかボケェ。特別な体験をした覚えもない。吸血鬼に襲われていた処女の婦警だったり、三月二六日にエロ本買った帰りだったわけでもない。


ならばこそだ。

なんで僕は、今にこんなにも恵まれていて、こんなにも不幸なんだ?


「君を選んだ理由、か…」


僕はコクリと頷いた。息を呑んで答えを待った。


なのに、このクソビッチは当たり前のように僕の期待を裏切る。


「ふむ、やはりよく分からんな。行動や好意に意味を求める理由が…。『なんとなく』じゃダメなのか?」


「…は?」


イラッとした。


「ダメに決まってんだろハゲ。何事も目的あってこそだろ?『コイツはアレを持ってるから』とか『アイツにはコレが期待できるから』とか。そういう実利がなけりゃ、行動も好きって感情も芽生えないはずだろ?それが近代人ってもんだろ?」


「うーむ、君のそういうトコロは嫌いだな。それとも君は、いちいち誰かに同意されなきゃ行動が出来ないのか?君よ、年長者の立場から図々しく言わせてもらうが、幸福とはすなわち地を這うことなのだよ。考える葦を自負して誉れ高く地に足をつけることじゃない。幸せは束縛など生じさせない。いかなる誉れも宿さない。あらゆる勲章は自由を侵害するレッテルであり、糾弾されなければならない。大地こそが唯一の母であると知り、ミミズのように地を這い、蹄で踏み躙られた雑草を食み、誰のと知らない小便溜まりを啜って、泥を全身に塗りたくりながら交尾する。名もなき獣。己という檻を吹き飛ばす爆発。躍動。除隊された軍人。解放。銃弾のような生と死。それこそが、真に生物幸福、原始的であり生命本来の在り方なのだよ」


「いきなり意味分かんねぇ講釈垂れてんじゃねぇよタコ。すっぽんぽんの奴が何を言っても賢く見えねぇぞ。こっちは端的に動機を教えろって言ってんだ。僕の魂を体に取り込もうと考えた以上、何か意図があったんだろ?三行でまとめろコラ」


「意図、意図ねぇ。『君に惹かれた』『君が大好き』『君と一緒に幸せになりたい』じゃあ、君は満足しないんだよなぁ。うーん、何かあったかなぁ」


はた、と吸血姫が何かを思い出した顔をした。そして言った。


「あぁそうだ。君は、誰よりも私を望んでいた」


「…だから?」


「だから、君なら喜んでくれると思ったんだ。私の顔や体を自由に使えることを」


「…それで?」


「それで、案の定、君は喜んでくれた。私も嬉しかったね。私の力じゃなくて、見目を称えてくれる君を、何よりも特別な存在だと感じた。そして、君なら私と、この体で幸せになってくれると確信したんだ」


「…それが説明できる全てか?」


「そうだ。中々にドラマチックだろう?」


吸血姫はふふんと胸を張って得意げにした。


確かに、彼女は述べた。動機も、理由も、目的も。


しかし、全て浅すぎる。動機としても、理由としても、目的としても、全てが短絡的だし、軽率だし、刹那的だ。それに、やろうと思えば誰にだって当てはめられる内容だ。それは僕を選ぶ理由にはならない。


何か、絶対何か隠してる。隠してるだろ。そうに決まってる。そうじゃなきゃ、それはそれで問題だ。


…だって、僕を選ぶ理由は、つまりガーネットを殺した理由なんだ。

あんなに忠実だった部下を、簡単に切り離した理由なんだ。


だからこそムカつく。はぐらかすのはムカつく。もっとちゃんと受け答えしろ。


僕は嫌がらせに言ってやった。


「…はっ、お前アホだろ。僕は男だぞ?童貞だぞ?キモオタだぞ?中学3年生だぞ?そんな奴に"体を預けることの意味"、分かってんのか?」

「幸せとは程遠い、思いつく限りの尊厳破壊をしてやろうか?頭にパンティ被って、口にコンドーム咥えて女子校を襲ってやろうか?全裸で街中走り回って、人の車のフロントガラスの上で立ちションしてやろうか?野良犬とバコバコ交尾して何匹も子犬を孕んでやろうか?脅しじゃなくてマジでやってやんぞコラ」


…まぁ、しないんですけどね。だって、そんなことしたら糸ちゃんに泣かれるし。


けど、口走るだけなら別に良い。脅すためなら、いくらだって良い。


ふるふる震える吸血姫。汗ばんだ両手で僕の両肩をぎゅっと握る。


そうだ、良いぞ。泣け。僕を選んだことを後悔しろ。浅はかな選択をしてしまった自分を責めて、頭おかしくなっちまえ。


我慢できなくなった彼女は顔を上げ、告げる。


後悔の言葉を…。


「…素晴らしい!」


「そうか!そんなに嫌か!なら仕方ないから止めてやろu…、えっ??今なんて???」


戸惑う僕の一方で、吸血姫は両手を広げ、キラキラした目で、昂りに昂り言う。


「素晴らしい!素晴らしいぞ君!その欲望にまみれた姿勢!銀行強盗のような思想!黄金で肉を焼く!それこそが幸せ、幸せだ!なんだ、君もよく分かってるじゃないか!それでこそ私が生涯の伴侶に選んだ男だ!」


…!???


「しかし、ふむ…、この体は吸血により繁殖を行うから、性器こそあれど、交尾による生殖機能は備わっていない…。それに排泄機能も、栄養を超高効率で吸収できるこの体には無い…。あ、いやなに、心配はいらないぞ我が半身!何とかしよう!私の意志を肉体に介入させ、体を作り変えてやる!明日までに、ちゃんと排尿も排便も出来て、どんな生物の子でも孕めるようにしてやるから心配するな!」


「心配だよ!お前の貞操観念が!」


僕はたまらず叫んだ。


暴走を止められた吸血姫は、「え…?やらないの…?」と言わんばかりの悲しそうな顔をしている。するわけねぇだろ馬鹿か。馬鹿、ほんと馬鹿。もっと自分を大切にしろ。


「…あぁ、もう、お前と話すのやだぁ…。何でこんなに常識が通用しないのぉ…。人外の怪物って、みんなこんな感じなのぉ…?」


僕は負けた。

たまらず、ポロポロ泣いた。


落ち込む僕を見て、吸血姫は静かに僕の頭を抱き寄せて、我が子のように慰めた。


「大丈夫、大丈夫だ我が半身。君はいつもよくやっている。もっと自信を持て。私はいつだって君の味方だ」


優しい言葉。あぁ、コイツのこういうところマジで嫌い。加害者だろテメェ。しゃしゃんな。


…あぁ、そうなのか。僕、こんなイカレポンチと一生一緒なのか。変に美少女吸血姫に成りたいと願ったばかりに。なんだこの因果応報。故事かよ。


辛い。もうマジ無理。死んで楽になりたい。

でも、吸血姫って吸血鬼だから不老不死よな?いや、不老不死どころか、コイツの体は太陽の光でも立ち眩みするだけだったな。なにそれ。究極生命体じゃん。どうすんのこれ?


…あ、でも、一度は死んでるんだよなコイツ。

一応…、死ねはするのか?

方法、教えてくれねぇかな。


…ついでに、僕の死因も教えてくれねぇかな。


知ってんだろ、多分。


僕がTSに性癖を歪められてることも知ってたんだし。


「…」



…そもそも、だ。


何で僕は都合よく死に際の記憶だけ思い出せないんだ?



そこまで考えた瞬間、吸血姫は分かりやすく僕の思考に口を挟んだ。


「おっと、もう時間のようだな。いやぁ、精神世界の時間の経つ速度の速いことよ。見ろ、外はもう朝だ」


その言葉の後、この世界にまばゆい光が差し込んだ。それはまるで、カーテンの隙間から部屋に入り込む陽の光のようだった。


…良いところで都合よく挟まるアニメのエンディングのようだった。


吸血姫が僕から手を放す。直後、世界が徐々に輝きに潰されていった。ソファも、机も、吸血姫の姿も、実体を失い薄れていた。


ソファに裏切られて地面に尻もちをついた僕は、今に消えゆく吸血姫に手を伸ばす。


「あ!おい待てコラ!逃げんな!僕の死因だよ!知ってるなら教えろ!」


もう殆ど姿が見えない吸血姫は、多分、苦笑いしながら答えた。


「それは出来ない相談だなぁ。だって、それを教えたら、君は永遠に幸せになれない。きっと、過去に向き合うことに必死になってしまう。だが、私はよく知っているのだ。贖罪は、社会性が為す自己満足に過ぎないと。現在の不自由さと未来への希望の少なさが為す自己肯定に過ぎないと」

「…そうではない。君には、そんなことに囚われてほしくない。私は、君が嬉しそうに、幸せに生きることを望んでいる。そのためにも今を、今を見つめてほしい。手にある自由を大切にしてほしい。だから、ぜひ私を恨んで、私への不信感を募らせてくれ。君が喜びに満ちた毎日を送れるなら、私は進んで黒幕になろう。それこそ、私にとっての幸せだ」


そして、「明日も会おうね」とだけ残して吸血姫の姿は完全に消えた。


僕は納得しなかった。光の中で必死にもがいた。「僕は誰に殺された」と何度も叫んだ。


…しかし、僕はいつの間にか、寝ぼけ眼で見慣れぬ部屋の薄暗さを捉えていた。


「…んぁ」


ベッドの方からコア子のいびきが聞こえる。見ると、彼女は布団を蹴っ飛ばして、頭から床に落ちかけていた。


時刻は6時。


僕は、仕返しをするべく自分の腹を殴って、えずいた。


犬女女女すき

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